第17話「アメリカから来た男」【Iパート ハッピーバースデー】
【7】
「「「誕生日おめでとー!」」」
電気を消した部屋の中で、サツキがケーキに立っていた5本のロウソクの火を吹き消すと、裕太たちは拍手で祝いの言葉を送った。
進次郎がスイッチを入れて明かりをつけるとともに、ジュンナが均等にまん丸なケーキを人数分に切り分けていく。
「誕生日というのがよくわかりませんが、祝っていただいてありがとうございます!」
珍しく照れた表情を浮かべながらも、嬉しそうににっこりと微笑むサツキ。
そんな彼女に、綾香が真っ先に包装されたプレゼントを手渡した。
「はい、サツキさん! これは私からのプレゼントよ!」
「わぁー! ありがとうございます! 中身は何でしょうか?」
丁寧にサツキがリボンをほどき、包装紙を開いていくと、一冊の本が顔を出した。
テーブルに戻ってきた進次郎が「どれどれ」とその表紙を覗き込む。
「……本当にあった都市伝説100選? えらく胡散臭い本だな」
「そんなことはないわ! この本にある都市伝説はどれも信憑性が高くて……」
「はいはい、綾香さんよかったわねぇ~! あたしのプレゼントは、ネックレスよ!」
エリィがおもむろに取り出したネックレスを、サツキの首にかける。
そして手鏡を取り出し、本人に着けた姿を見せた。
「ほら、金海さんすごく似合ってるわよぉ!」
「本当ですね! ありがとうございますエリィさん! 大切にします!」
無邪気に喜ぶサツキに、申し訳ない気持ちになる裕太。
なにせ裕太のプレゼントはこのケーキなうえ、このケーキを買ったお金もカーティスから貰った「お小遣い」だったからだ。
せめて自分で買えばよかったなと思っていたが、ケーキを美味しそうに頬張るサツキの顔を見ると、その罪悪感もすぐに消えていった。
「──って、何でオレ様の家でパーティやってんだお前らはよぉ~~!!」
激しい音とともに扉を開ける家主、もといカーティスが手をワナワナとさせながら大声で叫ぶ。
「何で、って言ったって……オッサンがいつでも遊びに来ていいって言ったんじゃないか」
「いや、そりゃあ言ったがよ。こんな大人数来るとは考えてなかったぞ。あ、このケーキ美味いな」
文句を垂れながらも、ジュンナに手渡されたケーキを頬張るカーティス。
そもそも、カーティスとこういう仲になったのは雑布飛行場からの帰り道に遡る。
※ ※ ※
「それにしてもガキンチョ。お前すごく強いじゃねえか! 学生にしておくにはもったいないぜ」
強盗団から盗まれた金を取り返した帰り道。
往きのときと同様にヘリコプター形態の〈ヘリオン〉の取っ手に捕まる形でぶら下がっていた裕太は、唐突にカーティスから褒められてキョトンとした。
「いきなりどうしたんだオッサン。褒めても金は出せないぞ」
「違う違う! オレ様はな、以前から考えていた計画があるんだよ」
「計画?」
「ああ。民間防衛許可証を持ってる連中はそこそこ数がいるが、今のところ全員バラバラだ。そこで、さっきみたいに力を合わせればどんな事件が相手でも負けねえんじゃねえかとな」
カーティスの言うことに、裕太は一理あるなと感じた。
これまでは相手となる犯罪者が1機だけだったために対応できていたが、今後は今日みたいに集団で襲い掛かってくるケースもあるだろう。
大田原たち警察の到着を待ってもいいが、彼らは出動までに手続きがあるのと陸路なためにどうしても時間がかかってしまう。
カーティスならば、空を飛べる〈ヘリオン〉で駆けつけられるためいざという時にも頼りになりそうだ。
「つまり、オッサンは傭兵団めいたのを作りたいってことか」
「いろいろと語弊があるが、まあそうなるな。どうだ、この話乗らねえか?」
「……乗っても良いんだが、銀川はどう思う? おーい銀川?」
「は~い……」
戦闘が始まってからずっと静かなエリィに裕太が声をかけると、落ち込んだような声が帰ってきた。
「銀川、どうした? 怖かったのか?」
「違うのよぉ。あたし、無理言ってついてきたのに特に力になれかったから落ち込んでるのよぉ……。このオヤジさんのオナラを浴びるために乗ったみたいだと思うと、やりきれなくってやりきれなくって」
「ああ……」
確かに、強盗達が乗っていたのは既知の〈ガブリン〉だけで改造機もなし。
真新しい機体は専門外のセスナ機だったため、エリィの役割は何もなかった。
「それはさておき……」
「さておきじゃないわよぉ! うら若き乙女が屁を浴びるために同行したなんて、人生の汚点よぉ!」
「ほら、後でパフェ奢ってやるから機嫌直せよ」
「ほんと!? で、何の話だったっけ?」
あまりの変わり身の速さにコックピットの中で前にずり落ちる裕太。
「オッサンが仲間にならないかって誘ってんだよ」
「いいんじゃない? そうしたらあたしも戦力の一人だし!」
「ほう、嬢ちゃんも許可証持ちか。こりゃあいいや。よし、これからはオレ様の家を拠点として自由に使ってもいいぞ! 豪邸を建てたは良いが、部屋が余りまくっててな。ハッハッハ!」
※ ※ ※
「──って言ってたじゃねーかオッサン」
「確かに言った、言ったがぐぬぬ……! もう知らん! ちゃんと片付けろよ!」
「「「はーい」」」
言葉に詰まったカーティスは、やりきれない気持ちをごまかすように音を立てて扉を閉めて去っていった。
……その後、一晩中パーティで騒ぎ通した裕太たちにカーティスが怒るのはまた別の話。
……続く
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登場マシン紹介No.17
【ヘリオン】
全高:8.3メートル
重量:7.0トン
アメリカのビッグハード社製キャリーフレーム。
近年、アメリカが制式採用したキャリーフレームは可変機ばかりであり、このヘリオンもその例に漏れずヘリコプター形態とキャリーフレーム形態を使い分けることのできる機体となっている。
機械の手としての機能を廃した右腕の巨大なレールガンが特徴で、対キャリーフレームとして非常に高い威力を発揮する。
カーティス機は更にオプション機能としてこのレールガンにエアブラスター機能を搭載しており、流れ弾が危険な状況では空気弾で攻撃することが可能。
他の武装としては頭部の機関砲や脚部に搭載されたミサイルランチャーが存在する。
【次回予告】
ジェイカイザーの修復が済み、グレイへのリベンジ戦へと臨む裕太。
新たな武器を手にし、切られる戦いの火蓋。
果たして裕太は、自らと母の仇を討つことができるのか。
次回、ロボもの世界の人々第18話「決戦 ナイトメア!」
「今日こそ決着をつけてくれる、笠本裕太!」
「奇遇だな。俺も今日で終わりにしたいと思っているんだよ。来い、ジェイカ──」
「笠本裕太、死ねよやぁぁ!!」
「こらーっ! 乗るまで待ってくれたって良いだろうがー!」




