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間章――冒険者達の時代

「サーモバリックはM203グレネードランチャー用があります」

RPG-7用が現在流通していないことをドナッティさんに伝えると彼女はそう答えた。

とりあえず、M203ということはM4カービンあたりも必要になるのかな?

単体でも撃てるらしいんだけど普通はM4やM16に付けて使うようだしな。

「分かった。もし全米冒険者協会のほうで調達できるものなら調達していいよ。仕様なんかを出してもらえたらあとは協会のほうで認可取るから」

ダンジョンで銃砲を使う場合、冒険者の登録免許とヒモ付けすることで購入が出来るようになった。

この辺は下原のおじさんの地道なロビー活動が実を結んだ形になっている。

持ち運ぶ際には容易に取り出せないように保管することが条件だし、基本、ダンジョンの外にあるロッカールームに厳重に管理されることになっている。

まあ、銃なんかを当たり前に屋外に持ち歩かれたら困るしな。

ウチの場合は、俺の<収納>に入れてるんでこの辺の問題は起きなくて楽だ。

マニー達元軍人さんたちもやっぱりM4は使いたいとずっと言い続けてたしな。

そんなわけで、冒険者協会では火器修練を行い、合格者にはそれと分かる徽章を発行する。

ドナッティさん岩田さん、マニー達などには火器指導員徽章を用意してある。

銃というのは、ただ引き金を引ければいいわけじゃない。

構造を知り、メンテを行い、弾がジャムったり銃口に汚れを残したりというようなトラブルを避けなければ、いざというときに役に立たない怖れがあるからな。

まあそんなわけで、俺や沙織は銃についてはノータッチだけど、ケイティはしっかりM4などの習熟訓練に参加している。

俺たちもRPG-7を使う関係上、火器使用者徽章だけは持ってるけどな。


昼下がり。オヤジが秘書や部下に歩きながら指示をして、俺たちが待つ自宅の食堂に現れた。

「おう、待たせたな」

会議が長引いたらしい。

よほど先に食ってやろうかと思ったんだが、沙織達が「来るまで待つ」というのでやむなく俺も待った。

「全米冒険者協会から招待?」

オヤジに手渡されたのは、ずいぶん気を使った封書だった。紙質とかも普通の郵便と違い、何となく高そうなエンボス加工で作られている。

「日本支部の実績を元に、アメリカでも冒険者学校を作るらしい。そこで、ウチからノウハウを持った人間達を出席させて欲しい、ということだな」

「出席するの?」

「ああ。お前らにも行ってもらう予定だ。全米協会には世話になりっぱなしだろ?」

たしかにな。

武器の調達や政治的な駆け引き……特に、軍用兵器を冒険者に使わせてもらうためのだけど、そうした方面ではずっとこっちの依頼をこなしてくれ続けてたし、借りた義理は返さないとまずい。


一番金に困ってた頃は、西海岸まで会社総出で行こうなんて思うと資金繰りにさえ困っただろうけど、近頃ではチャーター機を借りることが出来る。

オヤジや兄貴、下原のおじさんに兄貴の先輩氏、病院の理事長に山口先生や看護部長といった医療チーム。ウチのチーム全員にマニーのチーム。

それに、俺たちをサポートしてくれる総務や秘書のメンバー達に、法務や特許周りの専門家。

総勢で200人を超える招待だ。


今回のコンベンションは冒険者協会に所属する全世界の要人達が勢揃いする。

ウチが培った今日までの経験や知識を元に、世界中で共通化できるような設備……ダンジョンのゲートをダンジョン棟で囲ったり、警戒担当の警察や軍を駐在させる設備を作ったり。

<リザレクション>を中心にした新しい魔法医療。

その担い手である医師の育成。

冒険者に必要な武器や防具。装備だけでなく、<フロート>を使った輸送手段の提供などのノウハウ。

そして、日本各地で計画されている来年度からの冒険者育成学校など、全世界で共通化が可能な全ての情報を共有化し、規格化できる部分は国際規格化させる。

そんな話し合いの場として今回の会議は準備されている。


最大規模の会議に備え下準備として、世界中の協会から続々と協会関係者や幹部が来日し、奥多摩に集まってきているらしい。

実務を見学したりオヤジ達から学んだり、施設を見学したりと実に忙しく動き回っているということだった。

俺たちの前にそうした彼らが現れないのは、トップチームの俺たちの邪魔をしないようにと言う配慮の表れなんだそうだ。


10月15日のベンさんたちの結婚式が終わったら、俺たちはこぞってアメリカに行くことになる。

会場はロサンゼルス・コンベンション・センター。会期は1週間の予定だそうだ。




農林水産省は実に協力的だった。

通常、輸入農産品の検疫には経産省や外務省も加わることになるのだが、一応国内に所在することになっているダンジョンに関しては、農水省だけの所管として植物の防疫が行えるようだ。

