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第14話「メイド・イン・パニック」【Aパート メイドロボ・ジュンナ】

 【1】


 赤紫色の鋭い手刀がジェイカイザーの右腕を切り落とした。

 胴体から離れた腕は重力に引かれ、ドスンと大きな音を立てて辺りに砂埃を巻き上げる。


 正面に見えるのは、右目の部分に大きな傷を負ったキャリーフレーム〈ナイトメア〉。

 その〈ナイトメア〉がガトリング砲を取り出し、コックピット越しに裕太を狙った。


「動け、動け、うごけ!! 何で動かないんだよ、ジェイカイザー!!」


 裕太は必死にレバーを押し引きするが、まるで電源が落ちてしまったかのようにジェイカイザーは動かず、返事もない。

 そうこうしている内に、裕太の方へと向けられたガトリング砲が回転しだし、ギュィィンという耳障りなモーター音を轟かせる。


 ──撃たれる。殺される。


 死の恐怖に声さえも出なくなった裕太は、音にならない声を上げ、無意識の内に自分の目を腕で覆った。



 ※ ※ ※



「うわああっ!!?」


 悲鳴を上げながらベッドから起き上がる裕太。

 びっしょりと汗塗れになった自分の手を見て、先程までの光景が夢であったことを認識する。


 ひどくリアリティのある悪夢だった。

 自分を狙うガトリング砲の駆動音が、まだ耳の中で反響しいているような気さえしてくる。


 ……いや。


 裕太のすぐ横から、その音は確かに聞こえてきていた。

 恐る恐る音のする方に裕太が顔を向けると、そこにはギュンギュンと回転する腕のガトリング砲を裕太に構えた、メイド服姿のジュンナが立っていた。


「おはようございます、ご主人様」


 カーテンを締め切った薄暗い部屋の中で、ジュンナは砲身を向けたまま無表情でそう言った。



 【2】


「それでよ銀川、あいつなんて言ったと思う? 起こすときは音を立てると良いとジェイカイザーから聞いたので、私の機能を最大限に生かした方法を取りました……だってよ」

「そりゃあ、災難だったわねぇ。笠本くん」


 悪夢から覚めた後の裕太は、やつれた顔のまま登校し、遅刻ギリギリになりながらも教室に到着した。

 そして上の空のまま午前中の授業を乗り切り、訪れた昼休みになってやっとエリィに今朝のことを愚痴るタイミングを得られたのだった。


「それにしても、ジュンナって今、メイド服を着てるのねぇ」

「ジェイカイザーが俺の金で勝手に通販したんだよ」

『良いではないかメイドロボ! 男のロマンのひとつであろう!』

「……家事をちゃんとやってくれて、優しくお世話してくれるなら文句はなかったけどよ」


 修学旅行から帰った後、裕太はジュンナを自分の家に住まわせることにした。

 裕太の家はもともと家族三人で暮らしていたのだが、母は入院中、父は宇宙出張で家を開けているため、部屋を持て余している。

 なので一室を彼女の寝室とし、共同生活を送ることになったのであるが……。


「そもそも、朝くらい一人で起きられるっていうのに。何でジュンナは俺を起こしに来たんだ?」

『彼女が自分の役目、存在意義を探しているようなので、私が提案したのだ!』

「おまえが元凶かこのクソロボット! また例のアレ動画の刑に処すぞ!!」

『はうっ!!! それだけは止めてくれ裕太!!』

「こらこら、ケンカしないのぉ」


 エリィになだめられ、冷静さを取り戻す裕太。

 自分からジュンナの主人になると言った以上、面倒を見なければならないのはわかっている。

 しかし、このまま戦う以外の生活能力もなく置いておくというのも彼女のためにならないだろう。

 少なくともジェイカイザーの話が本当なら、ジュンナは日常の中で役に立ちたいという気持ちも強いように思える。

 何かしら手を打たなきゃいかないよなあ……と、裕太は中庭のベンチの上で額に手を当て考え込んだ。



    ───Bパートへ続く

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