第14話「メイド・イン・パニック」【Hパート 発進、ジェイカイザー】
【8】
「俺もうおムコに行けない……」
『大丈夫だ裕太! 銀川どのがきっと貰ってくれる!』
服を着なおして靴を履きながら、涙目で憂う裕太にジェイカイザーが解決にならない慰めを言った。
ふたりのやり取りを後ろで聞いていた進次郎は、呆れながら両手で抱えていたものを裕太に手渡した。
「おい裕太、馬鹿なこと言ってる場合か? 行くのならば、これを使え」
「これって……高級ホバーボードじゃねーか!」
それは月でジュンナに追われていたとき、サツキが変身したものと同じホバーボード。
最高時速100キロを超える高速ホバーボードならば、現場にすぐ到着できる。
「よし、借りるぜ進次郎!」
「ただし、壊すなよ。壊したら弁償だからな」
「お、おう……」
100万円の代物を手に持って、恐れ多く若干の使いづらさを感じつつも、丁寧にホバーボードを玄関の外へと浮かべる裕太。
彼を見送るように、エリィたちも玄関から声援を送る。
「笠本くん、気をつけてね!」
「がんばってくださいね!」
「ニュイ〜!」
「ご主人様、どうかご無事で」
「笠本くん、ケガしないようにね!」
「進次郎さんと一緒にここで応援してますから!」
「がんばるニュイ〜!」
「ご主人様、どうかご無事で」
「……あのさ、もう行っていい?」
このまま順番に延々と声援を送られるのではないかと不安になった裕太がそう問いかけると、見送りの面々が一斉にウンウンと頷いた。
裕太はスゥ、と大きく深呼吸し、片足ずつホバーボードに乗せる。
アクセルスイッチを静かに踏み込むと、ホバーボードの周囲の大気が揺れ、そして一気に加速した。
※ ※ ※
風を切って現場へと向かう裕太。
ふと前方を見ると、逃げ惑う人の列が道を塞いでいた。
咄嗟に周囲を確認し、駐車されているセダンタイプの車を発見する。
その車に向かいホバーボードの進路を変えた裕太は、ジャンプ台代わりに車を飛び越えて人の列を飛び越えた。
『凄いな、裕太!』
「昔、カッコつけてホバーボード練習してたからな。えーと……あの公園がちょうどいいか」
数件の家を挟んだ向こう側に〈バルバロ〉が見える中、裕太は付近にあった公園へと入り、ホバーボードを飛び降りる。
そして、ズボンのポケットから携帯電話を取り出し天高く掲げて叫んだ。
「来いっ! ジェイカイザー!!」
裕太の声に応えるように公園の土が円形に輝きだし、立体映像の魔法陣を形成してからその中心にジェイカイザーの本体を出現させた。
久々の召喚に興奮で身を震わせつつ、急いでコックピットに飛び乗り操縦レバーから神経接続を果たす。
そして裕太は正面のコンソールを指で操作してハッチを閉じ、ジェイカイザーを立ち上がらせた。
「さあ、来やがれ愛国社!!」
正面から向かってくる〈バルバロ〉を受け止めようと腰を落とし待ち構えるジェイカイザー。
そして、6本の足を巧みに動かしながら向かってくる、まるでクモかカニのような外見をした〈バルバロ〉はジェイカイザーへと向かい──
──そのまま横を通り過ぎていった。
───Iパートへ続く




