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第27話「艦長は小学五年生」【Eパート 深雪の決意】

【7】


 ものの流れとはずみであるが、初となる内宮との二人乗り。

 裕太は勝手の違いが裏目に出ないことを祈りつつ、高速で接近する青い機体を正面に捉えた。


「笠本はん、来よるで!」

「わかってる!」


 敵機が手のひらから半透明の剣を取り出し、大きく振りかぶる。

 裕太はレバーを操作しハイパージェイカイザーに剣を抜かせ、その一閃を輝く刃で受け止めた。


「久し振りだな、笠本裕太!」

「その声……グレイか!」


 剣を通して音を振動として送り合うことで成り立つ接触回線から響くグレイの声。

 意外なところからのライバルの登場に、裕太の頭が混乱する。

 つばぜり合い状態の剣に力を込めながら、こちらも回線を開き通話状態にする。


「なんでお前がそんな機体に!」

「〈雹龍號ひょうりゅうごう〉だ、覚えておくと良い。せっかくの機会だからな、久々の勝負といくぞ!」

「黒竜王軍についたってことか。だったら遠慮は無しだ!」


 互いに距離を取り、改めて剣を構える。

 緊張感が満たされるコックピットの中で、ひとり内宮が後ろでワタワタしているのだけが気が散る要因だった。


「おい内宮、じっとしててくれ!」

「そうは言うても、なんでグレイはんとここで戦わなアカンのや!?」

「前からそうじゃないかとは思ってたけど、どうやら黒竜王軍についたらしい。とにかく、あいつが相手なら油断はできない。照準の補正を頼むぞ」

「笠本はんに頼られるのは嬉しいけど、な……」


 かつてメビウスで一緒にやっていたことを聞いているので、内宮がためらう気持ちもわかる。

 しかし、未知の機体に乗った強敵を前に、裕太の戦士の血がたぎってゆく。

 二人の男の戦いに、割り込む隙はない。


「ジェイブレード、ランチャーモードだ!」

『おう!』


 手に持つ剣の柄を握り直し、刃を展開する。

 レールガン状へと変化した切っ先を〈雹龍號ひょうりゅうごう〉へと向け、トリガーを引き絞る。

 放たれた翠色の光弾を流れるような動きで飛行しすり抜ける〈雹龍號ひょうりゅうごう〉は、さすがはグレイの操縦だと言ったところだ。


 翻し、接近しながら〈雹龍號ひょうりゅうごう〉の青白い手のひらがこちらへと向けられる。

 その表面がキラキラと光りだしたのを確認してから、射線から逸れるように高度を落とし始める。


「氷の刃を食らうが良い、マシンガンピラー!」


 通信越しに聞こえたグレイの声と同時に、青い巨腕から放たれる無数の氷柱。

 先読みの回避によって空を切ったそれらが眼下の岩礁を吹き飛ばすのを見て、肝を冷やす。


「氷の剣に氷の刃……クールなあいつらしい冷凍能力の機体ってところか」

『暖房を全開にして対抗をしましょう』

「アホか! うちらを蒸し焼きにしてどないすんねん! 熱量で対抗するんやったらビームや、笠本はん!」

「よし、ならば!」


 ジェイブレードを仕舞い、脇の収納部マウントからビームセイバーの柄を取り出す。

 スイッチを入れられ飛び出した光の刃で空気が揺れる中、グレイの次の手を迎え撃つ体制を整える。



 ※ ※ ※



「笠本くんが頑張ってる間に、あたしたちは中へ避難しましょう!」


 エリィがフィクサを艦内へと引っ張る中、深雪の目は裕太たちのいる方向とは逆を捉えていた。


(あの青の機体はジェイカイザーを引き離すように動いている。となれば敵の目的は……!)


