第29話「伝説の埋没戦艦」【Fパート 離脱】
【7】
ネコドルフィンが住処にしていた遺跡広場へと通じる外からの通路。
キャリーフレーム1機分ほどの幅の空間に所狭しと、無数の魔術巨神が侵攻する。
しかしその道を貫くように鉄塊が飛び、直線上にいた機体が一瞬の内に残骸へと化けた。
「27機撃墜!」
右腕の巨大なレールカノンから白煙を出す〈ヘリオン〉の中から、誇らしげにカーティスが叫ぶ。
続いて、その横に立っているレーナの搭乗した〈ブランクエルフィス〉が、背部から分離したガンドローンとともに、通路へとビームの一斉射を噴射する。
光に飲まれた敵の反応が、次々と消えていく。
そしてまた、外からうじゃうじゃと反応が通路へと駆け込んでくる。
「30機いった! けど、まだまだ来るみたいね」
「ならば、今度は私の番だ!」
勇ましく飛び出した魔法騎士エルフィスがスカーフを変形させた風の剣で空を払う。
同時に乱れ飛んだ疾風の刃が、次々と魔術巨神を切り刻んでいく。
減った数を補充するかのように、また外から増援が湧いてくる。
「ちいっ!! バカスカ落とせるのは気持ちがいいが、キリがねえぞ!」
「ぼやかないのオジサン。あと少ししたらパパがやってくれるから」
「我々は、そのための時間稼ぎに徹するのみ!」
正面で起こる、射撃大会と化した三人による防衛線。
エリィはぽかんとしながら、その様子をナニガンとともに眺めていた。
「姫様よう。ここまでの通路はずうっと狭い直線なんだよね。だから、敵さんがそこで詰まっている内に破壊力のある直線攻撃を叩き込めば一網打尽ってことなのさ」
「それは良いけど……敵の数、全然減ってないわよぉ?」
ナニガンが持つ端末に映る敵影を見ながら、不安を吐露するエリィ。
彼がそれに対する返事をする前に、艦の方から内宮が駆け寄ってきた。
「おっちゃん! 準備ぜぇんぶ出来たて、ヒンジのじっちゃん言うとったで!」
「よし。じゃあやっと出番というわけだ。行こうか、姫様」
「準備って? 出番って? え? え?」
エリィは事情がわからぬまま、ナニガンとともに|Ν-ネメシスへと走った。
※ ※ ※
「──ほら、言ったとおりでしょう?」
ナニガンから送られてきた映像に映っている一網打尽は、裕太も冷静さを取り戻させるのには十分すぎる効果を発揮した。
同時に、ジェイカイザーを縛る氷の楔を突破する方法も頭に浮かべることもできた。
一緒に送られてきたメッセージを実行するためにも、裕太は即座に方法を実行する。
「ジェイカイザー、フォトンリミッターをかけてくれ。そして、フォトンエネルギーを全開にしろ!」
『なに!? そんなことをすれば大変なことになるぞ!』
「いいからやれ! この状況を脱する作戦なんだよ!」
『むむむ……信じるぞ、裕太!』
非合体時にかけられている、過剰なフォトンエネルギーの氾濫を防ぐための弁が閉じていく。
その様子をコンソール越しに確認しながら、上昇していくエネルギー数値に目を配る。
狙い通り、行き場を失ったエネルギーが装甲越しに外へと漏れ出し、熱量へと変換されていく。
赤熱していく表面装甲をつつむ氷が、白い蒸気へと変わっていく。
「考えましたね、このような方法で氷を溶かすなんて」
「普通にやったらぶっ壊れるけど、氷で適度に冷やされっからな。よし、リミッター解除!」
『ふ・ん・!!』
力強いジェイカイザーの雄叫びとともに、太い鋼鉄の腕がその身を縛る氷塊を砕き、持ち上がった。
バーニアを吹かせ、砂と氷を吹き飛ばしながら、ハイパージェイカイザーが立ち上がる。
「やるな、笠本裕太! デュアルブリザードの檻から抜け出るとはな!」
「生憎だがグレイ、決着はまた今度だ!」
ペダルをいっぱいに踏み込み、バーニアを全開に飛翔するハイパージェイカイザー。
後を追うように、〈雹竜號〉も翼を広げて飛び上がる。
「逃げるのか、貴様!」
「お前が送り込んだ雑魚軍団を、どうにかするために行くんだよ!」
先ほど送られてきた、指定ポイントで待てというナニガンからのメッセージ。
その真意はわからないが、そこまで深雪を運べばすべてが片付くという文面を信じ、裕太はペダルに乗せた足に目いっぱいの力を込める。
滞留したフォトンエネルギーを発散するように翠の光がハイパージェイカイザーを後押しし、〈雹竜號〉を振り切ってその場所へと急いだ。
…………Gパートへ続く




