第29話「伝説の埋没戦艦」【Gパート 初陣】
「指定されたポイントってのがここのハズだが……」
『裕太、下だ!』
ハイパージェイカイザーの真下の島の一角、ちょうど遺跡の広場があった辺りから土埃が舞い上がった。
山肌がスライドするように割れ、その辺りを飛んでいた鳥の群れが一斉に慌ただしく飛び去っていく。
そして、開いた空間から一隻の巨大な影が浮かび上がってくる。
それは、紛れもなくあの遺跡で見た戦艦の姿だった。
「Ν-ネメシスの起動、無事に成功したみたいですね」
「って言っても、あれの動力って確か人間だろ? まさか……」
「大丈夫、誰も犠牲になってはいませんよ。さあ、艦橋へ運んでください」
「お、おう……」
説明は後で、ということで裕太は深雪の指示通りにΝ-ネメシスの艦橋近くへと飛び、甲板へ深雪をおろした。
氷を溶かす過程でした無茶が祟ったのか、出力が下がるハイパージェイカイザー。
ナニガンが送ってきた全てうまくいくという文面を、今は信じるほかなかった。
※ ※ ※
ブリッジへと到着した深雪は、迷うことなく自身の席──艦長席へと腰を下ろした。
「ナニガン副艦長、発進代行ご苦労様でした」
「副艦長って呼ばれるのも悪くはないねえ。じゃあ、あとは頼んだよ」
手渡された艦長帽を、深雪は目深にかぶる。
大きく息を吸って深呼吸し、気合を入れる。
そして、指示を今かと待つブリッジクルー達へと、深雪は号を飛ばした。
「接近する敵軍の迎撃に入る! 操舵手、取り舵で進め!」
「取り舵前進!」
ガララと景気のいい音とともに回転する舵輪に合わせ、艦首を左へと傾けるΝ-ネメシス。
遺跡の入口から飛び出して来た魔術巨神群を、ちょうど正面へと捉えられる位置。
深雪の計算は完璧だった。
「クラスタービームを使用する! 計算はこちらに任せ!」
「クラスタービーム、発射準備!」
手元に伸びてきたキーボードに、深雪は指を置いた。
正面のコンソールに映る敵機を表す光点の位置、その回避を予測する。
反射角計算、流れ弾による二次被害の回避、それらすべてを考慮した位置座標を手早く入力していく。
「入力完了! クラスタービーム、発射!」
「クラスタービーム、発射します!」
※ ※ ※
『裕太、後ろに気をつけろ!』
「後ろ? うおっと!?」
突然 Ν-ネメシスの甲板の一部が展開したので、裕太はハイパージェイカイザーを慌てて移動させた。
開いた中から飛翔したのは、半透明の水晶体。
宙へと舞ったその物体を狙い撃つように、今度は艦内から真紅のビームが直上へと発射された。
放たれた光線が水晶体を撃ち抜くと、その光の束が中で分裂を起こし、放射される。
同時に消えるレーダーの光点。
水晶体を介して反射されたビームの一つ一つが、余すことなく無数の敵機を貫いたのだ。
「す、すげぇ……!」
『むむっ! 今度は青いのが来るぞ!』
爆発の奥から向かってきたのは〈雹竜號〉。
今度はこっちの番だとばかりに操縦レバーに力を込めると、深雪からの通信が入ってきたので一旦手を止めた。
「遠坂、あいつは俺が……」
「私にやらせてください。それが……私なりのケジメです」
※ ※ ※
「敵機、接近します!」
「歪曲フィールド展開! 同時に主砲を敵機へと向けろ!」
「フィールド展開、砲塔回します!」
深雪の命令と同時に、艦の外に映る風景が一瞬揺らぐ。
〈雹竜號〉の手から艦橋へと氷柱が放たれるも、空間の揺らめきの中へとその攻撃はかき消えていく。
一旦距離をとった敵に対し、追従するように主砲が狙いを定める。
(フィクサさん、また会える日があったら……その時に言いたいことは言います。それまではどうかご無事で)
艦長帽のつばと光を反射するメガネのレンズに涙を隠し、深雪は大きく息を吸って手を振り上げ、正面をまっすぐに指さした。
「空間歪曲砲、発射!!」
「主砲、発射します!」
砲身から放たれる半透明な白い螺旋。
高速で向かってくるその攻撃を回避することが出来ず、〈雹竜號〉が直撃する。
歪む空間の奔流に巻き込まれ、四肢を自壊させていく青い機体を、まっすぐに見据える。
コックピット部分だけが残された段階で一瞬にして姿を消したのを見届けてから、深雪はため息を付いた。
「艦長、エネルギー残量低下! 高度維持出来ません!」
「ダシ汁ならばこの程度だろう。速やかに遺跡へと着陸態勢に入れ」
「着陸態勢へ移行!」
元の場所へと帰るように高度を落とすΝ-ネメシス。
その初陣を勝利で飾れたこと、そして想い人との決別に、深雪は黙祷をした。
…………Hパートへ続く




