第27話「艦長は小学五年生」【Fパート それぞれの戦い】
【8】
「おいおい、もしかして天才的タイミングで来ちゃったかな……!?」
艦が戦闘態勢に入り、避難しようとするエリィ達とすれ違ってもなお甲板に進次郎が出た理由は、ひとえにサツキの導きである。
頭上の空間が歪み、暗雲のような黒いシルエットが見覚えのある黒竜王軍の飛行要塞〈エルカーゴ〉に変わったのを見れば、とんでもない修羅場に巻き込まれたというのは想像に難くない。
要塞の底部が展開し、砲台が伸びてくる。
引き返そうと踵を返す間もなく、艦が縦に振動した。
バランスを崩しその場に倒れ込む進次郎。
心配そうに駆け寄るサツキが起き上がらせようと腕を引っ張ってる間に、艦首の方から大きな煙が上がっているのが目に入る。
「あの位置は主砲が……ミサイルもやられたっぽいか」
要塞〈エルカーゴ〉の底部砲台から打ち出される弾丸が、艦の戦闘能力を次々と奪ってゆく。
航行機能に関わる部分を狙わないのを見るに、どうやら敵の目的はこの艦を沈めることではないようだ。
放たれた弾丸のうちの1発が、格納庫の入口付近を貫いた。
あの場所をピンポイントで撃ち抜かれては、キャリーフレームを出すのにも時間がかかるだろう。
「で、サツキちゃんは僕に何をしろと?」
「進次郎さんには、この艦を守ってほしいんです」
「どうやって? いくら天才の僕でも、キャリーフレームの1機でもなきゃ……」
「これを」
サツキから手渡されたのは一丁の拳銃。
いや、拳銃というには口径が大きすぎる。
それは進次郎の記憶の中で該当する一つの銃器、キャリーフレームの装甲をも貫く威力をもつ対装甲マグナムだった。
「いやいやいや、無理無理! こんなの撃ったら一発で肩がイカれるに決まってるって!」
「でも、このままだとこの艦は……!」
「サツキちゃん……」
瞳をうるませるサツキに、遠回しに「男らしいところを見せて」と言われている気になる。
遥か遠くで青い機体とドッグファイトをするジェイカイザー。
覚悟を決めた顔ですれ違い、艦橋の方へと走り去っていった幼い女の子。
「悔しいが、僕は男だな」
「でも、ただの男の人じゃありません」
「そうだな、僕は天才だ!!」
受け取った対装甲マグナムを両手で構え、真上へと向ける。
引き金に指をかけながら、タイミングを図る。
いくら対装甲とはいえ、飛行要塞を直接破壊できるわけではない。
狙うならば……次の一瞬。
※ ※ ※
「グレイさま、敵艦の武装・格納庫入り口をすべて破壊しました」
「ペスター、念のために格納庫へもう一発入れろ。無理やりキャリーフレームが出てくるかもしれん」
「わかりました」
「おーい、全部聞こえてるぞー」
「何っ!」
通信回線を開きっぱなしで戦っていたので、裕太たちにグレイの一連の会話は全て筒抜けになっていた。
戦艦ネメシスが攻撃を受けていたのには気づいていたが、状況を聞くに一刻の猶予もないようだ。
「ならば話が早い。そろそろ決着と行くぞ」
「ぬかせ! だったらこっちも! ジェイカイザー!」
『おう! ウェポンブースター始動!』
ハイパージェイカイザーの両腕が展開し、フォトンの水晶が溢れんばかりに広がってゆく。
グレイの〈雹龍號〉も対抗するように両肩の装甲がスライドし、飛行機のエンジンのような構造体が中から現れる。
「来るか……グレイ!」
「来い……笠本裕太!」
操縦レバーを握りしめ、両手で一本づつジェイブレードを抜く。
二本の剣の柄を重ね合わせ、接続。
薙刀めいた形状となった武器の上下から、フォトンで形作られた巨大な刃が出現した。
装填されるエネルギー量に喉を鳴らしながら、裕太はペダルをこれでもかと踏み抜く。
跳躍するハイパージェイカイザー。
振り下ろされる巨大な剣。
同時に、〈雹龍號〉の両肩から放たれる巨大な一対の吹雪の竜巻。
「ダブルジェイブレード!! えっ!?」
「デュアルブリザード!! 何っ!?」
両機が、ワザを放ちながら左右へと回避行動を取る。
明後日の方向へと放たれた大技が、それぞれ海を切り裂き、海面に氷山を生み出した。
「お・ま・え・なーーー!! もっと物理的なワザで来いよ!」
「貴様こそ、大技は強力な光線だと決まっているだろうが!!」
『……ご主人さまと敵は、なぜ憤っているのでしょうか?』
「多分やけど、互いに大技を打ち合って力比べしよ思たんやろうけど……」
『どうやら系統が噛み合わずに共倒れになりそうになったのだな!!』
ジェイカイザーの言うことが正しいのが、裕太の腹を更に立てた。
…………Gパートへ続く




