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世界冒険者協会 10

「じゃあな、お先」

兄貴はさっさと卒検を終わらせて帰って行った。

去年中型免許の限定解除を取っていたことで、兄貴の大型へのステップアップは一週間で済んだのだった。


俺たちは受ける免許も多いのでなかなか進んでいない。教習所がびっちりスケジュールを組んでくれているので、言われるままに右往左往してるようなモンだった。

とはいえ、規定通りに学科が終われば、対応する見極め検定に進める。

学科が第三段階に進むと、大特や大型二輪の卒検を終わらせられる。

普通自動車免許のあとに牽引の卒検があり、やっと卒業と言うことになる。

スケジュール表を見ると簡単そうに見えるんだが、先は長いなあ。


「彼女~」

みたいなちゃらいのが、沙織目当てで沸いたりしたけど、そいつら相手に俺が大立ち周り……といった青春は起きなかった。

そもそも沙織はガチであたっても俺とタメを張れるほどの強女なのである。強女、いや恐女?


「なんかしんどいねー」

二週間もすると沙織が愚痴りだした。

「まあ一生に一度きりのことだからがんばろうよ、な?」

珍しく俺が沙織を励ますことになる。

教官からだめ出しされるのは確かにめげるんだよな。出来ないから習いに来てるんだっての。


そんなことを兄貴にメールしたら、みんなそろって沙織の誕生日にサプライズパーティをしてくれることになった。


だいぶめげてた沙織は、久々にあった両親やウチの一家、シャーロットさんたちに大喜びで、明日への希望がフルに回復したようだった。

ただ、本当にみんな多忙なようで、翌朝には羽田行きに飛び乗って帰って行ってしまった。

「悪いことしちゃったね」

眠いなかがんばって早起きして空港へと向かった一同をみて、沙織はホームシックになったのか涙目だ。

「良いんじゃないの? みんな、沖縄じゃなくて、沙織のところに来てくれたんだからさ」

「そっか……えへ」

沙織は嬉しそうにはにかんだ。


ひとつの卒検も落とすことなく、俺たち2人はスケジュール通り全教程を終えた。

あとは、府中にいって学科試験を受けるだけだ。




全くひとつき奥多摩をあけていた俺たちの復帰と入れ違いで、夏休みを利用したブートキャンプ参加者たちは、学校に戻ることになる。

残るのは、協会幹部とほんのわずかな、社会人と協会の職員とプー太郎のみだ。

いや、プー呼ばわりは失礼だろうな。彼らは、国に帰ったら次の冒険者たちの先生になるんだし。


ブラス嬢のクラスの医学生たちは、たった1人、女性の学生がリザレクションを実現したようだ。

彼らは連日、10階層のアンデッド相手にリザレクションを多用するブラス嬢の様子を見ていたが、その中で理解できたのは一人きりだったらしい。

「1人、充分デス」

ブラス嬢はいった。

そういえば、俺たちが留守の間も彼女はずっと日本語で話していたらしい。

片言ながら、しっかり意味の通じる日本語になって来ている。

「ニホンゴ、話す。キョウジのチーム、入る。約束デス」

ブラス嬢は胸を張ってそういう。そんな約束はしてないんだが、そうは言いにくい雰囲気になってるな、おい。


ブラス嬢のブートキャンプから1人、リザレクションの習得に成功したというニュースが流れると、若い医者からも、リザレクションを学びたいという人たちが現れるようになった。

なかなか休業が取りにくい、もっとも多忙な職業のひとつではあるけど、環境に恵まれた人たちが、各国の冒険者協会を通じてブラス嬢のブートキャンプの参加を申し込んできたのだった。

「で、その人たちも日本に呼ぶのね?」

「デース」

ブラス嬢はすっかり複合施設棟のペントハウスに居座り、ウチのダンジョンを根城にしてしまっている。

現在残っている人たちは、国に帰ったら協会の指導的役割に付く人たちだ。

中にはダンジョンで若手の指導を受け持ってくれる人材も多いだろう。

彼らも9月中旬には帰国の途につくだろう。

だからそれまでの間に、俺たちが出来る最高のパフォーマンスで、俺たちが持っているノウハウを少しでも多く彼らに伝えたい。

俺はそう思っている。




9月30日。

ブートキャンプに参加した全メンバーが帰国して十日あまり。

各国の冒険者協会から黒地に白蛇の「医師」バッジを受けた人たちが奥多摩にやってきた。

全員、現地で10層まで潜ったバッジを付けている。(攻撃)(回復)(研修)の各バッジも付けている。

つまり、彼らは<リザレクション>の習得のみを目指してここに居ると言うことになる。

これは正直ありがたい。

なんと言っても、10層までを体験させ、各種の魔法を習得させ、ひとまず「死なない」冒険者を育てるのは気苦労の多い作業だ。


グールやオーガ、オークは、落ち着いて魔法で片付けられればそれほど難敵ではない。だが、魔法の実力が伴わない生身の人間だと、去年の米軍兵のように、肉弾戦で、奴らより華奢な人類は、肉塊に替えられてしまう。

