第18話「決戦 ナイトメア!」【Cパート 反撃の小動物】
果たし状に書かれていた場所に立つ裕太。
波の音と、海面から顔を覗かせるネコドルフィンの鳴き声だけが聞こえる静かな空間。
指定の時間ぴったりになると同時に、海面が歪み盛り上がる。
「約束通り来たようだな、笠本裕太!」
スピーカー越しにグレイの声を轟かせ、海中から現れる〈ナイトメア〉。
前の戦いでつけた傷は綺麗に修繕されており、手首の部分や胸部など所々の形状が変化しているのを見るに、改修もされているようだ。
しかし5年前のあの事件の際に、大田原がつけたメインセンサーの傷だけはそのまま残され、残された赤い目が不気味に裕太を睨みつける。
以前の裕太であれば、ここで怒りに我を忘れていただろう。
しかし今は違う。退けない理由があり、守るべきものがある。
「今日こそ決着をつけてくれる、笠本裕太!」
「奇遇だな。俺も今日で終わりにしたいと思っているんだよ。来い、ジェイカ──」
「笠本裕太、死ねよやぁぁ!!」
「どわっ!!?」
裕太が携帯電話を取り出そうとした瞬間に巨大な足で踏みつけてくる〈ナイトメア〉。
咄嗟に後ろ飛びし、地面を揺らす足の前で裕太はどっと冷や汗をかいた。
「こらーっ! 乗るまで待ってくれたって良いだろうがー!」
「ふざけるな笠本裕太! 前に回想中に攻撃したやつが言うことか!」
「それとこれとは話が違うだろ! ぐおっ!!」
続けざまに放たれる黒光りする鋼鉄のチョップ攻撃を、走り回ってかわす裕太。
ここまで恨まれていると予想していなかったのが、裕太の想像力不足であった。
※ ※ ※
「ちょっとぉ! 卑怯じゃないのぉ!」
外野からブーブーと野次を飛ばすエリィであったが、その声が届いているはずもなく、眼前で繰り広げられる不公平な鬼ごっこに対して何もできなかった。
思わず携帯電話を手に取り、裕太にかける。
「笠本くん! どこかに身を隠してこっそりジェイカイザーを呼ぶのよ!」
「感動の乗り換えイベントの初搭乗を、影に隠れてやったら格好がつかないだろーっ! どわっ!!」
こんな状況でもカッコつけにこだわる裕太に呆れながら、エリィは助けを求めるように進次郎の顔を見つめた。
「……このままでは勝負どころか一方的な虐殺だな。サツキちゃん、なんとかできないだろうか?」
「おまかせください! 行って、ネコドルちゃん!」
「ニュイ!」
サツキがそう言って抱きかかえていたネコドルフィンを離すと、ポインポインと跳ねながら裕太達のいる埠頭へと向かっていった。
※ ※ ※
「ニュイ~!」
突然、戦場に現れた一匹のネコドルフィンに一瞬〈ナイトメア〉が顔を向けて注目する。
しかしその声が一匹の小動物のものだとわかると、すぐに裕太に向き直りまた鬼ごっこが再開された。
「何の助けにもなってねぇ~~!!」
「ニュイ~~~!!」
「「「ニュイニュイニュイニュイ!」」」
「ニュイ~~~!!」
「「「「「ニュイニュイニュイニュイ!」」」」」
息を切らせながら逃げ回る裕太の横でネコドルが甲高い鳴き声を上げると、海の中からワラワラとネコドルフィンの群れが埠頭へと上がってきた。
水しぶきを上げながら次々と陸へ上がる無数のネコドルフィンは〈ナイトメア〉の周りに集まると、まとわりつくように〈ナイトメア〉に取り付いていった。
巨大なキャリーフレームが、みるみるうちにネコドルフィンの大群に包み込まれていく。
「このあいだのおかえしニュイ!」
「やっつけるニュイ!」
「「「「「やっつけるニュイ!」」」」」
全身をネコドルフィンに覆われ、傍から見たら人型の輪郭を残しながらも黄色い粒の集合体にも見えるようになってしまった〈ナイトメア〉。
ネコドルフィンは軽く柔らかい生き物であるため、あのまま押しつぶされて壊れるようなことはないだろう。
しかし、関節部などの隙間に詰まっているのか、身動きを取れないでいるようだ。
「「「「「ニュイニュイニュイニュイ!」」」」」
「助かった、けど……なんか格好つかねえなあ」
文句を垂れながらも、裕太は携帯電話を改めて天高く掲げ、そして相棒の名を呼んだ。
「来い、ジェイカイザー!!」
───Dパートへ続く




