第19話「異世界からの刺客 赤竜丸」【Cパート 鎧を着た変質者】
【3】
ガラガラ、ドーン!
という擬音が似合いそうなほどの勢いで、元気に開いた扉の奥から軽部先生が陽気に教室へと入ってきた。
ドア開閉の元気さは先生の機嫌そのものである。
(どうせ、以前あったようにコンビニの女性店員か何かに微笑まれたとかで勘違いしているのだろう)
そう思っているのは裕太だけではない。
他のクラスメイトも先生に対し、冷ややかな目線を送っていた。
機嫌が良かった日の数日後に、店員に声をかけた挙句、振られたショックでドアが緩やかに開けられたことなど、もう何度あったかわからないからだ。
また駄目なんだろうな、という生徒たちの同情に気づかないまま、上機嫌の軽部先生は教卓の上で教科書を跳ねさせた。
「よぉし、お前らおはよう! ま、人間生きてりゃ悲喜こもごも色々あるのは先生も察する通りだ!」
テンションに任せた先生の挨拶の「悲」が自分であることは裕太も察したし、クラスメイトも分かっているといったふうに目線で答え合わせをする。
「そうでない連中も、いつ事件や事故に巻き込まれるかはわからない故に、注意を怠らないように! 特に最近は工事現場荒らしをする、鎧を着た変質者が出ているからな」
──工事現場荒らし。
裕太も朝にジュンナが見ているテレビのニュースで小耳に挟んだ事件だ。
火を噴くキャリーフレームのようなものが現れて、土木用キャリーフレームを破壊し焼き尽くす事件。
幸い作業員に死傷者はまだ出ていないが、エスカレートして人命に関わる事態になるのは時間の問題に思える。
(そうだ、この事件を俺の手で解決してやろう)
自身の栗毛色の前髪を指でくるくると弄りながら、裕太は決意した。
借金返済に当てる報酬も目当てであるが、裕太の中にある純粋な正義感もまた、連続する工事現場襲撃事件の解決を願っていたし、許せなかった。
※ ※ ※
「裕太、今日もカーティスの家に行くのか?」
帰りのホームルームを終えたあと、進次郎が眼鏡の鼻あての位置を調節しながら、裕太の席にやってきた。
今日も、というのはカーティスの家が広く、漫画やゲームなどの娯楽に富んでいるため普段から遊び場にしているからであるが。
「行く……けど、例の工事現場荒らしについて情報を集めにな」
「そうか。この僕の天才的頭脳も、そう言うと思っていたぞ」
「付き合いが長いだけだろ」
親友同士の軽い小突きあいをしながらのやりとり。
高校に入ってからの付き合いなので、10年来のような絆には負けるが、気の合うふたりは互いに考えを見透かせるほど友情は深い。
「それじゃあ、今日は進次郎さんとお買い物します! ネコドルちゃんの新しいご飯を探しに行くんですよ!」
進次郎の後ろから、無邪気な笑顔をサツキが覗かせた。
裕太の後ろの席から立ち上がったエリィが、「あれね!」と手のひらに拳を打ち付ける。
「そうです! ヘルヴァニア製プレミアム煮干しを探しに行くんですよ!」
「あれ、木星圏でしか作られないから高いわよぉ~」
「大丈夫です! 進次郎さんがお金出してくれるって言ってました!」
甘えるようにサツキに腕をギュッと抱かれ、顔をにやけさせる進次郎。
裕太もエリィにそういうことをしてほしいなとは思ったが、プライドが邪魔をして口に出すことはできなかった。
───Dパートへ続く




