黒尾ダンジョン 3
バレットやデザートイーグルの評価は、「ミノタウロスに有効」という結論になった。
ただ、ウチのパーティでは魔法の飽和攻撃以上に劇的な効果があるかといえば
「微妙」
ということになる。
俺や沙織、近頃ではケイティも、遠距離から敵の気配や魔力を読むことが出来るから俺たちのパーティは安全にダンジョン内を動き回れる。
そうした気配が読めないメンバーだけでダンジョンを動く場合、耳栓はかなり不利だろう。
一方で、
「純粋に兵器としてダンジョンの魔物と対峙するときの評価としては有効」
という情報には値打ちがある。こうした情報は冒険者協会にも蓄積されるし、米軍や自衛隊でも買い取ってもらえる。
頼まれればレポートを書くこともあるが、今ではだいたい、ヘルメットに付けたカメラの映像を提供するだけで事足りる。
レポートは、俺たちの戦闘記録の映像を見て、専門家がすればいいって事だ。
さて、俺たちはついでにテキサスのダンジョン35層でボス戦を体験することにした。
「馬ね……」
「馬だな」
牛頭の次は馬頭か。つまりミノタウロスじゃなくて牛頭大王か? あれ。
いやまあなんでもいいか。
「作戦は前回通り。前衛は俺と沙織で、後衛は足止めメインに、余力でサンダーボルト。沙織は出し惜しみなしでサンダーボルト連発。俺はエクスプロージョンを使う」
全員がうなずいたのを確認し、俺は三本立てた指を折ってカウントダウン。
全員の本気の魔法攻撃で、10秒持たず2匹の牛頭と馬頭は魔素の輝きを残して消えた。
「確かに私たちに重火器は不要ですね」
ドナッティさんが感心したようにいった。
俺たちはここで引き返し、地上に戻る。
用意してもらった火器は、ブラス家の傭兵達に引き渡す。
俺の<収納>に入れていけば日本国内にも持ち込めるけど、どうせ使いはしないだろうと思う。
ドナッティさんや岩田さんはデザートイーグルを手放すのが残念そうだが、日本じゃ禁制だからな?
ていうか、もしかして2人とも、ガンマニア?
そんなわけでテキサスでの火器評価アタックを終えて帰国すると、オヤジと砂川理事長から依頼があった。
「今年も西伊豆でサマーキャンプを開いて欲しい」
要するに去年の夏のアレが好評だったので、今年も若手の看護士を中心に人材確保を目的にやって欲しいらしい。
「それって、俺らがいく必要あるの?」
俺がオヤジに聞くと、抗議はチーム側から上がるのだった。
「えー? いこうよー」
「サマーキャンプいきたいデス」
「私たちは未体験です」
「……」
「まあ、去年と同じでゆったりしたスケジュールでいいから、たのむよ。な?」
どうやらオヤジも砂川先生も、すでに空手形を切っているようだった。
「それはいいけど、宿はどうするの? 今年は妙蓮寺さんの本堂借りられないよ?」
俺が言うと、オヤジ達は慌てて土肥の観光協会に連絡し、約300人が一ヶ月滞在できるよう、宿の手配を協力してもらっていた。
6人一チームとして民宿やペンションまでお願いして、やっと宿の確保が出来たのは、一週間前というぎりぎりの状態だった。
まあダメだったら、浜辺近くのキャンプ場という手もあったんだけどね。
てな訳で、今年もやってきました西伊豆土肥。
まあ文句は言ったけど、海はきれいで魚もうまい。
女性陣は水着で温泉もある。
しかも比較的ゆとりのあるスケジュールが立てられるから、悪くはないんだけどね。
現地集合なので俺たちはSUVで向かい、前泊させてもらう。
さて。
いよいよサマーキャンプ初日。
地元のスポーツ公園を借りての結団式で、俺たちは意外な参加者と顔を合わせた。
「ご無沙汰してます」
京都の水無瀬姉妹だった。
彼女たちは全員、冒険者服を装備していた。
服のカラーリングが違うのは、白とブルーのツートンがヤマギシ専用カラーだからだ。
彼女たちのチームカラーはオレンジがかった赤系統の色。茜色とでもいうのだろうか。
ほかの参加者がみんなヤマギシカラーなので、やたら目立つ。
量産型の中にいる専用機みたいだ。
今回は1チーム120人。ワンフロア2チームで10層までのローテーション。
それを午前と午後で2チーム。
それを奇数日と偶数日で更に2チームの480人態勢となった。
駆け込みで参加者が増えたせいだといっていたが……。
水無瀬からは10人が参加している。
水無瀬姉妹のほかに、一番最初に公開された冒険者学校の卒業生が2名。現役で黒尾ダンジョンに潜っている経験者が6名だそうだ。
ほかにも、忍野の医学部や看護学校に参加する学校法人から、教職員の育成を依頼されているらしい。もちろん、うちに就職してくれるドクターや現役の看護師も多数いる。
俺たちは、彼ら480人の講義にはノータッチで、ドクター陣10人の<リザレクション>修行を担当することになっている。
それにしても、今回も女性が多いな……。
さぞ、オフの日の海水浴場は華やかだろう。
全体の結団式が終わると、4チーム、それぞれチームごとの結団式になる。
チーム内で、更に1パーティ6人編成で班分けが行われ、解散になる。
10層クリアしていないチームはまず10層クリアを目指す。
次に、独力での10層クリアを達成すると、指導員資格が与えられる。
そこから、20層クリアを目指し、同様に独力でクリアできたら20層指導員資格が降りる。
医療関係者にとっては、20層クリアと指導員資格、それに<リザレクション>習得のバッジを獲得することが目標になる。
このサマーキャンプ、実は甘くない。
「よろしおすか?」
水無瀬静流さんたちがオリエンテーションを終えて俺たちのところにやってきた。
俺たちも現役医師達に改めて繰り返しになる注意事項を伝え終わったところだ。
彼らはすでに奥多摩で10層指導員バッジまで取っているので、教える身としては気が楽だ。
「はい、どうぞ」
俺たちはオリエンテーションを切り上げて解散し、彼女たちに対応する。
「山岸はん達にお教えいただけるんやないかと楽しみにさせてもろてたんですが……」
にこにこ笑いながらも静流さんたちの目は真剣だ。
「えーと。俺たちは今回、即戦力のドクター達の治療魔法の特訓と、万一の時のバックアップ要員ですね」
オヤジ達からも、彼女たちの参加は聴いていない。申し訳ないけど、特別扱いは出来ないな。
「ウチには20層までの指導員も豊富にいますんで、彼らからしっかり習ってください」
それでは、と俺たちもとっとと宿に引き上げる。
今回俺たちは、ほかの参加者とは全く別コースで動く。
そもそも<リザレクション>習得は16階層以下が本番だ。
だから、今回の参加者であるドクター達には、いきなり11階層から訓練の開始ということになる。
彼ら1人1人に20層指導員まで獲得してもらい、あわせて、<ターンアンデッド><レジスト>そして<リザレクション>を教え込むのだ。
俺たちがバックアップに回って倒したモンスターの魔石は、その場でどんどん吸収してもらう。
売れば高額な魔石だけど、それより個々人のスキルアップのほうがよほど価値がある。
そして、二日にいっぺんくらいで完全オフ。
俺たちのお楽しみ、海水浴やスキューバ、バーベキュータイムである。




