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大冒険者時代 4

西伊豆ダンジョンの若い衆が、ウチの看護師さんたちをナンパしたり。

といった些細な出来事があったらしい。


「一緒に行こうぜ? 案内するぜ」

と、看護師さんたちを口説きにかかったらしいけど、彼らの胸には10階層のバッジが付いていなかったらしい。

ここのダンジョンの指導をしてる2人は、ウチで修行して帰った人たちだけど、多分彼らも10階層までのバッジだろう。

周囲の街からもこのダンジョンを専業に来てる若手がいるそうだけど、どうも聞くと、5層くらいまでしかアタックしてないらしい。

今回俺たちがここに連れてきている医療チームのメンバーは、10層突破者のみをピックアップしてるんで、どっちが案内役か分からないよな。


ちなみに、俺たちが引率するチームは、医師10人と看護師70人だけど、看護師チームは婦長さんや主任さんといった管理職の人たちに引率をお願いして、俺と沙織、ケイティは医師チームのパワーレベリングのため、すでに20層まで進んでいる。


地元ホームの連中には申し訳ないけど、ウチとしても高い費用を払って借りてるので、一切手加減は出来ない。


「恭二さん~」

海水浴場に出ると、オフ時間を楽しむ看護師さんたちから手を振られる。

俺はついニヤけて手を振り返した。

「むー、恭ちゃん鼻の下伸びてる」

伸びなきゃおかしいだろ、沙織さんや。

ダンジョン効果なのか知らないけど、ウチの病院の職員はやけにキラキラまぶしい女性が多い。

そんな彼女たちがほとんどみんな、ビキニ姿なのだ。

理学療法士とか技師の人には男性が多いけど、病院職員というのは、看護師や補助さん、事務員さんや庶務の人たち含めて、やけに女性率が高いのだ。

病院職員の全800人中、500人くらいは女性なんじゃないだろうか。

ヤマギシの新卒、中途採用の社員は400人をそろそろ超えそうだけど、それでも7割以上は男が占める。

そう考えると、まさに女の戦場的な職場なんだな、病院って。

おそらく彼女たちにとっても、この人数で旅行をする機会など今後ないだろうから、いい気分転換になってるだろう。

まあ、本来の目的はダンジョンでの研修だから、そっちはしっかりやってもらわないと行けないんだけど。

まあ野暮な事はいいっこなしか


ちなみに、明るい声で俺に手を振ってくれる彼女たちだが、俺たちのそばには寄ってこない。

おそらく、一緒にいる沙織やケイティに気を使ってるんだろう。

彼女たちも俺といつも一緒で、激務だからな。

せっかくのオフを邪魔したくないんだろうと俺は理解してる。

「キョーちゃんはボンクラなのだ」

「いや俺は盆暗だけど、なにが?」

ケイティに言うと、ほっぺたを膨らませてぷいっと横を向いた。


そういえばケイティはずいぶん成長してきた。

もう沙織より頭一つ大きいくらいになった。

さすがにそろそろ打ち止めらしい。妹のジェイと比べると、やはり大きくなりきれなかった感はあるが、それでも痛々しいほど小さかった身体は、充分大人と呼んで良いサイズまで育っている。

