第27話「艦長は小学五年生」【Gパート そして宝島へ】
【9】
要塞の底部砲台が方向を変え、再び格納庫へと狙いを定める。
進次郎の手に汗がじっとりとにじむ中、チャンスを逃さないためにもまばたき一つせずに砲口を見つめる。
砲台が止まり、その奥の色が僅かに砲弾の色に染まった。
「今だぁっ!!」
進次郎が引き金を引くと同時に、耳をつんざく爆音が鳴り、拳銃のものにしては巨大すぎる弾丸が宙へと放たれた。
あっという間に舞い上がった金属の弾は、肉眼では見えなくなるほど遠くへと飛んでいく。
脱臼寸前になった熱い肩を抑えながら、進次郎は自分の仕事が天才的な完璧ぶりであることを確信していた。
次の瞬間、砲弾を弾丸が貫いたのであろう。要塞の大砲が大爆発を起こす。
衝撃で要塞が傾き、ふらふらとあらぬ方向へ高度を落としていく。
「やったニュイ! わーいだニュイ!」
「やりましたね! さすがは進次郎さんです!」
拳銃を体内に戻しながら駆け寄るサツキとネコドルフィン。
少なくともこれで、密航騒ぎの償いは出来たかな……と、進次郎は緊張から開放された脱力感のまま、その場で仰向けに倒れ込んだ。
※ ※ ※
「ちいっ! ペスターめ、しくじったな!」
「互いに痛み分けだ、勝負はお預けだな!」
「フン、次の勝負に決着は持ち越してやる!」
青い巨大な羽を羽ばたき、瞬速でエルカーゴの方へと飛び去る〈雹龍號〉を尻目に裕太は戦艦ネメシスへと向き直る。
艦のいたるところから煙が上がり、火の手が登っているのを見るに、長くは持たないだろう。
「笠本はん! どないするんや!?」
「言わずもがな!」
裕太は力いっぱいペダルを踏み込み、ハイパージェイカイザーを飛翔させた。
※ ※ ※
「状況を報告!」
赤い警告灯の光で真紅に染まった艦橋で、深雪は力いっぱい叫んだ。
「エネルギー伝達路に損害! 逆流により反重力エンジンが破損!」
「修理を急がせろ! このままでは浮力を失って落ちるぞ!」
「しかし動力室で火災が発生しており、応急措置すら困難だそうです!!」
「くっ!!」
敵の第一波をしのいで油断してしまったのは艦長である自分の経験の浅さが原因だ。
初陣の最初でいい調子だったのが仇となった結果に、深雪は肘置きに拳を叩きつける。
幾重にも連なる危機的状況に冷静な判断を下せるほど、深雪の戦歴は深くはない。
「どうしたら……!」
「あー、あー……」
茫然自失になりかけた深雪の前に、ナニガンの顔がモニターへと浮かぶ。
「こういう時でも、艦長は毅然としなきゃ。みんなが不安がっちゃうよ?」
「ですが、この状況では……!」
「世の中、案外うまくいくこともあるもんだよ。ほら……」
モニターに映された高度計の下がりゆく数字の速度が、徐々に落ちていく。
何が起こったのかと確認する前に、通信が艦橋へと入ってくる。
『んがぁぁっ! 裕太、重すぎて支えきれないぞ!!』
「無理でもやるしかねえだろ! こんなズタボロで落ちたらみんな水の中だ!!」
「笠本はん! フォトンエナジーがめっちゃヤバイ速度で減っていきよるでぇっ!!」
『警告、エネルギーのオーバーロード寸前です。このままでは爆発しますよ』
いくらジェイカイザーでも、戦艦ネメシスそのものを支えるのは無理がある。
再び減ってゆく高度計。
深雪は両手を握り、願った。
(お願い、なんとかなってぇぇぇ!!!)
ガクンと艦橋が揺れる。
いつの間にか外れかけてた艦長帽が頭から離れて落ち、クルーたちが悲鳴をあげる。
もうダメか、と諦めかけた深雪の目に映ったのは、徐々に数字が増えていく高度計だった。
「ったくもー! 50点ばかりにいい格好はさせないわよ! ね、みんな!」
「「「おう!!」」」
「艦長! キャリーフレーム隊が本艦を支えてくれています!」
「どうやら塞がった格納庫を吹き飛ばして発進したようです!」
報告を聞いて、安堵のため息と共に艦長帽を拾い、かぶり直す深雪。
願いは通じた。
いや、この艦にいる全員が頑張ったおかげでなんとかなったのだ。
「そう……わかった。目的の央牙島まで後少しだけど、キャリーフレーム隊にそれまで持つか確認させて」
「了解!」
指示を飛ばしてから、深雪はモニターを指で操作し、ナニガンへと回線をつないだ。
「ほら、なんとかなったでしょ?」
「……すみません。艦をボロボロにしちゃって」
「いいよいいよ。誰も死んじゃいないし、物資も食料もやられたわけじゃない。命があればなんとかできるよ」
「そう言っていただけると幸いです」
「そんな暗い顔しないで。ほら、念願の島がもうすぐだよ。宝を見つけて、パーッとしようよ」
深雪は顔を上げ、正面の窓へと目を向ける。
水平線の向こうから現れる陸地の影。
宝が眠るという島、央牙島。
そして、復讐の目的地でもある島。
その島を肉眼で見ながら、深雪は懐の拳銃に手を当てた。
(必ず……)
眼鏡の奥の幼い瞳は、暗い覚悟と決意に満ちていた。
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登場マシン紹介No.27
【雹龍號】
全高:14.4メートル
重量:不明
ペスターがグレイのために用意した魔術巨神。
魔術巨神とは本来、巨大な魔法生物の外殻をベースとして作られる機体であり、この雹龍號も例外ではない。
ベースとなったのは黒竜王の親類である氷のエレメントを司る青龍の亡骸。
青龍は病に伏して死を予感した際、黒竜王に自らの亡骸を魔術巨神へと改造するよう遺言を残していた。
魔術巨神となった後も氷を操る能力は健在であり、空気中の水分を収集・凝固させることで武器や弾丸を生み出すことができる。
また、両肩には吹雪を生み出す聖獣の器官を素材とした装置が内蔵されており、2つの巨大な吹雪の竜巻を生み出す大技「デュアルブリザード」を放つことができる。
なお、もともとコックピットは魔術巨神特有の精神空間であったが、ペスターによってグレイのためにキャリーフレームのコックピットへと差し替えてある。
【次回予告】
ボロボロになりながらも央牙島へと到着したネメシス一行。
早速宝探しを始めるも、難航する調査。
その時、ネコドルフィンがニュイと鳴いた。
次回、ロボもの世界の人々28話「央牙島の秘密」
「ニュイ~!」
「いっつも鳴いてるよな、こいつ」




