第15話「裕太のいない日」【Dパート 波乱のコンビニ】
【5】
それからエリィたちは四人で街に繰り出した。
進次郎のお金を頼りに、サツキと綾香の仲良し大作戦。
「ちょっ!? お姉ちゃんそれハメ、ハメ
だから!! ああーっ!」
「ふっふっふっー! 進次郎さんのお家で練習しましたからね!」
『サツキどのすごいぞ! レバー三回転からの複雑なコマンドの超必殺技を一瞬で!!』
「僕、あれに毎回狩られるんだよねー……」
「ねえ岸辺くん。このゲーム、パワーバランスおかしくなぁい?」
ゲームセンターで対戦格闘ゲームに興じたり……。
「ねえお姉ちゃん、これ似合うかな?」
「すごく似合います! かわいいですよ綾香! 進次郎さんあれも全部買う方向で行きましょう!」
「……ねぇジェイカイザー、あれ全部でいくらだっけぇ?」
『12に0が4つだな!』
「僕の財布にだって限界はあるからな……!?」
洋服店で着せ替え大会を開いたり……。
「ほら、あそこ学校じゃないですか?」
「わーっ! 本当だ! ほら見てお姉ちゃん、キャリーフレーム部が練習してる!」
「内宮さんがあそこにいるのかしらねぇ?」
『一度内宮どのとも手合わせしたいものだな!』
「ふへぇ、疲れたよ僕は……」
ショッピングモールの観覧車に乗って景色を眺めたり……。
そうこうしているうちに夕日も沈み、時刻は夜へと移り変わろうとしていた。
【6】
「楽しかったね、お姉ちゃん!」
「そうですね、綾香! ……進次郎さん、大丈夫ですか?」
「なんのこれしき……僕は男だからな……!」
買い込んだ洋服類でパンパンになった紙袋を両手に持ち、額から汗をにじませた進次郎が強がって絞り出したような声を出す。
もうかれこれ数時間もこの状態で歩き続けているので、体力が限界なのだということは容易に想像できる。
しかし、エリィが持つのを手伝おうと進言しても、進次郎は頑なに一人で荷物を全部持つことをやめようとしなかった。
しかし、薄暗くなりつつある大通りの脇を歩いていると、ついに限界に来たのか進次郎がフラフラとよろけて、ベンチに座り込んで荷物を置いた。
「ゼェゼェ……さすがにちょっと休憩を要求するぞ僕は」
「体力ないのに無理するからよぉ」
「進次郎さん、あそこで休憩しましょう!」
サツキが指差した先にあったのは、ビルの一階部分を店舗としたコンビニだった。
奥には買った商品をその場で食べられるイートインスペースが設けられているタイプのコンビニなので、ゆっくり休憩ができるだろう。
綾香も「さんせー」と笑顔で手を上げて了承し、全員でゾロゾロと入店する。
間延びした店員の「らっしゃいませー」を聞きながら、みんなで真っ先に奥にあるドリンクコーナーへと向かった。
「あたしはこのリンゴジュースで」
「私はコーラ!」
「えっと、オレンジジュースで」
次々と買い物カゴに飲み物を入れていく女性陣。
一方、進次郎はうーんと何にするか迷いまくっているようだった。
「うーむ、ソーダにするかコーラにするか、それともコーヒーもいいかもしれん」
「早く決めなさいよぉ」
「まあまあ、そう急かさなくても……」
パァン!
突然店内に鳴り響く銃声。
咄嗟に音のした方を振り向くと、フルフェイスのヘルメットを被った、いかにもな強盗が店員に拳銃を向けていた。
天井の弾痕を見るに威嚇で一発、拳銃を発砲したらしい。
コンビニ強盗は語気を荒げながら店員の顔に銃口を近づける。
「聞こえなかったか、金を出せと言っているんだ!」
「ひ……ひぃ……! うーん……」
銃を向けられたビビりすぎて気を失ったのか、店員が真っ青な顔をしたままその場に崩れおちた。
まだレジも開いていないのに店員に気絶された強盗は舌打ちをし、エリィたちの方向に拳銃を向ける。
荒事に慣れていない綾香は、拳銃を向けられたと同時に小さく「ひっ」とすくみあがり、恐怖で身体を震わせながらその場に座り込んだ。
強盗はその様子を見下すように、ヘルメットのバイザーの向こうにかすかに見える目を細めて銃口を上下に揺らして脅しをかける。
「ガキども、死にたくなけりゃおとなしくしろよ」
「……銃を向けるのをやめてください!」
「あん?」
声を出して強盗の前に一歩出たのはサツキだった。
顔つきを強張らせ、毅然として立ち向かうサツキの姿に強盗が少し後ずさる。
「き、聞こえなかったか? 命が惜しけりゃ動くなって……」
「妹が怖がっているんです! やめてください!」
「おとなしくしろと……」
「やめてください!」
「だから……!」
「めーでしょっ!!」
「ちいっ!!」
パァン、と乾いた音とともに銃口が火を吹き、同時にサツキが額から血を出しながらその場に倒れた。
強盗は拳銃を握った手を震わせながら、拳銃を降ろす。
「だ、だからおとなしくしろといったんだ!! おいてめえら、勝手なことをしたらこのガキみたいに……!?」
そう言っていた強盗の顔が、凍りついたように固まった。
驚くのも無理はない。なぜなら、今額を撃ち抜かれたはずのサツキが何事もなかったかのように、むくりと起き上がったからだ。
立ち上がったサツキは一歩、また一歩と強盗に歩み寄る。
「やめてください……!」
「あわわ……!?」
「妹が……!」
「ひいいっ!」
「怖がってるんです!!」
「ば、バケモノォォォ!!?」
パァン!
怯える強盗の手から銃声とともに、弾かれるように拳銃が宙を舞った。
いつの間にか進次郎が手に持っていた、小型拳銃の硝煙が天井に昇る。
「進次郎さん……!」
「大丈夫か、サツキちゃん。さあ強盗め、おとなしく掴まってもらうぞ!」
「進次郎さん!」
「サツキちゃん、後にしてくれ」
「進次郎さん、せっかく拳銃渡したのになんで私が撃たれるまで待ったんですか? 死ぬほど痛かったんですけど!!」
「……ごめん。隙が見つからなくって」
プリプリと怒るサツキに平謝りする進次郎。
エリィには見慣れた風景だったが、綾香はふたりの様子を見たまま固まっていた。
「今!? お姉ちゃん!? 撃たれ……!?!?」
「えっとね、説明すると長くなるんだけどぉ……。あっ! 強盗が! 待ちなさい!」
どさくさに紛れて外に逃げていく強盗を、咄嗟にエリィは走って追った。
───Eパートへ続く




