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第16話「ライバル登場 鮮血の埠頭!」【Aパート 謎の手紙】

 【1】


「おーっす、進次郎」


 風邪を完璧に治し久々に教室へと入った裕太は、暇そうに座っていた進次郎に元気さをアピールするような気さくな挨拶をした。

 裕太の声を聞いて表情を明るくさせたエリィが立ち上がり、にこやかな顔で「おはよ!」と言う。

 進次郎の机に張り付いていたサツキも「おはようございます!」と元気な挨拶を返してくれた。


「やっぱ、この4人が集まると安心するわねぇ」

「そうだな。いなくなって初めて分かる裕太の大切さ……」

「おい進次郎、それじゃあ俺が死んだみたいじゃねえか」

「じゃあ今度、裕太さんが休んだときは知り合いの水金族に裕太さんになってもらいましょう!」

「金海さん、それは止めて欲しい。絶対に」


 4人はハハハと笑い合っていると、ホームルームの始まりを告げるチャイムが教室中に響き渡った。

 軽部先生にどやされまいと、好き勝手な場所で話していた生徒たちが各々の席に戻っていく。

 裕太も自分の席に座り、次の授業の準備をしようとカバンから取り出した教科書やノートを机の引き出しに差し込んだ。

 すると、奥の方でクシャっと紙が潰れるような音が聞こえた。


「……ん? なんじゃこりゃ」


 引き出しの中に腕を突っ込み、手に触れた何かを掴んで取り出す。

 それは、くしゃくしゃになった一通の封筒だった。

 開け口がベットリとのりで貼り付けられているうえ、ハートのシールで封されているその封筒を、後ろからエリィが覗き込んだ。


「それ何かしらぁ? もしかしてラブレター?」

「……の割には封が厳重すぎると思うんだが。……ま、学校が終わったら開けるか」


 そう言って、裕太は封筒をカバンの中に仕舞い、教科書とノートを再び引き出しの中へと入れた。



 【2】


 翌日。

 学校に向かうまでの道を、いつものようにふたりで歩くエリィと裕太。

 裕太がボーッと歩いていると、不意にエリィが背中をトントンと指でつついてきた。


「何だよ銀川」

「結局、中身は何だったのぉ?」

「中身?」

「ほら、昨日のラブレターよ」

「あ、すっかり忘れてたぜ。……って、まだラブレターとは決まってないだろうが」


 そう言いながらカバンに手を入れ、奥から教科書に潰されてクシャクシャになった封筒を取り出す裕太。

 中身を傷つけないように端を慎重に指で破き、中身を取り出すと折りたたまれた一枚の紙が顔を出した。

 その紙を後ろからエリィが、指でつまんで取り上げる。


「おい銀川、俺に先に読ませろよ」

「良いじゃない減るものじゃないんだしぃ! えーとなになに、拝啓 笠本裕太……」



  はいけい、笠本裕太さま

  たて続けの事件解決、ご苦労様です。

  しかしながら、一人での戦いは

  じゃまに入られたときに困るでしょう。

  ようするに、お手伝いがしたいのです。

  うんうんと頷くなら、代多埠頭よたふたとうまでお越しください。



「……変な文章の手紙ねぇ」

「文面通りに捉えるなら、この手紙の主は俺の協力者になりたいというところだろうが……」

「じゃあ、どうして埠頭ふとうなんかに呼び出すのかしらぁ? 」


『裕太、これは果たし状だ!』


 携帯電話越しに文面とにらめっこしていたジェイカイザーが唐突に叫ぶ。

 裕太は周囲を見渡し、今の声を誰にも聞かれなかったか確認した。


「いきなり喋るなよジェイカイザー。で、なんで果たし状なんだ?」

『よく見るのだ裕太。文章の左端を縦に読むと……』

「えーと……は・た・し・じ・よ・う。……確かに果たし状ねぇ」

「そんな、ネット掲示板じゃあるまいし。縦読みを仕込んで果たし状を送ることに何のメリットが有るんだ」


 歩道のど真ん中で、ふたりであれこれと考え込む裕太とエリィ。

 そもそも、果たし状を送ってきたのは誰なのか、どうしてこんな回りくどい方法を使ってきたのか。

 思い当たるフシがなく、答えが出ない。


「おい、何でこんなところに突っ立っているんだ」


 そんな時、ふたりの背後から聞き覚えのある低い声が飛んできた。

 振り返ると、そこには何度もお世話になった警察官、照瀬てるせの姿があった。


「照瀬さん、おはようございます」

「おう、おはようさん。何だ、道のど真ん中で手紙の朗読でもしているのか?」

「手紙じゃないわ。果たし状よぉ」

「果たし状だと?」


 エリィが差し出した紙を掴み、素早く目を通す照瀬。

 最初は首を傾げていたが、縦読みに気がついたのか納得したような表情になり、最後は眉間にシワを寄せた顔になった。


「……言いたいことはわかるが、意図がサッパリ読めん」

「俺もですよ照瀬さん。でも放っておくのもなんだか気味が悪いし、今日学校が終わったら埠頭ふとうに行ってみようかと思います」

「いたずらの可能性も無くはないだろうがな。ま、困ったら俺に知らせろ。軽犯罪に強い知り合いは何人かいるからな」


 そう心強い言葉を残して、照瀬は警察署の方へと小走りで去っていった。

 埠頭に行ってみるという発言を聞いてか、エリィが心配そうな表情で裕太の顔を横から覗き込む。


「行くって言ってたけど、大丈夫かしらぁ。本当に果たし状だったら勝負を仕掛けられるわけでしょ?」

『心配無用だぞ、エリィどの! 数多の戦場で武勲を上げ続けた裕太は百戦錬磨の立派な戦士だ!』

「それは少し言いすぎだが、送り主の顔を見てみたいという怖いもの見たさもあるしな」


 軽く笑いながらそう言う裕太の表情を見てか、ふふっと微笑みを返すエリィ。


「そうね、笠本くんなら大丈夫よね! 今まで何度も、なんどもあたしの身に迫る危険を取り除いてくれたもの! 免許試験のときも、軌道エレベーターのときも、月のときも!」

「軌道エレベーターの時に危なかったのはお前じゃなかったけどな」

「もう、細かいことはいいじゃない!」


 頬を膨らませたエリィがプンプンと先へ向かってしまったので、裕太は慌てて後を追った。

 しかし、このとき裕太は忘れていた。


 ──果たし状が届いていたのが昨日の、それも朝だったことを。



    ───Bパートへ続く

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