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大冒険者時代 7

翌日。

沙織の誕生日のため、今日はダンジョン攻略をお休みとした。

実は俺の誕生日は全員多忙だったので、沙織と一緒にお祝いをしようということになっていたのだった。


俺はほいさっとAmaz○nでギフトを注文して終わりにしたが、沙織も含めて残りは全員、兄貴の運転で八王子に買い物に行ったようだ。

俺はちょっと実験したいことがあって、1人でダンジョンにいる。


11階層は、もうマニー達の今日の狩りが終わっているようで、彼らの姿は見えなかった。


俺は、エレクトラムでメッキされたライオットシールドを<収納>から取り出した。

さて。

<アンチグラビティ>は、地属性の<重力>の特性を持った状態異常回避の魔法だ。

<重力>の特性を持った魔法だとしたら、逆に、重力を軽くする魔法は作れないものか?

それが今日の俺のテーマだ。


俺はシールドにひもを付け、どのような魔法が有効か考える。

属性は地で、特性は<重力>。浮遊だから……フロート、とかだろうか?

「<フロート>」

シールドに浮遊の魔法を掛ける。

よし。

ふわり、とシールドは浮かんだ。

その状態でシールドを地面において、俺はスケボーのようにシールドの上に乗る。

そして、エンチャントしたシールドに、フロートを強化するために魔力を徐々に強く流していく。

「うわわわあ」

やべえ。

急激に浮力が発生したシールドは俺を乗せたままグワリと浮き上がって、バランスを崩した俺を落として、サーフボードのリーシュコードみたいに足にくくりつけたロープいっぱいまで浮かび上がった。

俺は魔法をキャンセルして、シールドを落とす。

よし。

完成だ。あとで兄貴に見せてみよう。

なんかの発明に使えるかも知れないしな。




「誕生日おめでとう!」

一度部屋に押し込められた俺は、沙織と2人で呼び出されたダンジョン棟の3階食堂フロアでクラッカーの紙くずをかぶりながら手荒い歓迎を受けた。

みると、会社や病院の役員クラスや、冒険者の面々などが顔を揃えていた。

「……びっくりしたな」

「ねー」

俺と沙織は顔を見合わせて、苦笑した。

「そう言ってもらえたらまあ成功だな」

兄貴が俺と沙織に三角のパーティ帽をかぶせて、ケーキの前に案内した。




「ありがたかったねー」

「……そうだな」

俺たちはまだ酒も飲めないんで、9時を回ったあたりで退場させてもらった。

兄貴たちは、飲める連中と二次会流れをしてるんだろう。

「恭ちゃんが大けがしたあの日から、もう2年たったんだね」

沙織が感慨深げにつぶやいた。

そうだな。もう二年だ。

奥多摩はかなり変わった。

再開発はウチの周りだけじゃなく、青梅線沿線の各駅にも波及してるらしい。

ウチの従業員だけでもすでに2000人に迫る勢いで増えている。

中途採用の人たちが9月からさらに増えるためだ。

まあ厳密には病院の人たちはウチの、ではないけどな。


9月の中途採用から、俺たちは育成には回らないことになっている。

すでに、俺たちがいなくても新人育成、それにドクター達の<リザレクション>育成は確実にこなせるようになって来た、ということかな。


変わったのは奥多摩だけじゃない。

日本の政府も、徐々にではあるが変わってきている。

医療、エネルギー、産業など。

ダンジョンというものと向き合うために必要な環境が徐々にできあがりつつある。

アメリカについても同じ事がいえるが、ダンジョンのドロップ品を集める、という観点からいったら軍隊では難しい部分が多すぎるんだな。

まず、軍隊で攻略を行おうとすれば、冒険者達との収入の差があまりに大きく、それは兵士達の大きな不満につながる。

低層の魔石ですら、現在は恐ろしい値が付いて取引されているんだからな。

結局のところ、いつか世界中のダンジョンは冒険者に公開され、そこで冒険者達は自分の命をかけて金を稼ぐようになるんだろう。

一昨日、俺たちはあわやという状態に追い込まれた。

現在、冒険者の最先端にいると言われる俺たちでさえ、一歩間違ったら……という状況はこれがはじめてじゃない。

それどころか、世界最高峰の訓練と金に糸目を付けない武装を誇る米軍でさえ、たった7層で全滅しかけたんだ。


「そう言えばさ」

「うん?」

「沙織はなんで、俺とダンジョン潜ろうと思ったんだ?」

「んー」

沙織は少し上に目を泳がせて考え込む。

「なんでだろうなあ? おもしろそうだったからってのはあるけどね」

そうだったかな?

