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第29話「伝説の埋没戦艦」【Hパート ダシ汁】

 【8】


 Ν(ニュー)-ネメシスの一室、ラウンジと仮称した多目的室に呼ばれた裕太は、エリィたちとともに椅子に腰掛けていた。

 内宮やレーナが頭を抱えたり進次郎やサツキが首をかしげる中、部屋に深雪が入り、一礼する。


「皆さんに集まってもらったのは、他でもありません」

「……人間の生命力をエネルギーとするこの艦を、どうやって動かしたかの説明だろう?」


 いつになく真剣な表情で、進次郎が問いかける。

 深雪はその迫力に一切気圧されることもなく、冷静に指先で自分の眼鏡を持ち上げる。


「最初に言っておきますが、決して誰かの命を犠牲にしたり、非合法な手段をとったわけではありません」

「といってもぉ、実際にこの艦が動いたのは事実でしょぉ?」

「せやで、どんなトリック使つこうて動かしたんや?」

「そーよそーよ、あれ程の兵器をぶっ放せるエネルギーなんて、どこからもってきたのよ?」


 レーナの質問に対し、深雪は彼女らを指差すことで回答した。

 エネルギーの素だと指さされ、互いにキョロキョロと見つめ合う女性陣。


「あたしたちが、何かしたかしらぁ?」

「はい。戦いが起こる前に、一緒にお風呂に入りましたよね?」

「確かに入ったけど、それが何やねんな」

「生命エネルギーというのは、いうなれば細胞の持つエネルギーなのです。それは、体内の老廃物を構成する古い細胞であっても微量ながら含まれております。つまりは、人間がお風呂に入ることによって落ちた垢や汗、その他の汚れが入り混じった、いうなれば人間のダシ汁がエネルギー源なんですよ」

「「「「ダシ汁ぅ!?」」」」


 何ということだろうか。

 この超科学と超兵器に塗れた戦艦が、先ほどの激しい戦闘を風呂の残り湯でこなしたということである。


 後に説明された経緯によると、風呂の残り湯をエネルギー源とするアイデアは、深雪とヒンジーによって考え出されたものらしい。

 そして、いずれあるだろう黒竜王軍の襲撃に備えるために、まず始めたのが風呂場の整備だった。

 なお、なぜ女湯を先に整備したのかというと、若い女性が最も効率の良いエネルギー源となるかららしい。

 あんまりにもあんまりな方法に、裕太たちは一斉に脱力して机に突っ伏した。


 その後、エネルギー源とするためにという事情は伏せながらも、島中の銭湯から残り湯を買い漁り、Ν(ニュー)-ネメシスのクルー達が凄く特殊な性癖を持った集団だと誤解が広がることになるのはまた別の話である。