最初の話し合いのあと、下原のおじさんをリーダーに防疫施設の検討が行われ、一時的にはゲートのすぐ外。次に、植物を運び入れられるプラントが用意されることになった。

エアフィルターによってプラント内部の空気は全て濾過されて循環する。

胞子や菌のたぐいを外に出さない配慮だ。

「有害物質があるかどうかを知るためには、いっぺん育ててみる必要があるらしいです」

おじさんが教えてくれた。

防疫関係の専門家達のアドバイスで、ダンジョン棟にも冒険者達用のシャワー室や隔離施設が建てられることになった。

何らかの感染症を冒険者が患ったとき、緊急に隔離するための施設だそうだ。

また、ここで使われる水は、医療用より更に精度の厳しい浄化施設で処理されて下水になるらしい。

防疫用のプラントは奥多摩と忍野に建てられる。

だが、隔離施設などは奥多摩、忍野、西伊豆に京都、つまりウチが管理を任された全てのダンジョンに提供される。

おそらく、ウチの施設がたたき台となり、世界中全てのダンジョンで採用されることになるでしょう、とおじさんはいっていた。

冒険者達の装備や着衣の洗浄も同じようにダンジョン棟で行われるようにするんだそうだ。

そのため、基本的に市街地で持ち運ばれると困る火器や武器のたぐいとあわせて、冒険者用のロッカールームも新築されることになった。

それらの全ての工事が終わるまで、俺たちは新階層のアタックが禁じられた。

俺たちはぽっかり出来た暇な期間を、来年から冒険者の教員になる先生候補者達の育成に当てた。

そうこうしているうちに10月になり、ベンさんと静流さんの結婚式が盛大に行われ、それが終わると、アメリカへと俺たちは旅立つことになった。


組織や仕組みというものは、どうもある一定の段階になると急速に形がはっきりしてくるらしい。

ここまで三年。

俺たち――俺や兄貴やオヤジ。下原さん夫妻に沙織、そしてブラスコファミリーといった草創期のメンバーやその家族によって手探りで作られた「冒険者」という存在とそれを支援する団体、ヤマギシとか冒険者協会とか法人や団体なども、動く金、集う人、そして算出するモノによって巨大化し、システム化され、そして社会に一定の存在感を示すようになって来た。

手作り感満載だった世界冒険者協会のコンベンションは、企業や広告代理店やマスコミの参加で、すっかり「権威」を感じさせる世界的なイベントへと変貌していた。

その象徴が、彼だろう。

アメリカ合衆国大統領。

彼が開催オープニングのスピーチに立っている。

「大統領のスピーチって、すごいね」

俺が言うと

「魔法テクノロジーへの国際社会、それにアメリカ政府の期待の表れでしょう」

ケイティが答えた。

「それに、経済的にもアメリカにとっては大きいです」

ドナッティさんが補足する。

「失業対策、エネルギー問題、新産業……ダンジョンと魔法産業は、今のアメリカ政府にとって最優先課題です。大統領でさえ動くのは当然です」

なるほどな。アメリカの大統領以上に忙しい人間は多分地球上にはいないだろう。そんな人間でさえこうやって時間を取って来るだけの存在に、俺たちはなったのかも知れない。

まあ、俺、というより、冒険者が、だけどな。

俺自身は3年前のあの日――何かに突き動かされるように金属バット片手にダンジョンに挑んだあの夜から何一つ変わっていない。

装備が変わり武器が変わり、そして魔法を覚えてからも、ただ、あいつの正体を突き止めたい、その一心で潜り続けている。


大統領の求めに応じて俺たちはマスコミの前で彼と握手をする。

突発的を装っているけど、事前にその連絡をもらっていたので、俺たちは全員、ミ○ノが用意してくれた冒険者の正装に身を包んでいる。

胸には、これまた事前に用意してもらっていた名誉勲章を着けている。

俺たちを前にして大統領は敬礼をし、俺たちも返礼する。

出来レースではあるが、こう言う光景をアメリカ人は好むらしい。戦後生まれの日本人にはちょっと良く理解出来ないな。

映画で見るだけだしなあ。

「皆さんの今後のご活躍に期待します」

というようなお定まりの言葉に感謝を返して大統領との謁見はおしまい。

俺たちひとりひとりが彼と握手するさまをマスコミのフラッシュがまばゆく照らす。

彼の次は、民主党と共和党の次期大統領候補と同じように握手をして、また写真だ。

この手の泥臭い社交も、協会にとってはすごく大きな意味があるということで、俺たちはいわれるままに右往左往しながら、にこやかに写真撮影に応じる。

会議は各部門によるカンファレンスやらミーティングやらが始まっているし、展示場には日本企業の冒険者装備や魔法技術を使った新商品の展示会やらが招待客を呼んでいる。

ト○タのタービン発電電動自動車やH○NDAのフロートアクティあたりは盛況だし、アクションカム付きヘルメットあたりは、冒険者のみならず、自転車やスケボーといった競技のほうにも好評のようだ。


こうして、1週間もの長いコンベンションは終わった。

翌年4月に日本の冒険者学校はスタートし、9月には全世界で冒険者学校が始まる。

世界冒険者協会に参加している各国で、いよいよ、冒険者達の時代が始まっていく。



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