俺に言わせると、あの頃……俺がダンジョン潜ろうと、今思えば金属バットとトレーニングウェアなんて貧相な格好でいきがってた頃。

ちっとも将来に見通しなんかなかった。

ただ、何かに突き動かされるように<浸食の口>に飛び込み、戦っていた気がする。

「んー、なんかね。あたしが行かないと恭ちゃん無茶するかな? とかは、思った」

えへへ。

沙織は笑う。

そうか、そんなこと考えてたんだな。

「俺は無茶だったか?」

聞いてみると

「んー、けっこう?」

さいですか。


「でもさ」

「うん?」

「恭ちゃん、よく頑張ったよね。いろいろ強引なこともあったけど、結局、なんとかしちゃってきたしね」

そうかもな。

「そうだよ」

あたしんちだって、結局なくなっちゃったし。

「いや、もうおまえんちはここだからな」

沙織の家は結局新築することなくウチが買い取って、従業員用のマンションを建てる羽目になっている。

幸い、おじさんやおばさん、沙織ともこのヤマギシ本社ビル五階に不満を感じず住んでくれたから、未だにここにいてもらっている。


ただ、おばさんは赤ちゃんが生まれたら、ここを引っ越すと言っている。

まあ、確かにここは子育てには落ち着かないよな。職場があまりに近すぎるんで。

引っ越すと言っても、複合施設棟の上階でウチが押さえている部屋に移動するだけだし、実はもう家具や寝具やらの一式は納入されている。

おじさんも、一緒に移るらしい。沙織は

「めんどいから残るー」

と言っていた。まあ赤ちゃんがいるといろいろ大変らしいからな。

沙織なりの気遣いなんだろう。


「あ、やっぱりここにいたデス」

沙織とそんな風に思い出話をしていたら、ケイティが帰ってきた。

「サオリずるいデスぬけがけ、デス」

「えへへー」

あらケイティさんからお酒の臭いが。

もう彼女も20才なんだな。

「じゃあ解散すっか。沙織、ケイティをよろしくな」

「むー」

ケイティがふくれるが、あんた、絶対酔っ払ってるぞ?

「じゃあおやすみな」

おれはそう言って自室に避難することにした。




翌朝。

33層以降に挑戦すると思っている一同を11層に連れて行き、例の<フロート>の魔法を見せる。

俺が一同の前でライオットシールドに乗っかって、ふわっと2メートルくらい浮遊させると

「おま!」

兄貴が叫びかけて絶句した。


シャーロットさんとケイティもなにやら興奮して英語で話してる。

沙織は

「あー! いいなー、ねえあたしもー」

とリーシュコードを掴んで俺を引きずり下ろす。

やべっ、バランスが……。

「ってぇ!」

「あ、ごめん」

「……なんか、本当に見えない水の上に浮いてるみたいだな」

地面に落ちて頭をさする俺を兄貴はまだ呆然としながらみている。

沙織はリーシュコードを器用にたぐってシールドにちょこんと座って乗って、ぱんぱんと地面を叩く。

はいはい。

俺はそっと魔力をシールドに通して<フロート>を発生させる。

そして、ちょんとシールドをつつく。

「……おー!」

沙織が座ったシールドはそのままのろのろと動き出す。

兄貴はうまいこと言うな。確かに、夏の海水浴で水中から、浮かんだ浮き輪に乗った子供をみてる気分だぜ。

ぐるっと俺の周りを一周回らせて

「はい、おしまい」

と沙織を降ろす。

「悪い。次俺いいか?」

「あ、ああ」

兄貴が沙織に変わって乗り込む。

「うわ、不思議な感覚だな。これは浮遊感だ」

沙織と同じように俺の周りをふわふわと一周させておしまい。

「キョーちゃん」

ああはいはい、ケイティもね?


……もちろんシャーロットさんもでした。


「悪い恭二。今日はダンジョン中止だ。これは特許を取らなきゃならん」

「あー了解」

「チャーリー、先輩連れてきてくれ」

「はい」


というわけで、先輩氏の前でもう一度実演させられたんだが。

「どっ! どどどどどどどういう!」

「先輩落ち着いてください」

「し! ししくみ!」

「魔法です」

兄貴に頭を(はた)かれた。

「それは分かってる。魔法の仕組みだよ」

「あ、いやいやいやいやいや。今ここで言われても俺興奮しすぎで多分一切頭に入らない! 恭二君、悪いけど研究室(ラボ)まで来てくれ!」

「あ、はい」

「な? ……このまま俺乗せてってくれ!」

いやそれは。

「まだそこまでコントロール安定してないからダメなんですよ」

先輩氏はがっかりしたように肩を落とした。


ようやっと落ち着いた先輩氏に、俺は魔法の基本である<アンチグラビティ>を説明する。

要するに、重力系の操作をしてきた敵と戦ったために<フロート>を理解したこと。

エレクトラムのメッキがされているライオットシールドにフロートを掛け、魔力量でその浮遊の度合いを調整してることを説明する。

「……分かった。ともかく今日中に書類にまとめて特許申請に出す。済まないけど恭二君は、いつものように特許審査官の前で実演するときのために、特訓しておいてくれないか?」

「了解です。あの……これってなんかの役に立ちそうですか?」

「何言ってんの恭二君! うまくコントロールできたら、人類の乗り物の歴史が変わるよ!」


先輩氏はその後、一日で概要と詳細の特許申請の書類をまとめ上げ、ウチの知財管理部をフル動員させて必要な手続きを済ませた。

世間体は悪いけど、実はウチの特許申請は特許庁から最優先で面倒をみてもらえる。

えこひいきと言えばそうなんだけど、海外には「先に登録したモン勝ち」という特許システムの国もある。

日本で審査中に万が一でも先を越されれば、ウチの特許の場合、国家レベルでの損失になりかねないのだそうだ。

いくつもの分野で一応、ウチは貢献も認められてたりするんで、こんな風に優先してもらえるのだ。


特許審査官は書類を見て大慌てで飛んできてくれた。

早速目の前で実演した。

審査官たっての希望ということで、本人にも乗ってもらったり。

そして異例の速さで査定を終え、特許公開へと至ったのだった。


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