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黒尾ダンジョン 2

「そうですね。医師の<リザレクション>トレーニングなら、現在奥多摩で行われていますので、そちらを受講していただく事になるでしょう。

研修であれば、ウチの病院で研修医として一定期間勤めていただく事になるでしょう。

そして、卒業後に、そのドクターが新しい人材を育てる、という手順になります」

俺が言うと

「それだと、ずいぶん時間がかかりそうですな」

水無瀬氏が答えた。

「それはまあその人の能力次第ですね。あとやる気次第でしょう」

何事もそうだと思うんだけど。

「ウチでは、医師はもちろん看護師、技師、療法士やワーカー、補助から庶務に至るまで、全員冒険者登録をして、10層突破の認定と、能力に応じては指導員の資格を発行しています。

冒険者の段階では、高齢の医師が若い看護師の下で学ぶこともあります」

「なるほど」

「ですが、医師の場合は、出来れば20層までの突破と、その指導員資格までが推奨されます」

水無瀬氏の表情が変わった。

「その理由は?」

「出てくるモンスターが<リザレクション>習得の役に立つ、というところですね」

俺は、アンデッドやバンシーといったモンスターから受ける攻撃が魔法習得に有益だという話を解説する。

「20層まで安全に医師を指導するためには、最低でも同程度。理想では30層突破者で指導員資格のある人材が必要になるでしょう」

要するに、俺たちを除いたら、おそらく世界にはあとマニー達しかいない。

「ずいぶん、時間がかかりそうですな」

「そうですね。医師の育成についてはウチでもまだ道の途中といって良いと思います。

指導員の育成については、俺が6月で3年目になります。一から始めるなら、そのくらいやって、そこからやっと、死人を出さずに後進を育成できるかもといったところですね」


「ところで、ヤマギシさんでは、指導員や医師、看護師などの人材を派遣していただく事は可能ですか? または、こちらから派遣して鍛えていただくのは?」

水無瀬氏が切り出す。

「こちらも現状、800人いる奥多摩の病院から約半数を新しく出来る忍野の病院に送り出し、双方で400人ずつ新人を採用してトレーニングする必要があるんで、おそらくどちらも余裕はありません」

忍野でも500床の規模で病院を新築するが、もしここも満床になってしまえば、次は伊豆で……となる未来しか想像出来ない状況だ。

幸いなことに、募集を掛けると常に定員以上の応募があるから、人手不足に陥らないということだけが救いだな。


「再来年くらいになれば、忍野の医科大や看護学校が開設されるかも知れません……許認可が降りればですが。そちらに期待するしかないですね」

無責任なようだが、俺たちとしても伊豆で懲りている。

下手に預かって育てた冒険者が無責任なことをしてくれると、巡り巡って冒険者自体の評判を落としてくれるからな。


「せめて、将来ダンジョンの未来をしょって立つ指導員の育成にはご協力いただけないか?」

水無瀬氏はいった。

「それは……。ご本人達のやる気があって、どんな努力も惜しまないような人たちでしたら」

俺はそう答えた。

もしどうしてもということだったら。

いま、忍野で10層までの警察や消防のブートキャンプに、マニー達「鬼軍曹」が当たってる。

そこに一緒にぶっ込んでやればいいだろう。

そこを耐えて突破するようなら、20層までは、仕方ないから俺たちが時間を割こう。


話も終わったようなので、俺はソファを立ち上がった。

「山岸さんはこれからご予定は?」

「ええと、仲間達が観光したいといって一緒に来てるんです。合流して楽しませていただきます」

「でしたら、ウチの人間に案内させましょう……京都ははじめてですか?」

水無瀬氏が聞く。

「ええ。俺、冒険者に専念したくて高校やめちゃったんで、修学旅行でも来てないんですよ」

中学の修学旅行も実は奈良京都だったんだけど、全く不運なことに、俺はノロウイルスにやられて自宅療養になった。

沙織は中学で来てるから、はじめてじゃないだろう。

「それはそれは。地元の人間をご案内に付けます。せっかくですから、お楽しみください」

そう言って水無瀬氏は俺に握手を求めてくれた。

米森氏とも握手して、俺は応接室を出た。


水無瀬氏が用意してくれる案内の人を待つのと、沙織達の呼び出しのため、俺は京都市役所横のオークラのラウンジで待ち合わせることにした。

ちょっと遅めの入店だったけどランチバイキングがあって、楽しませてもらった。

沙織達は二条城にいたらしくすぐに合流して、バイキングに舌鼓を打っていた。

そこに、2人の女性がやってきた。

「水無瀬と申します。山岸恭二さんでよろしおすやろか?」

これが、やがて腐れ縁となる水無瀬静流、香苗姉妹との最初の出会いだった。


京風美人ねー。

と沙織が言うが、俺にはどこが京風で、どこが江戸前と違うのか全く分からない。

だが、非常に物腰が上品で、確かに2人ともすごい美人だと思う。

姉の静流さんはすでに大学を出て、祖父である水無瀬氏の秘書として働いている。

妹の香苗さんは、現役の京大生だそうだ。

おっとりした風に見える静流さんと比べ、香苗さんはかなりきかん気が強そうな容姿をしてる。

ストレートなロングヘアの静流さんと比べて、ばっさり切りそろえたショートヘアが見た目に影響してるのかも知れないが、やはりその瞳だろう。大きな丸い瞳には、やたら目力がある。

