大冒険者時代 8
特許はすんなり取れて、世界中の企業からひっきりなしに引き合いが来てるんだけど、俺たちにとって<フロート>の制御は結構な難敵だった。
まず現状では、自動車やバイクで言うところのアクセルに相当する作業を俺たちの魔力の量で調整しなければならない。
これを数値化して、機械で出来るようにならないと商品化は難しいと思う。
それには魔力測定器の大幅なグレードアップが必要だが、今のところいいアイデアはない。
先輩氏は必死にアクセル・スロットルの制御を考え続けて煮詰まり、ついに自身が魔法を使いこなす必要を感じて、ここのところダンジョンにこもりっきりのようだ。
H○NDAが、<フロート>を使った新しいダンジョン内の資材運搬機の共同開発を提案してきた。
<収納>のある俺と違い、普通は、武器弾薬や食料や水、それにドロップ品の回収など、ダンジョン内では大荷物になる。
どうしても通路や階段の横幅に車体が影響される上、スムーズに階段を移動できる自走車両というのは難しいのだ。
電子制御エアサスや無限軌道で模索していたH○NDAにとって、自重をコントロールできる<フロート>はまさに福音だ。
それと、おそらくだけど、既存の自動車やジェット機にも応用したいんだろうな。
IHCも、宇宙ロケット分野に<フロート>を使った新機材開発をしたいと熱心にいってきてる。
なんでも宇宙ロケットの打ち上げでもっともリスクがあるのは、打ち上げ点火から成層圏到達までの間らしい。
その間に、重力をコントロールして宇宙船の質量を無理矢理ロケットエンジンで持ち上げるようなことをしないで済むなら、画期的に安全な宇宙旅行さえ実現する、と考えているようだ。
<フロート>と魔法燃料とジェットエンジンの組み合わせと言えば、航空機やタンカーといった輸送分野のコストカットも計り知れない。
まあその辺は、兄貴や先輩氏に期待だな。
俺には全くどうしていいのやら見当も付かないし。
研究室にこもりたがる兄貴を口先ではなだめながら引っ張り出し、ダンジョン攻略に向かう。
33層はやはり雑魚にあのサソリが出たが、すでに対策を施した俺たちの敵ではなかった。
<フリーズ>で地面に縫い付けて<サンダーボルト>で瞬殺である。
ドロップはやはり毒の尻尾。
病院で研究分析してもらえば、この毒への対策は出来るんだろうか?
そういえば、俺たちは一足飛びに<リザレクション>に段階が飛んでいるけど、<アンチドーテ>的な毒消し魔法って、作る必要があるのかな?
世の中には、<リザレクション>がマスターできない人だっているんだしな。
33層のボスは、なんというか牛の化け物ではあるけど、名前が分からない。
牛の身体に肉食獣っぽい顔が付いている。身体には羽根も付いてるが、どう見ても飛べるようには見えない。
属性もちょっと分からない。ここまで、土属性がずっと続いてるから、土だろうとは思うけど。
頭に付いてる角はずいぶん立派だ。スペインの闘牛の牛よりでかい。
開幕直後に、<フリーズ>と<グラビティ>の打ち合いとなる。
悪いが、もうこっちにその手は通じないんだ。
前衛にいる二匹のサソリは一気に<サンダーボルト>で殲滅だ。
俺は牛に<フリーズ>を。兄貴はクロスボウで攻撃する。
牛にもフリーズは効果的だった。
突進力を奪われた牛は、兄貴の矢のただの的と化した。
牛のドロップは、予感がしたとは言え、角だった。
34層は、あの牛が雑魚で、ボスは――ついに出た、牛頭。つまりミノタウロスだ。
武器は、斧だ。
身長は2メートル以上あるんだろうか? 肉体はボディビルダーのようにふくれあがった筋肉を持っている。巨大なその牛頭がすっぽり隠れるようなサイズの幅広で無骨な斧を持っている。
柄の長さも2メートル以上ありそうだ。
これは、長槍で戦うのは愚策だな。
後衛の女性陣は前衛の牛二頭をケイティと沙織が<フリーズ>で足止め、シャーロットさんがミノタウロスに<フリーズ>。俺と兄貴がまず牛を<サンダーボルト>で処理し、遠距離からミノタウロスを圧倒、というプランだ。
前衛二頭の牛は楽勝に片付けたが、ミノタウロスは、開幕の<フリーズ>をレジストしやがった。
そのまま斧を振りながらこっちに突進して来やがる。
やっぱり人型には知性でもあってそれなりに回避してくるのか?
フリーズを回避されたら、炎魔法を自重する理由もない
「<フレイムインフェルノ>!」
ミノタウロス一帯に灼熱地獄だ。焼き肉だ。
グゥオオオオゥ!
苦しみの雄叫びにこもる激しい怒り。野郎、気が萎えてねえな?
うずくまり劫火に耐えるミノタウロスの足下に<エクスプロージョン>を放つと、ミノタウロスは数メートルはその巨体を吹っ飛ばした。
落下地点に<サンダーボルト>。
たまらずミノタウロスは消滅した。
「お前……容赦ねえな」
兄貴が引いている。解せん。
そういえばヤツのドロップは斧だ。俺たちには<収納>があるけど、普通のパーティじゃ、こんなの拾っても持てないだろうな。
「兄貴これ振れるか?」
ドロップの斧を持たせる。
「ちょっと無理かな? お前は?」
「兄貴が無理なもん、俺に出来るわけないだろ?」
そう答えたら、なぜか兄貴は得意気だ。いや褒めてねえぞ?