 ※ ※ ※



「いやー、困った。困ったねえ」


 胴体だけになった〈雹竜號ひょうりゅうごう〉から格納庫へと降り立ちながら、フィクサはぼやいた。

 戦闘の中で弁明に徹していたこともあり、ロリコン疑惑は払拭された。

 しかしそれ以上に、埋没戦艦が運用されてしまったのが一番の悩みだった。


「何が困ったというのだ? ロリコン」

「だーかーらー、僕はそういう人間じゃないと言っているだろう。困ってるのは、本国のことだよ」

「本国? それは異世界《タズム界》のことか?」

「そう。あっちの連中も僕ら越しに、あの艦を見ちゃっただろうからねえ。奪取か、あるいは破壊を目的に全兵力を送りつけてきても不思議じゃないよ」


 別世界への侵略遠征に行っている都合上、タズム界に存在する本国にも軍を統制する存在がいる。

 そして彼らが一方的に兵力を送りつけることを止めることは、出来ないのだ。


「今日の戦いを見る限り、こちらが大敗するような気しかしないがな」

「それは、僕らが島の被害は最小限に、ピンポイントで埋没戦艦を狙ったからだよ。本国が本気になったら……」

「本気になったら?」

「この島、地図から無くなるかもね」


 頭を抱えながら、フィクサは廊下へと歩いていった。



───────────────────────────────────────


登場マシン紹介No.29

Ν(ニュー)-ネメシス】

全長:232メートル

全幅:46メートル

重量:不明


 央牙島おうがじまに埋没していた、タズム界の先史文明たる古代マシナギア文明によって作られた宇宙戦艦。

 人間の生命エネルギー源として可動する動力炉「ライフリアクター」によって膨大なエネルギーを生み出し、そのエネルギーを利用した攻守に優れる空間歪曲兵器を持つ。

 ライフリアクターには生きた人間を漬け込むであろうカプセルが数機並んでおり、かつて実際に運用された際は何人もの生命を犠牲にして稼働させていたと見られている。


 古代マシナギア文明は日本語に非常に近い言語を用いるタズム界の文明の先祖に当たる文明だけあり、内部の案内板や説明書などは日本語表記となっている。

 非人道的な動力炉とは裏腹に、内部には快適性の高い娯楽室やラウンジ、風呂場や宿舎などが用意されており、クルー達には充実した福利厚生が与えられていたと考えられる。


 主砲である空間歪曲砲は、エネルギーによって生じる空間の断裂波そのものを撃ち出すことによって、対象の形状を歪ませ、自壊させる武器。

 同様の構造を利用した防御兵装である歪曲フィールドは、空間の歪みそのものをバリアのように周囲に展開することによって、そこを通る物質の通過距離を何十倍にも増やすことで弾速を抑え威力を低減させる仕組みを持っている。

 そのため、高速で飛来するビームへの防御能力は低く、逆バリアフィールドと言ったような特徴を持っている。

 特殊兵装であるクラスタービームはプリズムに似た役割を持つ水晶体を空中へと打ち出し、そこに打ち込んだビームを反射することで多数の目標を一度に攻撃できる兵器。

 しかし、この水晶体の発射とビームの放射の前に、適切に目標へとビームが当たるよう反射角を計算する必要があり、補助するプログラム自体は艦長席のコンピューターに存在するものの計算はほとんど人力で行わなければならない。

 本来想定されている運用では計算を代行する機械を別途用意し、レーダーに映る敵機の位置座標と合わせて自動的に計算をする予定だった模様。

 そのため、深雪の人智を超えた計算能力がなければまともに運用するのは不可能である。


 構造上、宇宙での戦闘にも耐えうる設計となっており、調査の結果宇宙空間への適性は現代の宇宙戦艦を凌ぐ物となっていることがわかっている。

 これは、この艦が戦う相手として想定している「敵」が宇宙から飛来するものであることからだと考えられている。

 艦長である深雪と、海賊団の技術者であるヒンジーの発案によって、風呂の残り湯でも十分にライフリアクターを稼働させる事が可能となっている。

 しかし、これは通常航行と対人間を想定した戦闘に限った話であり、本来想定された敵と戦うために必要な火力を生み出すためには生きた人間を燃料にする必要があるとされている。

 

 キャリーフレームが搭載できる格納庫と、発信することができるカタパルトを要しており、古代マシナギア文明にもキャリーフレームのような機動兵器があったという証拠となっている。

 もちろんキャリーフレームが運用しても問題はないため、これまでネメシス号に搭載されていた機体はすべて艦載機として格納されている。



【次回予告】


ついに動き出した黒竜王軍の本国軍。

その強大な戦力を前に、倒れるエリィ。

島を、エリィを、そして仲間たちを守るため、裕太が立つ。


次回、ロボもの世界の人々30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」


「で、けっきょく銀川はどうして寝込んでるんだ?」

『いわゆる女の子の日ですね。さっさとご主人様がマスターとズコバコよろしくヤっていれば避けられた事態です』

「避けていたら、それはそれで大問題だろ……」

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