第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Dパート 決戦への道程】
Ν-ネメシスが安置されている遺跡の真上。
前回の出撃の際に地崩れを起こして禿山になっている場所に、3機のキャリーフレームが突っ立っていた。
X字のスラスターが特徴となるレーナの〈ブランクエルフィス〉。
大きなレールガンと一体化した右腕を持つカーティスの〈ヘリオン〉。
そして、両手にビームピストルを持った〈エルフィスMkーⅡ〉。
「50点、遅かったじゃない」
「ガキンチョ、さっさと配置につきやがれ!」
口々に言うレーナとカーティスに従い、ハイパージェイカイザーを着地させる。
むき出しになった赤茶色の土がその重さを支えられず、すこし沈む感触に裕太は肝を冷やしながら、〈エルフィスMkーⅡ〉の方へとカメラを向けた。
「そのMkーⅡ、誰が乗ってるんだ? まさか銀川じゃ?」
「フッハハハ! 彼女は未だ自室で唸っている。ここにいるのは天才の僕さ!」
自信満々な進次郎の声に、裕太は肩を落とす。
この中で一番、実戦経験が薄い彼が出なければならないほど状況は深刻なのか。
「フッ、失礼なことを考えているな裕太。この僕の力量が果たして足りると疑問に思っている……どうだ?」
「お前、ExG能力者だったっけか?」
「長らく親交していれば、この程度のことは能力などなくても手に取るように読める。サツキちゃんのためにも勝利を手土産とすることを約束しよう」
「進次郎様~! わたしはあなたに勝利をもたらしてあげますよ~~!」
「う、うむ! そうだな!? よろしくたのむ?」
レーナの圧に押されてタジタジな進次郎の様子に、裕太はクスりと笑ってしまう。
後方の内宮が「大変やなあっちも」と他人事なのが、なおさら面白い。
ひとしきり笑ったところで、モニターに艦長席に座る深雪の姿が映ったので、裕太は改めて操縦レバーを握り直した。
「さて、皆さん準備はよろしいでしょうか?」
「はーい、艦長! わたしはバッチリよ!」
「それは良いことです。現在Ν-ネメシスは、本格起動最終段階一歩手前となってます。ですが、おそらく間もなく黒竜王軍の大部隊がこちらへ攻撃を仕掛けて来るみたいです」
「せや、疑問に思うとったけど。敵が攻撃仕掛けてくるなんて、なんでわかったんや?」
言われてみれば妙である。
敵が接近してきているとレーダーに反応があるわけでもなく、怪しげな前兆すらも起こっていない現在。
それだというのに深雪が黒竜王軍の接近を感づいているのは謎であった。
「ああ、それなら匿名でタレコミがあったんですよ。十中八九フィクサさんからでしょうが」
「フィクサが?」
「ええ。何重にも遠回しで人づてに情報を回したつもりでしょうが、情報の内容でバレバレですけど」
「なんだ嬢ちゃん。ってぇと、黒竜王軍が黒竜王軍の攻撃を教えてくれたってことか?」
「おそらく彼らの組織は一枚岩ではないのでしょう。島直上への転移は艦内から魔法騎士エルフィスさんに魔法的なやつで防いでもらっているので、キャリーフレーム隊は外洋上空での迎撃をお願いします」
「島の連中は手伝うてくれへんのか?」
「望み薄ですね。我々が外様な以上、彼らとしても攻撃対象にならない限りは静観を決め込むものと考えられます。また、第一波を凌いだら追撃が来る可能性が濃厚なので、皆さん程々に頑張ってください」
程々にって言われても困るなと裕太は頭を抱えた。
なにせ、今現在レーダーに次々と映っていく敵の反応数が、あっという間に3桁を超えてしまったからだ。
前方に広がる大海原の上空に、次々と開いていく異次元への大穴。
その穴の中から、こぼれた砂粒のように続々と姿をあらわす黒竜王軍の魔術巨神。
「こりゃあ……ひとり何体倒せばっていうレベルじゃないわね?」
「んだな。やたらめったら暴れるしか無え」
「フ……天才にふさわしい戦場──と言いたかったよ、さっきまで」
「ぼやくなよ進次郎。内宮と操縦かわるか?」
「ここで退いたら男がすたる!」
次々とバーニアを吹かせて発進する各機。
裕太も後を追うように、ペダルを力いっぱい踏み込もうとして、携帯電話が震えていることに気づいた。
通知をしていたのは、一通のメールの受信。
「銀川から……?」
その文面にはひとこと「無事を祈っています」とだけが書かれていた。
後ろから覗き込んでいた内宮に茶化されながらも、裕太は少しだけ勇気が湧いた。
…………Eパートへ続く




