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間章――課題は山積み

「あ、恭二さん。試作品、出来ましたよ」

藤島さんの工房に顔を出したら、俺が前に依頼していた「仮称:アダマント」つまり15層ボスのドロップであるインゴットを使った長槍などの装備が完成していた。


実は、このインゴットは15層のボスからしかドロップしないので、量の確保が難しい。

ただし。

金属としての値打ちはそれほどでもないらしい。


「金属としての値打ちは、ゴールドゴーレムが最高だね。アダマントはプラチナとロジウムの合金なんだよね」


と、成分分析のデータを見て兄貴と先輩氏が話していた。

ゴールドゴーレムは純金で、しかも魔素をやたらに含んでいる。

ただ、金属としての値段が高いこともあって、ウチでは金属商から購入した銀との合金、つまりエレクトラムにして使用している。

エレクトラムのメッキは、魔法の伝導性が高いから、今では様々な用途に使われている。

それに魔法燃料ペレットもエレクトラム製だ。

金属商から買った金属を使っても大丈夫か? というと、溶解させるときに魔石を加えるとダンジョンからドロップしたものとあんまり変わらないエレクトラムが作れる。

だけど、まあ、安値で買える銀はともかく純金を地上で調達するのはあんましメリット無いもんな。それなら11-15層に潜った方がいい。


藤島さんたち刀匠と、兄貴や先輩氏の研究開発部では

「メッキにするならアダマントの方がいいんじゃないか?」

と研究を進めているようだ。


理由はいくつかあるらしいけど、要するに、金属としては金銀よりプラチナやロジウムのほうが強い、ということになるらしい。

強いというのは硬度もそうだけど、要は酸やアルカリといった成分に強い。

俺たちはまだ出会ってないけど、もしダンジョン内にこうした成分で攻撃して来る敵が現れたときの保険になるんだな。


藤島さんのアダマント製武器の開発には兄貴が協力してたんで、エンチャントがしっかり乗るのは分かってきた。

あとは実際に使ってチェックして欲しい、ということだ。

俺たち――俺と沙織、ケイティ、岩田さん、ドナッティさん、ベンさんのパーティは、人数分の装備を預かって、今後しばらくは使ってみることにする。


「色はアダマントの方がいいよねー」

沙織はご機嫌だ。

「エレクトラムは錆びるんですよね」

ドナッティさんもどうやらアダマント推しのようだ。

錆びるといっても鉄のように赤茶ける訳ではないが、銀が酸化すると輝きが鈍るんだよね。

黒ずんじゃうというか。


俺たちは1層からのんびり、20層まで掛けて新しいアダマント製の武器を試した。

結論から言うと、

「槍の穂先や日本刀なんかは、魔鉄製で充分」

という事だ。

アダマントは、エレクトラムと同じく「エンチャント」用にメッキにしてもらえたらいい。

穂先を純アダマントで作るメリットはさほど感じなかった。

反対に、ヘルメットやライオットシールド、それにボディプロテクターなんかのメッキには、アダマントのほうがいい感じかも知れない。

要するに、アダマントのほうがエレクトラムより武器や防具に向いた素材という印象を受けるって感じかな?

