第28話「央牙島の秘密」【Fパート 守護られていたもの】
【7】
「「はっ!!」」
ネメシスの個室でトランプ勝負にふけっていた内宮とレーナが立ち上がったのは、示し合わせたわけでもないのに同時だった。
「笠本はんが……」
「進次郎さまが……」
「「危ない!!」」
部屋を飛び出し、格納庫へと走るふたり。
ExG能力の為せる業が、ふたりを導いていた。
『内宮どの! どうしたのだ!?』
内宮の携帯電話から響くジェイカイザーの声。
どうもハイパージェイカイザーに乗ると、勝手に彼が入れるように携帯電話が改造されてしまうらしい。
画面にジェイカイザーとジュンナの顔アイコンが表示され、はね始める。
「笠本はんが危のうて、ピーンて来たんや!」
「だからわたしたち、今から助けに行くの! ああ、待ってて進次郎さま!」
『それはよろしいのですが。現在キャリーフレーム全機、戦艦を支えるという無茶をしたせいでとても戦闘は出来ませんよ?』
「せやったら、キャリーフレームやない奴に乗ったらええんや! な、レーナはん!」
「そうね! わたし一回乗ってみたかったの!」
『まさか……!』
※ ※ ※
「ニュイーー神様が怒ったニュイーー!!」
「大変ニュイ! 大変ニュイ!」
わらわらと逃げ回るネコドルフィンたち。
彼(?)らにとってもこの状態は予想していたものではないらしいことは、明らかである。
「に、逃げろーっ!!」
裕太たちが走り始めると同時に石像が剣を振り下ろし、刃が床に切れ目を入れた。
大振りなため交わすのは容易であるが、キャリーフレームに襲われているに等しい状態で、どこまで逃げ続けられるかはわかったものではない。
「サツキちゃーん! どーなってるんだーーーっ!?」
「あれは魔術巨神の〈ガーディアン〉みたいですね!」
「よくわかるなーーっ!! どわーっ!」
逃げる裕太たちを追って石像こと〈ガーディアン〉が歩き始め、一歩ごとに大振動が地面を伝わる。
そのたびに転けそうになり、なんとか持ちこたえてはまた揺れる。
そんなことを繰り返している内に、徐々に〈ガーディアン〉との距離が詰まっていく。
「笠本裕太くん、これは大変なことになったみたいだね」
「フィクサ、お前、えらく、余裕だ、なっ! どおっとっと!」
「あ、わかった! 助けが来るのよねぇ!」
『待たせたな!』
暗闇の奥から、聞き覚えのある声とともにハイパージェイカイザーが現れ、〈ガーディアン〉に飛び蹴りを放った。
突然の相手の出現に対応できなかったのか、その攻撃をモロに受けた〈ガーディアン〉が後方へ吹っ飛び、仰向けに横たわる。
「ジェイカイザー! 助けに来てくれたのか!」
『もちろんだとも! うひ、うひひひ!』
気持ち悪い笑い声を上げながら、ジェイカイザーが膝立ちになりコックピットハッチを開く。
そこには、メインパイロット席に内宮が、サブパイロット席にレーナが座っていた。
「内宮、とレーナ! お前たちが操縦してたのか!」
「ピーンとあんさんらの危険を感じ取ってな! で、いま唯一動けるジェイカイザーに乗ってきたんやけど……」
「ねえ50点! なんかこのAIキモいんだけど!」
『現役女子高生と美少女の二人乗りは、私には刺激が強すぎるですぞ~~~!!』
興奮を抑えきれないハイテンションぶりなジェイカイザーに呆れる裕太。
とはいえ、今頼れるのはジェイカイザーだけなのも事実なので、裕太は一計を案じることにした。
「笠本くん! あたしが……」
「いや、銀川はフィクサと金海さんと一緒に安全な場所に隠れてくれ。たぶんこの状態からジェイカイザーに女乗せたらイカレかねん」
『素晴らしい慧眼ですねご主人様。まさに今、あと一人別の女性が乗っていたらもはや手がつけられなくなっていたでしょう』
「……ということで、進次郎カモン!」
「え、僕ぅ!?」
指名に素っ頓狂な声で返事をする親友の腕を引っ張り、内宮&レーナと入れ替わるように無理やりコックピットに引きずり込む。
コックピットハッチを閉めると、ジェイカイザーが『せっかくのハーレムがー!』などとほざき始めたので、コンソールに一発パンチをお見舞いした。
「ちょっとまて裕太、僕はキャリーフレームの操縦は……」
「照準の補正だけでもしてくれたら良い! できるだろ、天才!」
「天才! ふふふ、仕方がないなぁ裕太は! この天才進次郎さまが、見事サブパイロットをこなしてくれる!」
大威張りで腕組みし、パイロットシートに腰掛ける背後の親友に呆れつつ、裕太は操縦レバーに手をかける。
ビリッとした神経接続の刺激が指先に走り、周囲のモニターに外の風景が映し出される。
「よし裕太! せっかくの親友同乗! ひとつ景気よくあれやるか!」
「おい進次郎、あれって何だよ!」
