第27話「艦長は小学五年生」【Cパート 青い龍、青い海】
【5】
「おいペスター。ここに俺に見せたいものがあるのか?」
不気味な艦内の不気味な格納庫へと案内されたグレイ。
周囲には〈ラノド〉を始めとした様々な量産型魔術巨神が立ち並んでいるのが暗闇の中に微かに見える。
「はい。あなた様の為へのとっておきが、こちらでございます」
ペスターが手に持った鎌を軽く振ることを合図に、格納庫の一角がライトアップされた。
光に照らされ、現れる巨大な影。
下手なキャリーフレームを凌ぐ巨大さを誇ったそれは、人型で有りながらもどこか竜のような威厳のある風格と、機械でありながら鎧を着込んだ竜人と見紛うような有機的なフォルムを持った、巨大な翼を持つ青を基調としたマシーンだった。
「これは……」
「黒竜王さまの親類たる青竜さま、その亡骸を遺言により魔術巨神へとその御姿を変えたものでございます。その名も……」
「雹龍號だ」
「は……?」
「俺の第六感が言っている。こいつには〈雹龍號〉という名がふさわしい」
実は一度でも機体の名前をつけてみたいというグレイの欲求であったのだが、押し切られたようでペスターが押し黙る。
グレイの気配を感じ取ったのか、〈雹龍號〉が膝を曲げてかがみ込み腹部のコックピットハッチを開いた。
その中には、見なれたキャリーフレームタイプの操縦席。
「ペスター、これは……」
「グレイ様の技能を鑑み、馴染みの深いこの世界仕様の操縦系を用意させていただきました」
「フ……粋なことをしてくれる」
「これで、フィクサ様を……」
「奴がまだ生きているか確証は無いが、生きていたら連れ帰ってやる。だから余計なことはせずにおとなしくしていろ」
「わかりました、ご武運を」
「人探しになにが武運だ」
ツッコミを入れながら、グレイはパイロットシートへと飛び込んだ。
※ ※ ※
シャリ、シャリ、シャリ……。
包丁が薄皮を切り離す音がこだまする厨房の中。
タイル状の床にあぐらをかきながら、カーティスが剥き終わったじゃがいもを水の張ったボウルに投げ入れる。
「なんだって俺様が、こんなことを……」
「働かざるものなんとやら、って地球のことわざであるでしょオジサン。ほら、あの騎士さんは文句一つ言わずにバリバリやってるわよ」
監督しているレーナが指差す方向をカーティスが見る。
魔法騎士エルフィスが、芋を空中に放り投げては包丁を目にも留まらぬ速さで走らせ、皮のかけら一つも残っていない果肉は下のボウルへ。
宙を舞う皮を素早い手付きですべて掴み取り、ゴミ袋へ捨てていた。
「ありゃあ反則だろ。なあ眼鏡の坊主……ってそっちにもバケモンがいたな」
バケモン、というのは進次郎の隣で秒速で皮を剥くサツキのことだろう。
不敵な笑みを浮かべながら「うふふふ」とつぶやき、ネコドルフィンから手渡されたジャガイモの皮を高速で螺旋状に剥いてゆく。
すでに向き終えたジャガイモでいっぱいになったボウルが数十個あるが、その9割は人間業で剥かれていないだろう。
数分かけてひとつ剥き終え、一息ついている進次郎の隣にレーナはそっと腰を下ろし、寄り添う。
「ねえ、進次郎さま~。ジャガイモはそろそろいいので、甲板から海でも見ませんか?」
「え、ええ? でもまだ僕のノルマがこんなに残って……」
「ネコドルちゃん、取ってきて」
「わかったニュイ~」
進次郎の残りノルマとなるジャガイモが入った袋をネコドルフィンがかすめ取り、袋ごとサツキへと投げ渡す。
サツキは自らの腕をウニョウニョと変形させ、受け皿のような奇妙な装置のようにしてから袋を受け止める。
一瞬、モーターのような駆動音がけたたましく鳴り響いたと思うと、後には剥き終えたジャガイモがサツキの変形させた腕の先からボトボトと落ちるだけだった。
「さあ、進次郎さんの分まで終わりましたよ! 海、見に行きましょうか!」
「う、うん……」
抜け駆けで海を見る予定に、想定外の方法で乱入してきたサツキを見つめ、レーナは頬をぷくりとふくらませる。
サツキもお返しとばかりにぷくっと頬を膨らませ、彼女の頭に乗ったネコドルフィンもその顔の真似をする。
間に挟まれる形の進次郎が大きくため息をついたのもいとわず、レーナはサツキと二人で引っ張るように色男を厨房から連れ出した。
…………Dパートへ続く