錆びない、変色しない、っていうのはイメージ的にもいいしな。




次の実験は、兄貴がテストしていたクロスボウの評価だ。

ウチのパーティでクロスボウを射撃後に再び弦を引けるのは、ベンさんと岩田さんだ。

女性陣は補助器具を使えば弦を引けるけど、戦闘中にそんな悠長なことをしている暇はないし、魔法で攻撃したほうが早い。

そして俺は、飛び道具が欲しいときには長槍を投げちゃうんで、基本、クロスボウを必要と感じないんだな。

まあ俺は<収納>からいくらでも次の長槍を出せるんで、ちょっと特殊だろう。


「<エクスプロージョン>のエンチャント付きの矢はちょっと微妙ですかね?」

岩田さんがいうと、ベンさんも同意した。

「フツーのひと、<収納>ありまセーン」

つまり。

矢の利点としては敵を倒したあと回収して再利用できるって事だけど、<エクスプロージョン>付きの矢は爆発してしまうんで使い捨てだ。

それだったら、いっそ銃のほうがランニングコストが安い。

各国の軍が放出する銃弾はかなり安価なんだそうだ。要するに、クロスボウで使う特注のボルトのほうが100倍以上高価になる。

……残念だったな、兄貴。プロからだめ出しがでた。


ただ、後衛の支援系の人たちに護身用に持たせるのには、クロスボウには意義があるということだ。

冒険者ショップで扱ってもいいかもしれないな。

狩猟での使用という需要が皆無の日本では全く普及していないクロスボウだけど、世界に目を向けると北米とかでは結構ポピュラーな狩猟具として普及しているらしいしな。

ただ、豪腕の持ち主でもなければ戦闘中のリチャージは難しい。

使い手を選ぶ武器、ということになるんだろう。


冒険者協会の国際基準では、銃を持つことになんの問題も無い。

ただし、銃の使用免許はオプションとして別途取得する必要がある。

これは、個人の所持が認められているアメリカでも同様だ。

そして、使用時には銃自体も登録されたものを使用する義務がある。


まあ、実際はまだ、各国の税関などで引っかかるだろうから、アメリカから他国に公然と銃を持ち込むっていうのは無理だろうけどね。

そういえばロシアでも冒険者で銃を使う人材が現れているようだけど、こっちも事情は一緒。


銃については、俺たちとしては経験上、護身用としての意義はあると思ってるけどあまり過信出来ない装備だと思ってる。

そのためもあって、銃刀法の改正とかにはあまり乗り気ではないんだよな。

冒険者登録をして銃を持った人間が、その銃で犯罪でも起こしてくれたら社会不安が増す。

そういう人間が現れないとも限らないからな。




ゴールデンウィークが過ぎる頃には、新メンバーの4人もだいぶ修練が進んだ。

ひとつの到達目標だった<リザレクション>習得ができはじめたのだ。

そして、全員30層突破のバッジに変わった。


そういえば、工業高校や高専、工業大学を卒業した新卒から、藤島さんたち刀匠や刀研ぎ師たちに弟子入りする人材を50人ほど確保できた。

彼らの問題は

「技術を習得するまでの長い期間、食えない」

という事だけど、そこは、ウチに正社員として入社してもらうことで解決した。

「うらやましいですね」

独り立ちするまでの長い期間、金銭的に不遇なまま耐えしのいできた藤島さんたちは、恵まれた境遇で修行を始める彼らへの感想を一言で言った。


経済的に恵まれない中で厳しい修行を耐え抜いて独り立ちしてきた刀匠たち全員に共通する本音だと思う。

ただ、慢性的に供給不足である長槍や日本刀は、何とかして量産できる状態にしたい。

場合によっては、長槍のほうは工業的な数打ち品を開発してもらって、藤島さんたちには日本刀に専念してもらった方がいいかもしれない。

その辺は、兄貴とか先輩氏、工場長の三枝さんなんかが藤島さんたちと共同で研究を続けているそうだ。


そういえば、三枝さんは忍野ダンジョンを視察した際

「奥多摩より、こっちに工場を移設するべきかも知れませんね」

といっていた。

奥多摩だと、今回のように従業員を増やして、修行用の工房を建てようと思うと、そのたびに整地工事が必要になるんだよな。

忍野のほうは、比較的なだらかな土地が周囲にかなりの広さで元々あるから、今後のことを考えたら移設も視野に置いた方がいい、ということのようだった。

どっちにしろ、今奥多摩にある工場は兄貴や先輩氏達の研究開発部が引き取れば無駄にはならないし、年内にはペレットや藤島さんたち刀匠の工房は、忍野に移転するかも知れないな。

ただそれは、必要になる全ての施設――機動隊の派出所やダンジョン棟、マンションや商業施設などが全部完成したあとになるだろうけど。


三枝さんからはもう一つ「金属リサイクルプラント」の新設も提案されている。

金属リサイクルプラント、っていうのは、今話題の「PCや携帯の基板から、貴金属を抽出して再利用する」設備のことだ。

そんな設備をどうしてウチが? というと。

低層で大量に集まるゴブリンやオークの使っている武器だ。

あいつらの武器は青銅製なんだが、どうも金属製錬技術が低いらしく、それなりの貴金属やレアメタルが含まれているらしい。ところが、いまこのドロップ品をくず鉄として売ると、銅の価格、それもクズ銅ということで、1キロあたり300円ほどの値段しか見てもらえない。

それを、炉で合金の成分を分離して取りだし、更に電気精錬で純銅にして、そのまた更に精錬後に出る陽極泥(スライム)から、残りの貴金属を分離回収すれば、金属資源として価値が出る、と考えているわけだ。


兄貴たちも現在、貴金属として値打ちの高すぎる純金より銅のほうを燃料ペレットに使えないか研究中なので、純銅の生産プラントには前向きなようだ。

それに、若干でもドロップ品としての報酬を冒険者に払うことが出来るので、拾ってきてもらえるようになるだろう。




今期の新入社員達も全員、冒険者登録を希望した。

奥多摩ダンジョンは5月からのOJTに加えて、そうした彼らの冒険者研修で賑わっている。

忍野では、自衛官や警察・消防隊員の訓練が本格化してるので、ウチの社員の研修には使えない。

西伊豆は、現在ダンジョン棟の建設が佳境だけど、宮大工さんによるお寺の移築が終わって、住居や商業施設の建設に入らない限りは、本格運用は難しそうだ。

つまり、忍野で育成中の公務員さんたちによる冒険者を除くと、まだまだ、民間に広く訓練の場を提供するような環境は整っていないことになる。


私立高校や大学、それに専門学校を経営している法人から、結構な問い合わせがあるらしいんだよな。

「冒険者コースを新設したい」

って。


ウチだけでどうなる話でもないんで、この辺は政府なんかと協議中だけど、まあ政府としても今は、まず第一に医学部や看護学校の優先。次に、自衛官や公務員という順に優先度を付けている。

日本には11ヶ所のダンジョンがあって、ウチ1ヶ所を個人が持ち、3ヶ所をウチが、残りを政府が管理している。

政府管理のダンジョンにも、ウチのような複合施設を建設し、それらができ次第、順次自衛隊や警察、消防の訓練校を開設していくようだ。

そうなったら、忍野にも冒険者学校が作れるだろう。


実は、すでにヤマギシには政府から第2病院のオファーが来ている。

これも、すでに所有している5キロ四方という広大な土地、それも比較的平坦な土地があることを思うと、実現させるなら忍野にということになるだろう。

忍野だったら、医大や看護学校なども併設できる。

こっちにも、日本屈指の名門私大などから提案書が届いてる。

政府からも、資金援助や無償長期融資などで全面バックアップしますという話まで来てはいるけど、今フル回転で未体験である魔法病院を運営している理事長(せんせい)たちに、そんなゆとりがない。

ただ、いずれ近いうちに、本腰を入れて取り組むしかないんだろうな。



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