奥多摩個人迷宮発売記念なろう限定?SS アットザフロリダ・キーズ
恒例となったニューイヤーバカンス。
あまりにやることのなさ過ぎるバージン諸島より、日本人組はフロリダの方が好みである。
「バカンスなのに何かやろうとするなんて。戦後、日本が奇跡の経済復興をした理由が分かるな」
などとブラス家長男のジョシュが妙にしたり顔でうなずいている。
ちなみにジョシュはさすがにエリートらしく、すでに日本語をマスターしている。
「違うんだよ。俺らは田舎者だからさ、バカンスはむしろ買い物したり観光したりした方が楽しいんだ」
「で、あるか」
だれだよジョシュに信長の相づち教えたの。
まあ使いどころは間違っていないんだけどな。
ダンジョンが出来てから割と高層建築がにょきにょきと生えた奥多摩だが、俺たちは根っから田舎者だし、バージン諸島でなにもしないでごろごろしてるより、フロリダをドライブしたりボートで観光してる方が楽しい。
それにフロリダにはカジノもあって退屈しない。
もっともケイティに言わせると、ヤマギシファミリーはジリオネラのくせに賭けがみみっちい、そうである。
悪かったな。
根がコンビニ経営者のままなんだよ、俺ら。
アメ車のやたらでかいオープンカーに乗ってビーチボーイズをかける。
俺のお気に入りはココモだ。
なに歌ってるかさっぱり分からないけど、トムクルーズの出てた映画の主題歌だってくらいは知ってる。
「随分古い曲知ってるのね」
シャーロットさんがクスクスと含み笑いをして、ご機嫌で鼻歌を歌う俺に話しかけてきた。
「なーんかこういう雰囲気じゃない?」
「……あのな、おそらくフロリダの人間に取っちゃ単なる懐メロだし、そもそも、この曲ジャマイカの歌じゃないか」
苦笑して兄貴がいった。
ちらっとケイティを見ると、確かにその通りらしい。
「……ほっといてちょうだい」
「しかも次の曲はグッドバイブレーションでその次がカリフォルニアガールだろ?」
悪かったな。
「じゃあマイアミ・ヴァイスのサントラかけるか?」
「それもたいがい懐メロなんだよ」
「そんなにこだわりがあるならジャマイカ行ってみましょうか?」
ケイティが言うが、
「いや、それじゃバージン諸島と結局変わらんぞ? それにお前ただあの酒瓶投げてカクテル作るの見たいんだろ? あんなのフロリダでもあるって」
「そうなの?」
言われるまで全く忘れてたけどそれは見てみたい。
「ちなみに、この曲が懐メロだって感じになった理由はただ古いからだけじゃないんですよ」
シャーロットさんが言う。
「もうあの海岸、ココモって呼ばれてないんです」
なんですと!
「サンダルズ・ケイって名前に変わりました」
うわ、だっさ。
「なんかがっかりだ」
みるみる落ち込んだ俺のため、一行は例のビンを投げるバーテンのいる店に俺を連れて行ってくれた。
だけど、ダンジョンで運動神経や動体視力、空間識が飛躍的に向上してる俺たちは、1人残らず1回見ただけで同じ事が出来てしまい、なんだか微妙な雰囲気になって結局ホテルで飲み直しとなってしまったのだった。
式村です。
書籍発売に合わせて、とらのあなさん、ゲーマーズさんにそれぞれSSリーフレット用にSSを書きました。
そこで、なろう用にも短いですが、書きました。
今後の更新はまた未定ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
追伸:活動報告の方に表紙画像を公開いたしました。