裕太の問いを完全無視し、進次郎が大きく息を吸う。
「勇者と天才、二人の侠が!!」
「えーっと……」
『力を合わせば百万馬力!!』
ノリノリで進次郎の口上に合わせるジェイカイザー。
小さい声で『好きにやらせましょう』と言うジュンナと共に、裕太はため息を付きながら続きに耳を傾けた。
「ふたつの心をひとつに重ね!」
『正義の勝利をこの手で掴む!!』
「俺たちは!!」
「『勇者だっ!!!』」
「その口上、ぜつみょーーーにダサいのはなんとかならんのか」
「うるさいぞ裕太、一度やってみたかっただけだからな!」
『素晴らしくキマっていたぞ!』
『ついていけませんねご主人様。とにかくジェイカイザーが元のバカに戻ったところで、敵が来ます』
長い口上の間に起き上がっていたのか、〈ガーディアン〉が剣を振り上げ襲いかかってきた。
裕太はとっさにペダルを踏み込み、バックステップでその斬撃を回避する。
続けざまに〈ガーディアン〉が盾を構えたまま突進。
両手で受け止め、そのまま横へといなしながら足払いをかけると、勢い余って〈ガーディアン〉が激しく転倒する。
「よし、チャンスだ裕太! いつもの超スーパーすごいソードでトドメを刺すんだ!」
「そんなダサい技名は嫌だぞ。それに、ここでそんなのぶっ放したら落盤するだろ!」
「それもそうだな! じゃあ何かスマートで派手な仕留め方はないか?」
「スマートで派手なって矛盾しているような……」
そう言いつつ、再び起き上がる〈ガーディアン〉に注目する裕太。
コケた衝撃でか腹部の装甲が剥がれ落ちており、薄っすらと中から赤い光が漏れ出ていた。
「ジュンナ、あの腹の光はなんだろう?」
『分析……どうやらコントロール部のようですね』
「だったら……こうだ!」
裕太は指先に力を込めるイメージをしつつ、コンソールを操作しフォトンリアクターの出力を上げた。
腕から溢れ出るフォトン結晶がジェイカイザーの手先へと集まり、指先を鋭い爪のように変異させる。
『おおっ! 新技の予感だ!』
「よし裕太、技名は任せろ!」
「お前に任せるかよ! くらえ、フォトンフィンガーッ!!」
フォトン結晶をまとった手を前に突き出し、バーニアを全開に吹かせて突進をかける。
速度が付き、フォトンで強化された手刀が〈ガーディアン〉の腹部へと突き刺さる。
裕太はそのまま操縦レバーを握りしめ、思い切り引っ張った。
連動してジェイカイザーの手が〈ガーディアン〉の赤く光るコントロール部を引っ張り出し、そのまま握力にまかせて握りつぶす。
トドメとばかりにむき出しになった内部へと鋭い蹴りをお見舞いし、壁に向かって吹っ飛ばす。
ただでさえ繋ぎ止める部分が背部の装甲だけとなっていた〈ガーディアン〉は壁に衝突した衝撃で上下半身が切り離され、そのまま転がって動かなくなった。
「よし、完全勝利! さすが天才の僕がいると違うなあ! あっはっは!」
「お前何もしてなかっただろうが……ん?」
二度と進次郎を乗せるものかと裕太が思っていると、先ほど〈ガーディアン〉を当てた壁が、ガラガラと音を立てて崩れ始めた。
その奥には更に空間が広がっており、そのスペースがレーダーへと映し出される。
「笠本くん! あの奥になにかあるわよぉ!」
「ほんまや! 財宝か!? それともお宝か!?」
ジェイカイザーの足元ではしゃぐ女性陣をよそに、裕太はレーダーに映った輪郭に目を凝らす。
細く長い形状、キャリーフレームの何倍ものスケール、そして様々なところから伸びる砲塔。
それらが合致する物体は、ただのひとつしかなかった。
「これは……宇宙戦艦だ!?」
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登場マシン紹介No.28
【ガーディアン】
全高:11.2メートル
重量:不明
ネコドルフィンが住処としていた遺跡に鎮座していた無人魔術巨神。
遺跡に招かれた裕太たちを「テキ」と認識し、襲いかかった。
鎧を着た古代の戦士のような姿をしており、全身が石造りの装甲に覆われているため、一見すると巨大な石像にしか見えない。
手には剣と盾を持っており、石造りながらも重量もあってか攻撃力はかなり高い。
とはいえ、飛び道具を一切持たないため単体の強さとしては低い部類に入る。
【次回予告】
ネコドルフィンの巣の奥で謎の宇宙戦艦を発見した裕太たち。
報告を受けたネメシスのクルーたちが駆けつけ、戦艦の調査を開始する。
そんな中、ついにフィクサが行動を起こす!
動き出す黒竜王軍を前に、裕太は……!
次回、ロボもの世界の人々29話「伝説の埋没戦艦」
「埋没戦艦よりも、発掘戦艦のほうが格好良くないかい?」
「わたしたち掘り出したわけじゃないでしょ、パパ」
「ああ、そだね……」




