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大冒険者時代 10

翌28日朝。

朝食が終わって全員の身支度後。

1層から10層まで各6人ずつの編成で、ダンジョンをくまなく捜索することにした。

現場である8層は再度俺たちが担当し、ケイティを9層、沙織を10層のリーダーに派遣した。沙織とケイティのチームにはマニー達熟練した元米兵を3名ずつ配して万全を期した。

捜索は各フロアの敵の殲滅と、オートマッパーでのフロアコンプリート。

それが終了したら、各班寺に戻ること、とした。


1層担当から順に全パーティがゲートに突入する。

当然、10層担当の沙織達がもっとも時間がかかる。

約半日。西伊豆ダンジョンの10層まで探査を終えたが、残念ながら、徒労に終わった。




俺たちをここに連れてきてくれた警視庁のチーム。トップの人は警視だそうだが、その人と、こっちの警察の捜査本部のトップの人と俺、沙織、ケイティで、内部の状況の報告をする。

「すいません。率直に聞いてよろしいでしょうか?」

地元警察の捜査本部長が聞きにくそうに口を開く。

「遭難者が消える、というのはあり得るのでしょうか?」

「わかりません」

俺が答える。

「米軍が7層で受難したときには、死者12名、重傷者9名を出しました。でも、今回と違う点がひとつあります」

「……それは?」

「誰1人逃げ出しませんでした。遺体さえも必死で守り、俺たちが到着するまで踏ん張っていたんです」

「……」

本部長氏が息をのむ。

「今回、入院した1人は10層未到達。不明の2人もです。帰還した2人はウチで10層までの経験を持っていました。彼らの装備には、こんなときのためにカメラ付きのヘルメットがありました。SDカードは提供してもらえましたか?」

「それが。今回彼らはSDカードを付けていなかった、といっているんです」

そんなところだろう。証拠隠滅か。

むかむかする。

スマホには、オートマップのログが残っていたようだ。

彼らの足跡から、俺たち8層担当者が通った場所での受難だったことが裏付けられた。

ならば。

「もし残念ながら亡くなっていたと仮定したとき、ですが。遺体は一体、どこに?」

「分かりません。例えば、敵のモンスターが、倒しても一定の時間が来ればまた現れるのはご存じでしょうか?」

「え? ええ。拝見しております」

「あいつらが一体どこから来るのか、俺たちは誰も知りません。だとしたら、もし生きていようと死んでいようと、ですが。そこに連れ去られたんだとしたら……俺たちに探す手段はありません」

「……なるほど」

到底納得していない表情で本部長氏はうなずいた。

「いずれにしても、我々のほうでも現場検証をする必要があります」

そうだろうな。警察だしな。

「申し訳ありませんが、ご協力いただくわけにはいきませんでしょうか?」

俺はしばらく悩んだ。もちろん協力しろといわれれば、それは可能ではある。のだが……。

前例になりかねない。

そんな心の声が警戒心を刺激する。

「申し訳ありませんが、俺たちは奥多摩に帰ることにします」

「えっ」

困り果てたような表情で、本部長氏が口ごもった。

「今回は緊急的に派遣されてきたメンバーです。それぞれ、仕事もあります。みんな、善意でここに来てます。もちろんいずれ経費は、このダンジョンの管理者に請求します。でも、明日以降、全員に仕事があるんですよ」

