第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Bパート 娘と父】
【2】
「あ、笠本さん」
「おろ、遠坂さん」
予定を立てようと艦内の廊下を歩き回っていた裕太。
いつの間にか艦橋近くまで来ていたようで、ちょうど廊下に出てきた深雪とばったり出会った。
「その……フィクサとのこと、もう大丈夫なのか?」
「ええ、私はタフですから」
「そういう問題かなぁ」
父親との決別の直後に、慕っていた人間の突然の裏切り。
もしも自分が深雪の立場だったら一ヶ月は立ち直れないだろう。
そう思いながら、深雪と共に廊下の壁にもたれかかる。
「あの様子ですと、あの人とはまた何度でも会う機会はあるでしょう。彼の本心は、そのときにゆっくりと聞くつもりですから。もちろん、拳銃のひとつでも向けながらですけど」
「タフだなぁ」
「よく言われます」
彼女のタフさの源が、彼女の家族に降り掛かった悲劇であることは間違いない。
しかしそんな出自であっても強さを持ち続ける彼女の姿に、裕太は少しだけ奮起を促された気がした。
それは年下の子に負けてなるものかという、幼稚な反骨心かもしれない。
けれど、それは確かに裕太という一人の男に生まれた活力なのだ。
「ああ、そうだ。笠本さん」
話を変えよう、という体で深雪が振り直る。
「ナニガン艦ちょ……今は副艦長でしたね。あの人から出撃命令です」
「出撃? 黒竜王軍が来たのか?」
「いえ。お手伝い、だそうです」
「お手伝い?」
※ ※ ※
修繕が一通り終わり、内装が綺麗に元通りとなった〈エルカーゴ〉の艦橋で、グレイは足を組み書類を眺めていた。
その書類に刻まれた文字、それは黒竜王本国軍が央牙島を総攻撃するという事実を綴っている。
「予想通り、という感じだな。フィクサ」
「今の黒竜王軍の内状的に、あの艦を手に入れるのには大きな意味があるからね」
フィクサの言う大きな意味、というのは至極簡単な話である。
それ即ち、次期黒竜王軍のトップの座。
現在フィクサが就いている地位は、そもそもなし崩し的に与えられたものである。
集団の絶対的長である黒竜王が戦死し、後継のゴーワンは消息不明。
残った者の中で最も多くの功績を残していたのがフィクサだった、ただそれだけである。
実力主義が組織の形をしている黒竜王軍にとって、戦力となるだけでなくテクノロジーの解析により自軍の強化に結びつく埋没戦艦の獲得。
それは次期リーダーの座を獲得するには、十二分すぎる功績である。
そうなれば役割分担を放棄してまで、フィクサの代わりに本国軍が出てくるのも無理のない話なのだ。
すでに組織としては瓦解寸前であるにも関わらず、このような手に出る者がいるのは、黒竜王のワンマン体制のツケであろう。
「僕としては、このまま本国の連中に好き放題されるのは好ましくないけどね」
「ではどうする? 俺たちの手で笠本裕太たちにこのことでも伝えるか?」
「そうだね、彼らならばこの窮地を何とかするだけの底力はあるだろう」
「奴らの力を買っているのだな。ロリコン行為の功績か?」
「その言い方はよしてくれといっただろう、グレイ。それに……」
含みのある言い方をしたフィクサに、グレイはこの場を任せることに決めた。
グレイにとっては、笠本裕太と決着をつけることこそが望みなのだから。
【3】
「なんだぁ、コラァ! 俺たち宇宙海賊の問題に、首突っ込もうってぇのか!?」
スピーカー越しに吠える〈量産型エルフィス〉を相手に、裕太はひとりコックピットの中でため息を吐いた。
「こっちも今は、ネメシス海賊団所属なんだけどなあ」
深雪づてに伝えられた出撃命令の内容。
それは島の中央街で暴れ始めたキャリーフレームの鎮圧だった。
ここ央牙島は、表向きには宝島というわけではない。
悪名ある宇宙海賊や宙族といった、日の下を歩けない宇宙ぐらしが地球へ降り宇宙へ昇る玄関口。
そして補給や休憩を取る非認可の宇宙港というのが、裕太たちや黒竜王軍以外のこの島に対しての認識である。
非認可故に警察などの治安維持組織はおらず、揉め事が起こった際に島にいる誰かがそれを止める。
それがこの島における暗黙の了解だった。
「オーバーフレームなんざ持ち出したところで、怖かぁねえがんな!」
震え声で虚勢を貼る〈量産型エルフィス〉。
廉価版とはいえ落ちるところまで落ちた英雄機の姿に、裕太はげんなりとする。
「キャリーフレームでコンビニ強盗だなんて、お前恥ずかしくないのかよー!」
「うるせー! 俺たちが食いもんを食うのになにが問題あるっでのがよー!」
「その手段が問題なんだって、まったく!」
とは言え、この鎮圧を請け負うことには裕太にも利があった。
揉め事によって発生した損害や、治安側の手間賃は揉め事を起こした側が請け負うことになる。
つまりは、鎮圧に無事成功すれば駄賃が目の前の連中から出るのだ。
食うに困ったとはいえ宙賊、貯蓄がないはずがない。
裕太はレバーを握り、横にひねる。
ジェイカイザーのときに太ももとなっていた部分から、電磁警棒を取り出した。
こちらが武器を抜いたと見るやいなや、ビームセイバーを取り出し構える〈量産型エルフィス〉。
振りかぶって向かってくる一瞬の隙をつき、ペダルを踏み込んでバーニア噴射。
大振りな縦一文字を真横にかわし、すり抜けざまに相手の腰部関節へと警棒を差し込むハイパージェイカイザー。
パァン、と稲妻が音を立てて弾けたあと、〈量産型エルフィス〉は前のめりに倒れ込み動きを止めた。
『久々の暴徒鎮圧、お見事でございますご主人様』
「ありがと、ジュンナ。それにしてもこの警棒、久々に使ったな」
『最近は犯罪キャリーフレームとの戦いも少なかったからな。ジュンナちゃん、頑張った私にもお褒めの言葉を……』
『あなたの貢献度はゼロ%です。かける言葉が見つかりません』
『せめて笑ってくれぇー』
AIの夫婦漫才に乾いた笑いで相槌を取る裕太。
さて、犯人の面でも拝んでやるかと倒れた機体に目をやったところで気づいた。
コックピットが開いている。
「ジェイカイザー、敵機の生体反応!」
『むむっ! 無いぞ! まさか無人機かっ!』
「バカ言え、逃げたに決まってるだろ! 逃したら責任追及か面倒になる! なんとか──」
「犯人なら、我々の手で捕まえておいたぞ」
足元から聞こえた声に、カメラを下に向ける。
そこに映っていたのは、深雪の父でありかつての英雄、遠坂艦長だった。
…………Cパートへ続く




