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世界冒険者協会 7

4月。

日本冒険者協会は銀座で売り出されてるオフィスビルを20億くらいで買って銀座支部を作った。

もうそこが本部で良いんじゃないかと思うんだけど、やっぱり奥多摩を本部にしたいようだ。

もっとも、対外的な事務は銀座(そっち)でやるようで、奥多摩(こっち)のオフィスはHQ(ヘッドクオーター)として使うんだそうだ。

ちなみにヤマギシ(ウチ)も銀座支部のビル購入には金を出した。

「銀座にビル買うとか、人生何があるか分からんな」

オヤジがやけににやけてた。まあ協会所有なんでヤマギシがどうこう出来る物件でもないけどな。

ト○タのSUVは、11層で提供の条件のCM撮影が始まった。

俺たち四人は、おそろいの装備で車に乗って、やたら細かい絵コンテに従って数日、撮影につきあった。

運転は兄貴とシャーロットさんで行ったが、やはりというか、絵になるシャーロットさんが採用された。美人だもんなあ。


テレビでもオンエアされるらしいけど、ネットでは全編公開されてるんだそうだ。

俺や沙織にもちょっとだけ出番があったらしい。


RPG-7は、政府が新しく発給する冒険者登録をすれば購入が出来るようになるらしい。

自衛隊の調達に強い商社が、代理権を取得したようだ。

まあゴーレムまで進んでる民間パーティなんてまだ国内にはいないだろうし、もうちょっと先の話になるだろうな。


そういえば、いよいよブラス嬢のパーティがゴーレムのマップに入った。

ドロップ品のインゴットなんかをウチに供給してくれるそうだ。

代わりにウチも魔法燃料のペレットを提供する。

輸送や会計管理はIHCが仲介してくれる。


「そろそろペレットの特許も申請しないとな」

兄貴が言った。

確かに、ブラス嬢あたりなら、そろそろ仕組みに気づく可能性もあるもんな。

今回も、大手町にある国際特許事務所で良いだろうと兄貴は言っていた。

そういえば、藤島さんと俺たち共同で、エンチャント武器の特許も取ったりしている。

藤島さんはライセンス製造を認める方針のようだから、そのうち欧米の企業から引き合いが来るかも知れないな。


ちなみに、ウチの燃料ペレットの制御は、メイジ系のドロップ品である魔法の杖を細かい爪楊枝のような枝に破砕して、ひとつに<フレイムインフェルノ>発動のエンチャントを、もう一つに<キャンセル>の術を施している。

この枝をペレットに当てればペレットは燃え、キャンセルで停止という仕組みだ。

正直デッドストックである杖の使い道としては経済効果があったから良しとしよう。




ブラス嬢は、自身が魔法の力で不治の病を克服したことを大々的に発表した。

欧米には宗教的理由で「魔法」を嫌悪する感情があるらしい。

そうした意識の改善と、迷宮や冒険者への恐怖感を払拭するための政治的な策らしい。

そして、彼女たちは、医師による回復魔法の習得への支援を打ち出している。


今の段階では手探りなのに、酔狂な医者が数人、彼女のところに師事してるんだそうだ。

今のところ残念ながら、良くて<キュア>止まりで、<リザレクション>が具現化できている人はいないようだ。

リザレクションと言えば、30層をクリアするまでの間に、兄貴、沙織、シャーロットさんは魔法の理解が出来たようだった。

ウチのパーティはこれで、非常に危機管理が優秀なパーティになったと思う。

ダンジョン内の死の定義はよく分からないけど、かなり危険な状態でも回復できると俺は思ってる。


「世界冒険者協会の正式発足の発表会とレセプションがあるそうだ」

朝食の席でオヤジが言った。

「招待状は下原さんたちにも来てるが……」

「ああ、私と妻は残りますよ」

沙織んちのおじさんは多忙だ。おばさんも、大工事が二ヶ所同時に進行しているため、会社を離れたくないそうだ。

「せっかくなのに、すいません」

兄貴が言うと

「いいのよ。私たちは飛行機の移動で疲れちゃうしね」

おばさんは明るく笑って右手を振った。

出席者は俺たち四人とオヤジ、5名になった。


会場はヒューストン・コンベンションセンター。俺たちに用意してもらえた宿は隣接のヒルトンだ。

俺たちはまず宿で長距離移動の疲れを癒やし、前夜祭のパーティに顔を出した。

パーティにはあの暑苦しいブラス一家も来ていて、俺はまた抱きしめられたりやたらと肩やらぱんぱん叩かれて閉口したが、ダニエル氏は地元テキサスの名士にとどまらず、アメリカ屈指の富豪でもあるため、えらい注目度だった。