警視庁からの警視が俺に問いかける。

「替わりのチームを派遣していただいて、というのはいかがでしょう?」

そう言われて、俺ははたと気づいた。

「ウチに駐在していただいてる機動隊の皆さんでしたら、10層まででしたら安心してお任せできるんじゃないですか?」

「ああ!」

警視氏が俺の言葉で膝を打つ。

そして、俺の顔を見てうなずいた。


というわけで、俺たちは輸送車で引き返すことになった。

円丈和尚さんは憔悴しきっていた。

気の利いた慰めが言えればいいんだけど、生憎俺の頭ではそういう言葉が浮かばなかった。

「とりあえず、向こうに戻ったら連絡します」

「はい……本当にこのたびはご無理をいただき、ありがとうございました」

和尚は俺たちに頭を下げた。


とにかくあの2人には腹が煮える。

まだ未熟な連中を8層に連れて行って失わせた。

それは仕方ない。仕方ないと言うしか無い。

本来、冒険者などというものをやろうと思ったら、命がかかるのは当然だからだ。

だが、彼らは逃げた。

状況は分からないし俺たちに警察権があるわけでもない。

あとは地元警察にお任せするしかない。

そして、捜査は事実上不可能だろう。

俺たちの捜索の様子は映像として警察に協力で提供することになる。

捜査員はその全ての映像に目を通し、そして、俺たちと同じ結論に達するだろう。

「行方は不明、生死も不明」と。

だが俺は断言できる。

奴らは、あの2人を死なせたんだ。だから逃げ、証拠を全て隠滅した。


奥多摩に帰還すると、ウチのダンジョンを監視してる機動隊の隊長から呼び出された。

すでに連絡があったようで、俺に情報のすりあわせをして欲しかったようだ。

警察は、入院した1名の着衣から採取した血液が不明の1人のものと特定。その出血量から生存の可能性や、自力での脱出は不可能とみているようだ。俺も同意する。

ウチで10層まで訓練した隊員の中には、オートマッパーを持っている人もいる。

俺は今回の8層データを提供した。

「ご協力に感謝します」

隊長や隊員達はそう言ってねぎらってくれた。




現地の警察も対応に苦慮しつつ、ヘルプで入った機動隊員の力を借りて現場検証を重ねた。

彼らが出した結論は、俺たちの結論と同一だった。

ただし、警察には科学的な証明が要求される。

何ら証拠が提示できない現状、引率した2名の冒険者は起訴されなかった。


マスコミの一部が、ついにしびれを切らして俺たちをつつき回し始めた。

ワイドショウ、|プライムタイムニュース《よる10時のアレ》なんかは、ねじれた思考回路を持つコメンテータを使って、根拠もなく俺たちを叩き始める。

そしてついに、不明になった2人の家族に取材をし、彼らを煽って、俺たちが招いた問題であるかのような特集記事を組んできた。


シャーロットさんは、日本のマスコミがヤマギシや冒険者協会を叩きだしたころから、この瞬間を待っていた。

帝国ホテルで一週間後急遽世界冒険者協会が開催された。

テーマは「冒険者協会に所属するダンジョンの使用規則について」だ。

冒険者協会は今後、一定以上の技能があると認められた冒険者のみに資格を発行する。

その資格が無いもののダンジョン使用を禁止し、勝手に使用した場合、その生死に責任を負わない。

また、所属するダンジョンへの立ち入りを今後一切、認めない。

日本で発生したこのケースを制度化への足がかりとして、一気に協会の権利拡大を図った。


今回、地元警察や消防が単独で救助・捜査できなかった事から、世界中の警察・消防やレスキュー隊などが冒険者協会に対して、冒険者訓練の依頼をしてきた。

こうした育成にも、何ら差を付けることなく冒険者登録とその訓練として扱うことになった。

要するに

「軍でも警察でも、車の免許を取るのはなにも違わないでしょ?」

という論理だった。


ダンジョンに入る際には、必ず録画を義務づける。

認定された装備の着用を義務づける。

自己責任規約に署名、捺印させる。

経験者による先導を義務づけ、保護責任を負わせる。


条件を次々に策定し、あわせて、今回の西伊豆の事件は、そうした全てがいかに杜撰だったかを公然と批判した。

そうした報道が世界中を駆け巡ると、いつしか俺たちへのバッシングは止み、一時期やたらとワイドショウに出演して俺たちを批判していた例の西伊豆ダンジョンの冒険者達は、行方をくらました。


かくして、日本でも機動隊や自衛隊、そして消防など治安・救助に対応する人材がいる組織を中心に、冒険者資格の取得と、後進指導のための人材育成が制度化される。

奥多摩ダンジョンは当然、こうした人たちの受け入れで溢れてしまった。

「もう奥多摩の収容人数は限界です」

俺たちでさえ、7-8月の医療関係者育成の際にはよそのダンジョンを借りにいったくらいなのだ。

オヤジが、断っても断っても無数に舞い込む育成依頼に悲鳴を上げた。


政府は、忍野ダンジョンをウチに払い下げることを条件に、なんとか早急な育成をと注文してきた。

オヤジは手が回らないと悲鳴を上げたが、兄貴は

「受けるべきだ」

といった。

忍野ダンジョンはウチから直線距離で46km。関東では奥多摩ダンジョンの最寄りのダンジョンだ。

現在は自衛隊が管理している。


現在ヤマギシが育成できている人材の半分を割いてでも、忍野を獲得するメリットは計り知れないと兄貴はいう。

「ダンジョンが出現して2年以上経つけど、数が増えたって話は聞いたことがない。どちらにしても、低層はもう奥多摩さえキャパがいっぱいなんだ。忍野はウチからも近い。これはチャンスだ」

結局オヤジは兄貴に押し切られた。

実は奥多摩と違い、忍野ダンジョン周辺には、割と平坦で、森林の伐採を行うだけで、学校や宿舎やウチの会社のビル、それにマンションなどを建てるスペースがかなりある。

そうした土地を取得して、半年を目処に大規模な開発を行えば、奥多摩以上に早く訓練ダンジョンとして独り立ちできる、と兄貴はいった。

俺たちは、以前このダンジョンに自衛隊の育成協力で滞在したことがあるからな。


結局、オヤジは兄貴に押し切られて、忍野ダンジョンとその周辺四キロメートル四方の土地を購入することにした。

現地では早速測量が始まり、5社のジョイントベンチャーによる大規模開発が計画された。

それまではプレハブで200人規模の仮設住宅が営まれて、自衛隊の経験者の冒険者検定と、警察消防の人材育成に当てられることになった。

ちなみに、すでに技能を習得している自衛隊員にも、申し訳ないが冒険者装備は一式購入してもらうことになる。

この頃は生産能力の問題で、ミ○ノ以外にも数社が参入してきている。ヘルメットも、ア○イのほかにショウ○イなどが参加している。

これらからは、1割のロイヤリティがウチに入ったりする。地味に、大きい。



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