第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Cパート 英雄は語る】
「深雪は……娘の様子はどうだ?」
コンビニ前のベンチに座り込み、店員から礼にと渡された缶コーヒーを開ける遠坂艦長。
裕太もまた、渡されたリンゴジュースのペットボトルの缶に手をかける。
「元気……というにはたくまし過ぎるくらいには元気ですよ。えーと」
「私のことなど遠坂と呼び捨てにでもすればいい」
「それじゃあ、遠坂艦長」
「何だ?」
「さっきの犯人捕まえた分前っていくつですかね?」
「ブフッ」
裕太の質問が予想外だったのか、飲みかけたコーヒーを吹き出す遠坂艦長。
とは言え、裕太にとっては死活問題なのだから仕方がないのではある。
「我々は後始末をしただけだ。報酬は全て君のものだ」
「よっしゃ!」
「……他に話題はないのかね?」
「そうですね……」
渋い声で質問を振られて、考え込む。
ここで出会ったのも予想外だし、そもそもなにか話があってここに来たわけでもない。
せっかくなので、裕太は先程引っかかったことについて尋ねることにした。
「さっき、我々……と言いましたけど、お仲間が?」
「私とてここに居着いてから短いわけではない。この様な島で生活するに困らないだけのコネクションや、同志程度はいる」
「そうですか……」
また質問に詰まってしまう。
せっかく、歴史書に乗るような人物を前にしても、いざ会うとなると振る話題には困るものだ。
少し悩んで、裕太はピンと閃いた。
「そうだ、じゃあ遠坂艦長から俺……えっと、僕に質問はありますか?」
「ふむ? そうだな……先程の戦い、見事だったな。あの技量は若い頃の銀川を思い出す」
銀川、というのはエリィのことではなく、彼女の父親である銀川スグルのことであろう。
歴史的な英雄と同列に並べられ、なんだか裕太は照れくさくなった。
「君は、あれだけの腕前をその若さで。どのような訓練を経たのだ?」
「訓練というと、幼い頃からの母からの指導ですね。自分はこう、音楽とか習字とかいった文化的な習い事は苦手だったので、なにか一芸でも仕込みたかったんだと思います」
「なるほど、君の母親から……」
「子供の頃には、自慢になるかもしれませんが地方のフレームファイト大会で大人たち相手に優勝したこともあります」
「それは凄いな。天才型の銀川と逆に、まさしく努力の子といったところだな」
「銀川スグルさんは、どんな人なんですか?」
会話の中で生まれた質問による素早い切り返しに、裕太は心のなかで自分を褒めた。
自らを上げまくるような話を続けるのが憚られるのは、裕太が純粋な日本人であることに起因しているのは間違いない。
「銀川は、ヘルヴァニアが木星へと攻撃を仕掛けたあの日、初めてキャリーフレームに乗ったのだ」
「それが、あのエルフィスですか?」
「そうだ。初陣で敵無人戦闘機を全滅させ、指揮官機を撤退に追い込んだ」
「初乗りでそれなら……すごいですね」
書物などで読み聞いたよとはあったが、実際にその活躍を生で見た人間の口から聞くのは、ひと味もふた味も印象が違った。
キャリーフレームを操縦するだけなら、操縦系の都合上子供でも不可能ではない。
しかしそこから戦闘機動を、しかも未知の集団相手に発揮して一方的に勝つなんて、常人には不可能だろう。
「しかし、銀川の強さの源には奴自身の努力ももちろんあったが、ExG能力の存在も大きかった」
「あの人も能力者なんですね」
「ああ、しかも格段に優れた能力者だ。しかし、君は確か非能力者だろう? その生まれで戦い抜いてこれたのならば、君の潜在能力は銀川以上かもしれん」
裕太はベタ褒めされて恥ずかしいながらも、本当にそうなのだろうかという気持ちも一緒に渦巻いていた。
それはもちろん謙遜混じりであることも確かだが、支援AIであるジェイカイザーの存在。
それからハイパージェイカイザー操縦時にはいつも誰かがサブパイロットについてくれていた。
自分一人の力ではないのに手放しで褒められても、素直に喜べないのが裕太の人情である。
【4】
それから裕太は、遠坂艦長と飲み物の缶を3本ずつ空っぽにするまで長々と話し込んだ。
学校でのエリィとの生活、これまで経験した戦い、半年戦争で起こった事、戦争終結後の苦労話。
様々な話が交錯し、一人の少年と中年の気持ちを解きほぐしていった。
そんな時だった。
「笠本はーーん!!」
道路の向こうから手を振りながら、二脚バイクで走り込んできたのは内宮。
その表情は迎えに来た、というよりは一大事を報告しに来た、というような風である。
「何かあったのか?」
「深雪はんが、敵が来るのが近い言うててな。笠本はんを呼び戻すように言われたんや」
「わかった。内宮、サブパイロットを頼めるか?」
「お安い御用やで!」
休憩をするには時間をかけすぎたな、と思いつつ立ち上がる裕太。
レンタルだった2脚バイクを遠坂艦長に預け、ハイパージェイカイザーに内宮とともに乗り込む。
「笠本裕太くん」
コックピットハッチを閉じる前に、外から呼び止められた。
前のめりになって顔を出し、足元の遠坂艦長を見下ろす。
「娘を……深雪を頼む」
「お断りします」
「なに?」
「親として心配だったら、直接行けば良いんですよ。それでは」
ハッチを閉じ、機体を起動する。
子供の気持ちとしては、実の親には人づてに心配を伝えられるよりは、直接来てほしい。
そのことが彼に伝わっていればいいなと思いながら、裕太はペダルを踏み込んだ。
…………Dパートへ続く