 小学生でありながらも大人でいることを強いられた頭脳が、誰よりも正確に先を捉える。

 確信に等しい想像が現実になる前にと、深雪は小さな足を懸命に動かし走り始めた。

 困惑した表情ですれ違うエリィを追い抜き、目指すは艦橋。

 走る際の上下運動でずれそうになる眼鏡を抑えながら、自分が求められている場へと一気に踏み込んだ。


「高熱源体多数確認!」

「主砲はどこを狙えば良いんだ!?」

「レーダーに感! 敵艦がワープアウト!」

「艦長、大変です応答してください! 艦長!」


「艦長は私がやります!!」


 幼い身体には大きすぎる艦長席へとよじ登る深雪。

 周囲のブリッジクルーが困惑と驚愕の眼差しを送る中、モニターに映し出される情報を頭へと叩き込む。

 地球に至るまでの道筋で、艦の能力は把握している。

 まだ家族が明るかった頃に父に教えられてきたことは、父への復讐を心に決めた彼女の中で無意識に息づいていた。


(艦は身体、クルーは血液。身体を動かす頭脳となれ)


 頭に反復する父の口癖をつぶやきながら、レーダーに映る光点を目で追う。

 肘置きにかかっていた艦長帽を目深にかぶり、大きく深呼吸。


「面舵一杯! 砲撃手、左斜め仰角37.5度に主砲回頭、6秒後に発射!」

「お、面舵一杯!!」

「主砲回頭! エネルギー充填開始!」


 この場にいる何人が、突然現れた女児を艦長と認めてくれているかは定かではない。

 しかし艦長席から放たれる号に無意識にでも反応するのは、よく訓練が行き届いている証拠だ。


「主砲、発射!」


 艦首近くに鎮座する錆びついた2連ビーム砲が轟音とともに光を放つ。

 青空を裂くように飛ぶ光の螺旋が突如出現した空中要塞を貫き、炎上する残骸へと一瞬で変貌させた。


「対艦ミサイル1から6番まで、今から送信する座標へ!」

「対艦ミサイル、1から6番、発射用意!」


 手元のコンソールで弾き出した予測座標を砲撃手へと転送する。

 大人にも引けを取らない頭の回転と予測は、宇宙生まれである彼女に目覚めたExG能力の一端。

 しかしその自覚もなく、深雪は目の前の役目に意識を集中させる。


「ミサイル、1から6番、連続発射!」

「発射!」


 艦橋の後方より放たれる対艦ミサイル。

 弧を描き青空に煙の白い虹を描きながら飛翔した6発の弾頭が、出現した要塞に次々と突き刺さっていく。

 空中で動きを止める要塞群が、窓の外で左へと流れていく。


 対艦ミサイルでは仕留めるに足らず、足止めにしかならない。

 冷却の必要があり連射の利かない主砲でこの数を落とすならば、方法は一つだ。


「左斜め仰角40.2度に主砲補正、8秒後に発射!」

「主砲回頭! エネルギー充填開始!」


 レーダーに映る要塞の位置が、艦の移動に合わせて徐々にひとつの線になっていく。

 そして点が線になる瞬間、主砲が吠えた。


 一直線に並んだ要塞群を、一筋の光線がつなぎ合わせる。

 要塞だったものは爆炎へと消えていき、その破片が海へと没していく。


 歓声に包まれる艦橋。

 突然出現した敵軍を、反撃の暇を一瞬も与えずに全滅させることが出来た。

 深雪がひとつ大きな安堵のため息を吐くと、艦長席のモニターにナニガンの顔が写った。


「やあ。僕なんかよりもずっと頼れるみたいじゃないか」

「あなたのクルーたちの腕の良さに助けられてます。指示の言葉遣いに自信もありませんし」

「そう謙遜しなくてもいいじゃないか。謙遜をけん……っと、ダジャレを言っている場合ではないか」

「その癖ってどうにかなら──」


「新たな反応! 位置は……本艦直上です!」

「何!?」




  …………Fパートへ続く

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