M-4カービンの速射でさえ耐えきった個体も敵には居たというからな。

しかも最悪なことに、奴らの死は重くない。だいたい、リポップするからな。

それに比べて、俺たちは死んだらそれまでだ。

条件のおかしい舞台でギャンブルさせられてるようなもんだ。

だから、俺たちが、魔法を使い、武器を使い、現代兵器を使うのは、俺はずる(チート)だとは思わない。

ずるというなら、リポップするモンスターのほうがよっぽど大概だ。


ちなみにブートキャンプ帰国組が20日に奥多摩を去り、30日に医師組が訪れるまでの間。

俺たちはブラス嬢を伴って、彼女に20層までの攻略を体験してもらった。

もちろん、あえてバンシーの状態異常を体感させ、その後、<リザレクション>で回復、<レジスト>の習得をしてもらう。

『恐ろしい』

ブラス嬢は英語で言った。

『もし私たちが独力でここに来ていたら、おそらく全滅していたでしょう』

ダンジョンはそれほど生やさしくはない。

そして、16層から下は、現代兵器など意味をなさない。

ブラス嬢はそれを深く理解した。


ところで医師団。

やはり世界各国、医師がエリートであるのは間違いのないところだろう。

俺としても、彼らのその意識を否定する気など全くない。

だが、やけに鼻持ちならない傲慢な人間が数人居る。


彼らは、困ったことにほいっと教えてもらえば<リザレクション>が習得できると思っているようだ。

どうしたもんか。


ここはダンジョン上の大食堂。

とりあえず集合した完全装備の医師たちの前だ。


「じゃあほいっと教えるか」

俺はブラス嬢に

「俺に<リザレクション>かけてくれる?」

と耳打ちした。

「えー、これから<リザレクション>の実演をします」

俺の言葉を、各国の協会員がそれぞれの国の言葉に訳している。

「<リザレクション>!」

ブラス嬢の呪文が俺に発動し、俺の身体に白色の光のカーテンが降りる。

「リザレクションの属性は聖。ヒールやキュアと同じです。発動したときはご覧のように白い光が現れます。これも同じですね」

「お話中すいません」

アメリカの協会員が右手を挙げる。

「なんでしょう?」

『なぜ実験台が説明してるのか? と質問が出ています』

要するにアメリカが誇る<リザレクション>の使い手であるキャサリン・ブラス嬢が教えるならともかく、出来もしないであろう俺が指導するのは気にくわない、ということか。

「えー、皆さん。守秘義務契約はサインしていますね?」

俺は全員に挙手させる。

「彼女にこの魔法を教えたのは俺です。ていうかここに来るまでにあなた方が覚えてきた魔法を全部作ったのも俺です。あなたたちが知らない魔法も俺は知っています」

俺は収納から長槍を出し、その槍に炎をエンチャントさせて頭上で一周させると、さっと槍をしまった。

「デモンストレーションはこのくらいで良いですか? では<リザレクション>!」

俺は最大魔力でそこに居る40人全員にまとめてリザレクションをかける。

「これがリザレクションです。話を続けます。属性は聖。術のイメージは<祝福>および<復活>です。……通訳の人たちはちゃんと訳してください」

どうやら薬が効きすぎたようだ。会場が固まってしまっている。


『どうしてこれほどの能力を隠しているのか? あなたが医師になれば何億という病人を救えるのに!』

『今日、今まさに失われている命にあなたは何にも感じないのか?』

医師たちが色めき立った。

「それはあなたたちの仕事でしょ? 俺は医者じゃない。冒険者だ」

だから俺は怒鳴った。

「何を勘違いしているのか知らないけど、俺は、俺たちは、あなたたちがその崇高な理念を元に、魔法という現象を使って患者を癒やす術を学びたいといっているからその手助けを引き受けたんだ。隠してる理由は、今あなたたちがいった通り。俺たちのこの魔法を知ったら、ここに、不治の病を背負った人たちが押し寄せてくるかも知れない。医者でもなく、病院の設備もなく、冒険者としてダンジョンに潜っている俺たちのところにだ。それって、正しいことなんだろうか?」

しん、と騒ぎが収まる。

「医者のことは、医者がやれ」

俺の声は、やけに冷たく響いた。俺自身が内心戸惑うほどに。


その後、気を取り直してレッスンを再開する。

2人一組になって、リザレクションの練習を始めたが、正直、あまり芳しい出来ではなかった。

これはどうやら、スパルタ教育が必要になりそうだな。




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