でも、そうなるとコイツの一撃はライオットシールドとかでも受けたくないな。
オークやオーガの時にも感じたけれど、こういう純粋な肉弾戦タイプの敵は、正直現代人には鬼門だな。
しかもコイツは初撃の<フリーズ>をレジストしやがった。
属性優位なのかほかの要素があるかは分からない。
要検証、だな。
35層にいきたかったんだが、兄貴が戻りたいというので、今日はここまでで引き上げる。
ここんところ、発明がらみで来客も多いからしょうがないな。
日曜日。
俺に来客があった。
自衛官の岩田さんと坂口さんだった。
沙織とケイティは買い物に、兄貴とシャーロットさんもドライブがてら都心に用足しにいっている。
俺は前日2人から連絡をもらっていたので、彼らを待っていた。
お久しぶりです、ご活躍はお聞きしてますよ、いやーまあ、あはは。
といった挨拶のあと、2人は本題を切り出した。
「退官、ですか?」
「ええ。僕も坂口さんも3月で任期が終わります。一応、僕たちなりに後進の指導の義務は果たしたんで、もういいかな、と」
そうだろうな。実際、彼らは教官としてウチから原隊に復帰して以降ずっと後進の育成に奔走していた。
ちなみに、俺たち冒険者と同じような仕事をしてきて、公務員としての報酬しか受け取っていない。
「それで、うちに?」
「はい……」
「もちろんお二人だったら大歓迎ですよ? 坂口さんだったら、ウチでも記念病院のほうでも欲しがるでしょうし、岩田さんは、出来たら俺のチームに欲しいです」
2人の表情は明るくなった。
かれらは、ここで研修して去ったあと、俺たちが次々に新しい魔法を広めているのを横目に見ながら、日々の忙しさのため遅れていく、と焦りを感じていたようだった。
「お二人だったら、すぐ俺たちに追いつきますよ。大丈夫」
俺は慰めではなく本心でそういった。
「ベンやドナッティも、もしかしたら来年除隊して、こっちに来るかも知れませんよ」
と二人はいった。
それはいいことを聞いた。引き抜けるなら引き抜きたい。
ベンさんはちょっと怪しいけど、ドナッティさんの日本語はかなりのレベルだ。
四人とも、ウチだったらどの職種のどのポジションを希望されても、充分に提供できる。
もちろん、冒険者部門に来て欲しいんだけどな。
マニー達と一緒にチームを組んでもらえれば、後進育成に一気に弾みが付くだろう。
「とにかく、社宅をふたつ用意してお待ちしてますよ」
といったら
「いえあの……」
「社宅は、ひとつでいいんです……」
なーるほど。そういうことか。
まだ半年以上先になるけど、強力な仲間を得られそうで、ありがたいな。
俺は早速、沙織とケイティと一緒に、アラバマ、そしてウェストポイントに飛んだ。
アラバマの空軍アカデミーのドナッティさんとウェストポイントのベンさんにリクルートを掛けるためだ。
彼らもすでに600人以上の後進を育成し、叙勲されたりしているようだけど、やはり、民間の冒険者――とくに、一時期一緒に活動した俺たちとどんどん格差が広がる事に、不満や焦りがあったらしい。
岩田さんや坂口さんがウチに来ることや、俺たちのパーティ含めて希望のポジションを用意することを告げると、かなり前向きに検討してもらえるようだ。
軍の除隊の仕組みは知らないけど、彼らは充分、名誉除隊の条件をクリアしているだろう。
ウェストポイントの帰りに、誘われてテキサスに立ち寄る。
工場やウルフクリークの病院などを視察させてもらい、暑苦しいブラス家の歓迎を受けたりした。
ジョシュはUTを卒業後、ハーバードで法律を勉強してるらしい。残念ながらこっちにはいなかった。ジェイは、兄貴同様UTに入学が出来たようだ。
UTは日本でいったら東大クラスの大学だもんな。彼らには当然かも知れないが、本当に優秀だ。
ちなみに、ケイティのおばあさんやお母さんが、最初にあった頃より妙に若々しい。
「あれ、絶対ダンジョン潜ってるよー」
沙織も気づいて日本語でこっそり俺に耳打ちした。だよなー。
そういえばシニアもジュニアも妙に脂ぎってるし。
まあ、ケイティのご家族だ。壮健でがんばって欲しい。
「そういえば」
シニアが、新しい特許である<フロート>について、俺にやたら詳しい話を聞きたがった。
なんでも、ブラスコにも航空・宇宙・自動車・軍事の各産業からかなりの問い合わせがあるそうだ。
ウチから取り寄せた資料で大まかに状況は把握してるようだったが、やはり好奇心は隠せないようだ。
「発見したのは俺ですけど、今は兄貴たちが安全に操縦するための技術を開発中ですよ」
俺はそう答え、希望するシニアをライオットシールドに乗せて体験してもらった。
まあそんなこんなで、このあとは数日、ケイティが家族にたっぷり甘えるのを堪能して満足するまでテキサスでのんびり過ごし、俺たちは帰国した。