町中でふと、美人だなーとでも思って眺めてるときにこの目でギロっとやられたら、間違いなくすくむ気がする。

これほどタイプが違うのに、それでも一目見て姉妹だって分かるのはすごいな。


地元の観光タクシーを再度手配する。

7人乗りのミニワゴン2台に分乗し、俺たちは翌日まで2日間、彼女たちに案内されて京都観光を楽しませてもらった。




旧来のパーティである俺、沙織、ケイティと、初期軍人育成のプログラムで参加し、その後除隊してウチに加わってくれた岩田さん、ドナッティさん、ビルさん。

まとまった時間が取れないものの、数ヶ月の調整期間で俺たちと彼らの溝は埋まりつつある。

一番大きな差は<リザレクション><アンチグラビティ>あたりの習得だったけど、3人とも今では充分に使いこなせるレベルまで育ってくれた。

そこで、いよいよ、奥多摩にて30層以下へのアタックを開始する。


32層でボス戦において、3人にも敵サソリの<グラビティ>を体験させる。

その上で俺たちが殲滅して、3人の状態異常を解除した。

命に危険がない限り、いっぺんくらいは状態異常は食らっておいた方がいい。

ゲームと違って、死んでしまったらそれで終わりなんだからな。


34層。

雑魚にサソリ、ボスにミノタウロスが登場するこの層では、前回同様圧倒的な魔法の飽和攻撃で一網打尽に殲滅する。


そして下った35層。

雑魚敵にミノタウロスが出現だ。


ヤツはやはり魔法に耐性があるのか、<フリーズ>させても強引にこちらに向かってくる。

数人でしつこくフリーズを重ね掛けして、鈍くなったところでサンダーボルトをお見舞いする。

正直、効率は最悪だ。


「バレット?」

「12.7mm弾を使ったアンチマテリアルライフルです」

ドナッティさんが言うと、軍人チームも全員同意した。

象さえ殺せる性能を持ったライフルだそうだ。

「騒音がすごい。賛成できませン」

ケイティが難色を示す。

ていうかやっぱ知ってるんだな、ケイティ。

「そのバレットを使ってみたいって事?」

「はい」

ドナッティさんがうなずいた。


基本、ウチは日本国内法に基づいて運営している。

RPG-7なんかも、冒険者登録して、10層までをクリアしたメンバーが、ダンジョン棟から屋外に持ち出さないことを条件に販売される。

整備なんかも出来たら人員を育成してウチでやりたいと思ってる。


だけど、さすがに銃は無理だ。法的に問題の無いダンジョンにいくしかないな。




というわけでやってきたのは、テキサス。

銃の手配はケイティにお願いした。

バレット、デザートイーグルなど数種を用意してもらう。

バレットに関してはやはり、女性陣には扱いかねるので、まずは射撃場でベンさんと岩田さんに習熟してもらって実戦に投入する。

バレットのもっとも安全な射撃法は腹ばいになって撃つことだ。

しかし、ダンジョンでの射撃は狙撃と違って時間的なゆとりがない。

ライフルを使うときは立った姿勢のまま、銃床(ストック)を肩に添えて撃つしかない。

素人が使うと、本当の意味で「けがをする」代物だ。

デザートイーグルについても同様で、構えや撃ち方に気をつけないと、反動でひどいときには脱臼の危険もある。

デザートイーグルはドナッティさんが使用する。

一応ベンさんと岩田さんの分もあるので、彼らにも存分に射撃訓練を積んでもらった。


一週間ほど掛けて35層まで進む。

そこで俺の<収納>からライフルと、人数分の耳栓を用意していよいよテスト開始だ。

耳栓をする関係上、司令はハンドサインで出す。


まず一体。

ベンさんと岩田さんを先頭に、残りのメンバーは彼らの前後に重ならないよう斜め後方で移動する。

先頭で気配を探る俺がハンドサインで全員を止め、ミノタウロスの気配を読んで方向を知らせる。

俺は彼らのスタンバイと共にライトボールを投げつけ、後方に下がる。

怒り狂ったミノタウロスがこちらに向かって駆け出すと同時に、周囲のメンバーが一斉に<フリーズ>で足止めにかかる。

ついにバレットの出番だ。

2人が一発ずつ撃った弾丸は見事にミノタウロスを肉片に変えた。

「……音がひどすぎる。これはウチのチームじゃ使えないな」


次に、ベンさんとドナッティさんによるデザートイーグルのテストだ。

同じように<フリーズ>で足止めしつつ、2人はデザートイーグルから発する50AE弾を浴びせる。


バレットより効率が落ちるし、銃というのは外せば自分たちが危険になる。

バレットよりましとはいえ騒音もすごい。

うーん、やっぱり俺は気が進まないな。




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