第14話「メイド・イン・パニック」【Dパート メイド修行開始!】
【4】
「……ここが、進次郎の家?」
塀に埋め込まれた「岸辺」の表札。
何の変哲のない格子状の門。
特に浮いている訳ではない2階建ての一軒家。
想像していたものよりも、もっと平凡で、もっと地味な家屋がそこにあった。
「やあ諸君。よく来てくれたね」
至って普通の玄関の扉を開けて、進次郎が姿を現した。
その背後には笑顔で手を振るサツキの姿もあり、彼女の頭には猫の顔をした黄色い生き物が鎮座している。
「よお、進次郎。俺はてっきりお前の家は金ピカの家かと思ってたぞ」
「あのな裕太。そういうのは成金のやることだからな」
「ほんとよねぇ。学校の敷地くらい大きい庭とかあると思ってたわぁ」
「だから、それは成金の家だって。……よほど貴様らの金持ち観は歪んでいると見えるな。まあいい、あがってくれたまえ」
「「「おじゃましまーす」」」
※ ※ ※
外見に見合ったごく普通の居間。
エリィ達とカーペットの上に置かれた四角いちゃぶ台を囲みながら、裕太は湯飲みに入った緑茶で喉を潤す。
「ぷはーっ。うめぇお茶だ、もう一杯」
「おい裕太、貴様何をしにここへ来たか忘れているのではあるまいな?」
「ああそうだったそうだった。えっと、岡野さんだっけ? あのメイドさんはどこに?」
キョロキョロと裕太が辺りを見回すと、階段を降りる小気味良い足音が聞こえ、扉を開けてメイド服姿の岡野が姿を現し、一礼した。
「ようこそいらっしゃいました、ご友人様」
「お邪魔してます、岡野さん。ほら、ジュンナも挨拶あいさつ」
裕太に促され、渋々といったふうにジュンナが軽く会釈をした。
と同時に、岡野の目がキッと鋭くなり、どこからか取り出したハリセンでジュンナの頭をスパーンと叩いた。
「!?」
「何ですかその表情は! それにお辞儀の角度が浅い! これから教えを乞う身であるのなら、45度以上の最敬礼をするものです!!」
「あ……は、はい!」
「返事が甘い! もっと真剣になるのです!」
「はい!」
突然豹変した岡野の態度と、彼女につられて素直な返事をするジュンナ。
メイド服に身を包んだふたりの、あまりの変わりように目を白黒させる裕太とエリィ。
ちゃぶ台の側で横になっていたサツキがムクリと起き上がってニコニコした顔で口を開く。
「岡野さん、教え子ができるって言って張り切ってたんですよ~」
「まあ、今まで最若年として扱かれる立場にいたからな。天才の僕としても、岡野さんがああなる気持ちはわからなくはない」
サツキと進次郎が冷静な分析をしている間に、岡野はジュンナの手を引っ張って庭の方へと向かっていった。
一瞬追おうかとも考えた裕太だったが、このまま放っておいた方が良いのではとも思い、ちゃぶ台に向き直って湯呑みの中身を飲み干した。
───Eパートへ続く