まあ、胸はささやかではあるけどな。

さすがにそんな感想を漏らすと蹴飛ばされそうだから、口が裂けても言えないけど。

それでも、日米代表に出来そうな美少女2人のビキニ姿だ。

ありがたく眼福に預かろう。


3人で2時間ほど砂浜で遊んでいるとさすがにへばる。

俺は宿に戻って温泉に入ることにした。

さすがに全身日焼けで真っ赤になってる。風呂に入るのがなかなか辛いので、ヒールで炎症を収めてから、のんびりと温泉を楽しんだ。

海に出ないメンツは、ずいぶん温泉を楽しんでいるようで、露天風呂は結構人が多かった。

露天風呂は、女風呂のほうはずいぶんにぎやかだった。

なんか修学旅行みたいなノリだな。こっちはすっかり町内会の団体旅行のような落ち着きだというのに。


「お、卓球」

湯上がりにロビー前のゲームコーナーを覗くと、結構いい音をさせてラリーが続いていた。

「あ、こんにちは。恭二さんもやりませんか?」

うちの班の看護師さんたちだ。

うわ、みんな結構真剣にやってるんだな。しかし、いかんな。

ノーブラに浴衣でやってるもんだから、男には目の毒だ。

「あーいや、部屋で涼んでから飯に行きますよ。俺、卓球ダメなんで」

右手を挙げてデンジャーゾーンから立ち去る。


「あ、恭ちゃん、昼ご飯行こうよ」

沙織とケイティは俺を待っててくれたようだ。

2人ともやっぱり温泉に行ってたようで、浴衣姿だった。

沙織の浴衣姿は何度かみた事があるけど、ケイティの姿もなかなかさまになっている。

金髪に浴衣って言うのも色っぽいもんだな。


「おう、行こうか」


俺もせっかくなので彼女たちに同行する。

伊豆といったららやはり海の幸だ。

金目鯛、アワビ、サザエ、伊勢エビといったところが有名だけど、ほかにも赤エビ、桜エビ、高足がになどといったあたりが有名だ。

カニのシーズンは冬だから今は多分冷凍品しかないんだろうけど、せっかくの機会なんで、逗留中に一度は食べておきたいな。

ほかにも、何日か前にお願いしておけば、浜名湖あたりのふぐやウナギ、すっぽんあたりも用意できるらしい。

ほかにも、焼津からトンボマグロと地の人たちが呼ぶビンチョウマグロなんかも取り寄せてもらえる。

本当に伊豆は良いなあ。




そんなこんなであっという間にひとつきが過ぎた。

俺たちは、ダンジョンに潜り、海水浴で遊び、スキューバをして、旨いものを食い歩いた。

医師チームは、8月手前には全員<リザレクション>をマスターしてくれた。


当初警戒していた地元チームからのサボタージュなどはなかった。

むしろ、彼らはウチの医療チームが1人残らず10層バッジ持ちだった事にショックを受けたようだった。

今後はもっとがんばって攻略に励むだろう。ただ、不慣れな状態で7層以上を強行しないようにして欲しいな。


「今後もよろしくお願いします」

円丈和尚は、この一ヶ月でずいぶん元気になったようだ。

ウチからの報酬などで、ずいぶん本山との関係も穏やかになったようで、良かったとおもう。


長居をさせてもらったホテルの人たちとも、ずいぶん親しくなった。

お別れに全員総出で見送ってくれたのは嬉しかったな。

また機会があったら是非、来たい街になった。




一ヶ月奥多摩を空けていたら、小学校跡地は完全に鉄板で囲われて、病院工事が佳境を迎えていた。

少し工事は遅れているようだけど、それでも9月には完成し、開院するそうだ。

法人資格などは今月中には問題なく認可される運びになったようだ。

オヤジ達は今後も病院の経営についていろいろがんばらないといけない案件が残っているそうだが、ひとまずヤマギシの出番は終わりだ。

ちなみに、病院名は「社会医療法人翠嶺会・山岸記念病院」となった。

なんの記念なんだよ?


ところで、病院の資料には社会医療法人の要件の欄に『へき地医療・救急医療』とあった。言われたら確かに否定は出来ないが、公的な文書にバキッとへき地と書かれると、刺さるぜ。


ちなみに、ヤマギシと病院の職員合計約1200名は、全員冒険者協会奥多摩支部に所属している。

冒険者数世界ナンバーワン支部なのだ。

特に日本では現行、登録をしないとダンジョンに入れない規則になっているのである。

よその国はよく分からないが、アメリカでも多分、軍以外はそうしているはずだ。

そうしないと、ダンジョン内で人命に関わる事があった場合、問題が起きるからな。


「よう、お帰り」

兄貴がテキサスから帰ってきていた。俺の顔を見て右手を挙げる。

「おう、兄貴とシャーロットさんもお帰り。向こうの工場はどうだった?」

「もう操業開始したぞ。今後は、魔石の買い取りが本格化するだろうな」

もちろん、ゴーレムのドロップであるインゴットの価値は変わらないだろうけど、燃料ペレットは本当はリチャージできる。

兄貴と先輩氏の研究室レベルでのお話で、今のところオートでは出来ないものの、魔法が使える人材であれば、魔石を吸収する要領で魔素(マナ)に変え、リチャージするのだ。

チャージマシンには魔力計測器も付いていて、フルチャージの目安も分かる。

魔力計測器があって魔石を魔素に変えられる人材がいれば、別にどこでも出来る作業ではあるのだが、今のところ、その情報は公開されていない。

まあそもそもオートメーションで出来なければ、提供のしようはないんだけどね。

もはや職人芸の部類になるからなあ。

そんな職人のいないテキサスやウチの工場においては、回収したペレットを再び魔石と溶解させてリサイクルするわけである。


話は戻るが、魔石は現在、様々な商社が各地のダンジョンから回収されたものを買い取って取引されている。

当然、価格はまちまちだ。

ウチにしろブラスコにしろ、自前のダンジョンを持っているので全く他社から購入するつもりはない。

だが、ウチが次々に発表する特許をみて、世界中の企業や科学者や発明家といった面々が、お財布を振り絞って魔石を買っていって研究してるんだろう。

まだ取引市場的なものが確立していないせいもあって、なんだかずいぶんすごい値段が付いていると聞いた。


現状、貴金属としてのペレットの原価は200万円以下。

それを1000万円前後で販売しているので、人件費や利益を考えれば、400万円くらいまでであれば、最悪、買い取りが出来るだろう。


「ウチとしては、冒険者を育成して自前で調達した方がよっぽど良いって話になるよな」

兄貴もその辺は計算しているんだろう。



俺は兄貴に、伊豆での顛末を話した。

「そうか。和尚さんも大変そうだ」

兄貴も、冒険者協会設立時に面識のあった円丈和尚を思い出したんだろう。


「お寺は檀家さんあっての話だからな。それに、本山との関係もあるから大変だろう。板挟みだな。でも、例えば協力するっていってもな……ウチだってまだ、自分の足固めさえ終わってない段階だ」

兄貴の言葉に俺はうなずく。

その通りなんだよな。正直、今のウチはこと冒険者に関しては慢性的に人手不足だ。

この場合の人手不足というのは、10層までの攻略を行う人材の事ではない。

10層までだったら、医療チームにもヤマギシ本社にも、休日や非番の日に潜る人が一定数居ると思う。

自身が魔石を吸収すれば魔力のアップにもつながるだろうし、売れば金になる。

問題は、20層までを安心して任せられる人材だ。

少なくともそこまでの腕でなければ、よそに派遣してうまくやっていけるとは思えなかった。


現状、マニー達元・米軍タスクフォース組は、安定して5人でゴーレム層でのドロップ品収集を行っている。

月金勤務で、土日は完全オフにしてもらっているが、それでも優秀な彼らは、ウチにとって必要なインゴットを安定供給してくれるので、俺や兄貴がこうやって奥多摩を空けるようになっても安心できる。


ただ、問題は<収納>で車までを運べるのが俺くらいだという事だ。

理由は分からないけど、収納に関してだけは、世界中で使えるようになったって話を聞かないんだよな。

兄貴や沙織、シャーロットさんは当初からずっと俺の収納を目の当たりにしているわけだけど、ほかの魔法と違って、これだけは実現させていなかった。

俺にもうまく説明できないしな。



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