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第28話「央牙島の秘密」【Bパート 宝の情報探し】

 【2】


「グレイ様、すみませーーーん!」


 島の東側、入江になっている場所に墜落した黒竜王軍の空中要塞〈エルカーゴ〉のそばで、グレイはペスターの土下座を見せられていた。


「私が至らないばかりに要塞を落とし、あまつさえフィクサ様の救出の失敗を招いてしまうとは……!」

「ええい、いつまでもメソメソしてはいられないだろう」


 グレイはイラつきながらも、挫傷に近い状態で半分海に沈みかかっている 〈エルカーゴ〉をちらと見る。

 爆発を負った底部はひしゃげており、内部はすでに浸水状態。

 損傷が激しく、修復は不可能だとすでにトカゲ人たちの報告で分かっている。


 ここでやることはひとつ、通信網の復旧である。

 異世界──といっても、ペスターたちには故郷となるタズム界──に通信が通りさえすれば、代わりの要塞を送ってもらえるはずだ。

 黒竜王軍は向こうの世界では一大勢力を築いているのは伊達ではなく、要塞のひとつやふたつくらい潰されても損害に入らないらしい。


「……で。通信をするためには何がいるんだ?」

「ええっと……マナ結晶やドラギウムは生きている部品を回せばいいので、ムーノ粉が少しでもあれば大丈夫ですね」

「ムーノ粉?」

「たしかこの世界の物質だと……にさんかまんがん? とかいう名前で呼ばれているようです」


 学校の物理で習ったような単語に訝しみながら、グレイは携帯電話スマホで検索をする。

 何十年か前だと不可能な方法ではあるが、地球軌道上にある無数の通信衛星によって、このようば辺境の島でも電波は通っており、インターネットもスイスイいける。


 2,3くらいの百科事典系サイトを見た限りでは、二酸化マンガンはいわゆるマンガン電池の中に使用されているらしい。

 分解すれば粉末の状態で取り出せるらしいので、ひとまずはその方向で行くことに決めた。


「二酸化マンガン、ムーノ粉って言えばいいか? 俺が調達してきてやる。貴様たちはここでおとなしくしていろ」

「一人でですか!? いけません、私もお供を……」

「貴様らのような珍妙な格好でついてこられたら邪魔だ! 〈雹龍號ひょうりゅうごう〉でも磨いて待ってろ!」


 仮面越しにしょんぼりとうつむくペスターを置いて、グレイは奥に明かりが見える木々の間へと足を踏み入れた。



 ※ ※ ※



「すまない。私も宝そのものについてはあまり知らないのだ」


 なぜかネメシスの厨房にいた魔法騎士マジックナイトエルフィスの答えに、裕太はがっくりと肩を落とした。

 そんなに都合よくいけば苦労はしないか、とぼやきながらも振り出しに戻ってしまった事態に頭を痛める。


「ところでエルフィスさん、ここで何をしているので?」

「ああ、これはだな」


 フィクサの問いに、皮を剥かれたジャガイモでいっぱいになった箱を持ち上げて応えるエルフィス。

 なんでも、この格好で島の住人に見られては騒ぎになるということを危惧し、臨時のコック長に就任したらしい。

 向こうの世界である異世界(タズム界)では聖騎士(パラディン)ユミエ……裕太の母が率いる英傑四人衆の中で料理担当をしており、その美味な作品の数々で戦いの疲れを癒やしたという。

 裕太はエルフィスがつくづく完璧超人な騎士だなと思いつつ、異世界の話の中で度々出てくる母の存在に頭を抱える。

 

「ちなみに、カーティス殿は艦長のリハビリの助手を務めているらしいぞ」

「あのオッサン、何しに来たんだ……?」

「困ったね。情報が無くなっちゃったな」

「クックック……だから貴様は凡人で僕は天才なのだ!!」


 爽やかな困り顔を披露するフィクサの背後で、再び悪役のような笑い方をする進次郎。

 こいつはいちいち笑ってからでないと物が話せないのかと冷ややかな目を親友に送る。


「んで、天才進次郎くんよ。何かまだ手があるといいたげだな? おい」

「考えてもみたまえ諸君。この艦の連中がこの島を宝島だと断定した情報は、誰からだ?」

「ガイのオヤジだろ?」

「それは僕らの事情だ! 彼らネメシスのクルーたちは、たしか深雪ちゃんから情報を得て、この島へと向かったのではないか?」

「そうだったっけ?」

「そうなのだよ!」


 仰々しい手振りで演説する進次郎に呆れつつ、まだ手があることに喜ぶ裕太。

 流石にノーヒントの宝探しを敢行するほど、無鉄砲なアホではないのだ。


 その後、深雪がつい先ほど艦を出たらしいという情報を魔法騎士マジックナイトエルフィスから聞き出した裕太たちは、急ぎ後を追うように砂浜へと飛び出した。


「まだ遠くには行ってないはず……いた、あそこだ」


 砂浜近くの獣道へと足を踏み入れる小さな背中を指差す。

 手に小さなカバンを持ち、一人で歩く姿には迷いは見られない。

 確実に、何か知っている。


「おーーーむぐっ!?」


 その背中に呼びかけようとした裕太の口を、背後から進次郎が強引に塞いだ。

 息ができなくなり窒息寸前になったところで解放され、自分を殺しかけた親友の胸ぐらを掴み上げる。


「何しやがる、殺す気か!」

「だから貴様はアホなのだ、裕太! あんなに人目を避けて一人で行く彼女が、僕らと合流したがると思うか? そんなだからいつまでも銀川さんと内宮さんに挟まれて苦労をするのだ!」

「てめーに言われたくはねえぞコノヤロ。それはさておき、あの子にはなにか事情があるってことか?」

「じゃあ、こっそり後をつけようか。それなら問題ないんじゃないかい? ささ、ケンカはやめようよ」


 涼しい笑顔で仲裁するフィクサに免じ、裕太は進次郎を解放する。

 そして、ギリギリ見失わないくらいの距離感を保ちつつ、深雪のあとを三人でこっそり追いかけることにした。

 一人の幼女を男三人でストーキングする。

 これが日本なら即、事案である。


 いつもなら余計な茶々を入れるAIコンビが補給の手伝いのために機体の中に入りっぱなしなことに感謝しながら、裕太は足を踏み出した。



  …………Cパートへ続く

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