そのダニエル氏にやたら親しく扱われる若造の東洋人ということで俺も注目を浴びてしまったが、俺が英語が出来ないと知ると、やがて喧噪から抜け出すことが出来た。

ふうやれやれだ。


そして翌日。

設立宣言のイベントが終わると、コンベンションセンター各所でワークショップやなにゃが開かれた。

日本からも、俺たちと共同開発された様々なグッズや装備が出展され、注目を集めていた。

そして、どのブースでも俺たちがモデルとして展示されていたので、昨晩まで目立たなかった東洋人一行は、オヤジ以外全員有名人になってしまったのだ。


夕方からはレセプションパーティが始まった。

この頃兄貴は、シャーロットさんを先生に英語の勉強をはじめたらしいが、結局早口で話しかけられるとアワアワして、シャーロットさんに頼りっぱなしになる。


俺と沙織のところには、ジェイとジョシュが来てくれて、あまり引っ張りだこにならないように気を使ってくれている。

いつもブラス嬢に付いてくる通訳さんが一緒なんで、俺たちにとってはとてもありがたかった。


ジョシュの話では、今夜のレセプションの顔ぶれはすごいらしい。

上下両院の議員や、いろんな企業の代表などがあちこちで談笑している。

ブラス嬢は、そうした人垣の中心にいつもいる。

時折ちらちらこちらを見てるが、抜け出そうにも次々と人が寄ってくるので、動きが取れないようだった。

その間俺たちは、美味いオードブルをあちこちつまんだ。美味い軽食をたらふく食ったあと、さっさと部屋に引き上げさせてもらった。


「お前も沙織ちゃんもひでえな」

置き去りにした兄貴とシャーロットさんがへとへとな顔で引き上げてきた。

なんでも俺たちの文まで兄貴たちのところに客が集中したらしい。

「いやあ、ジョシュさんたちに聞いたら『いつでも引き上げていい』っていうからさ」

俺には別に用事もないし、まあうちのフロントマンは兄貴なんだしな。

翌日からは一般公開になるそうなので、俺たちの出番はこれで終わりだ。


時差ぼけもあって一日中眠い。俺たちは早々に部屋でくつろがせてもらうことにした。


翌日、オヤジはさっさと帰国したが、俺たちはブラス家から招待をいただいたんで、そちらに顔を出すことになった。


『ようこそいらっしゃいました』

ブラス嬢がお出迎えしてくれた。

ブラス家のほかの皆さんは、祖母とお母さん以外全員それぞれの役割をこなすためお出かけ中らしい。

俺としては相変わらずあたりのきついジェイがいないだけでもありがたい。

『いろいろお話ししたいことがあったのですが、コンベンションでは時間が取れませんでした』

通訳さんが、相変わらず早口なブラス嬢の言葉をなめらかに訳してくれる。

「今日はあっちに行かなくて良いんですか?」

兄貴が聞くと

『基調講演と顔合わせはもう終わりましたから』

とブラス嬢いった。


ちなみに、世界冒険者協会というのは、世界各地域にある冒険者協会の上位団体だそうだ。

冒険者たちに何らかの実務を行う場合、各協会が行うわけで、言ってみるとサッカーのFIFAとかモータースポーツのFIAみたいなポジションになるらしい。

『冒険者協会における日本の役割は、大きく、重要です』

ブラス嬢が言う。

『タービン発電もそうですが、全世界に先んじて、ファッション、武器、車まですでに用意しているのは驚きに値します。しかも、全ての素材に至るまで、説得力のある理由に裏打ちされています』

まあ、その辺は先行した強みだよな。

米軍にもそのノウハウは提供したわけだけど、どうもやっぱり軍隊というのは秘密主義的な部分があって、結局俺たちに先んじられたって事なんだろうな。


『そういえば、米軍からの武器供与を終了するとか?』

「ああ、ええそうです。ウチもおかげさまで資金繰りに目処が付きましたんで」

『良いことだと思います。軍隊は結局、政治的な思惑に左右されますから』

日本の自衛隊は取り巻く政治的環境のせいで能動的に動けない組織だけど、米軍は違う。

幹部はほぼ政治家といって良い存在になるし、国会議員(アメリカでそう言うか知らないけど)たちには公然と軍の利権派閥だってある。

彼女はそういうことを教えてくれた。

そういえば昨夜もかなりな人数の議員がいたよな。そのうち、冒険者閥なんてのが出来るんだろうか?


『先ほど、冒険者協会にとって日本は特別だと言いましたが、それは民間技術だけではありません』

ブラス嬢は身を改めてそういった。

『あなたたち四人の存在は、とても特別です』


俺たち本人にしたら、あまり実感はないんだが、やはりCCNで中継されながらのダンジョン攻略、米軍の受難者救出、その後の魔法アイテム開発、といったいろいろなことが、不本意なことにかなり脚色されつつ世間に広がってる。

ハリウッドの気の早いプロデューサーなどは、映画化権を買いに来た者も居たらしい。

『うちにも来ましたよ』

ブラス嬢は笑った。

余命二年と呼ばれた富豪の娘が奇跡の完治、みたいな泣ける話で全米を泣かそうとしたらしい。

『現在企画進行中です』

「え?」


ブラス嬢はそういえば結構野心家だった。

『それで冒険者への関心が高まって、社会に受け入れられるチャンスがあるなら、悪い事ではありません』

彼女はそういった。

むしろブラス嬢に言わせると、俺たちの映画もゴーサインを出して欲しいくらい、だそうだ。

さすがに勘弁して欲しいな。それは。




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