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世界冒険者協会 6

正月三が日も終わり、いよいよ俺たちも日本に帰ることになった。

ブラス家が帰りをプライベートジェットで送ってくれることになったので羽田にフライト申請を出したが、一杯のようだったので、横田にこっそり帰ることになった。


世界冒険者協会の幹部たちは、まだヴァージン諸島に滞在していろいろディスカッションをしたりしてるようだ。


帰る間際、ブラス嬢が思い詰めた顔をして

「ミスターキョウジのパーティに入れてくれ」

といってきた。


「申し訳ないけど、日本語は必須だと思う。下層に行けば俺たちだって命がけだからね。たった一言の時間が生死を分けることだってあるんだ」

俺は、そう言ってブラス嬢の申し出を断った。




日本に帰ってからはしばし平穏に、初詣に行ったりテレビを見たりしてのんびりした。

その後、自衛隊や米軍がうちから去るのの計画作りや、藤島さんたち刀匠たちに、今後長槍が世界的に人気になるだろう事などを話した。

ブラス兄妹に三本も取られたというと、藤島さんは

「またすぐ打ちますよ」

と請け負ってくれた。

春の、奥多摩の工房完成が待ち遠しいな。


ヤマギシのダンジョン周辺の土地買収は、町立の小学校の敷地にぶつかるまで進んだ。

実は、この学校の校舎と土地をウチが買い取って、新たに青梅線の北側に新校舎を建てて移転しようかという話になったのだが、空気の読めない数人の町議によってずいぶんふっかけられてしまったために白紙になった。

ウチとしては、本気で土地が欲しい場合は、山を買い取って造成しても良いと思っている。

奥多摩は立地的に、多摩川沿いにある、河川の浸食や風化によって出来たわずかな平地を元に発展した古い町並みなので、基本的に土地が少ないんだよな。

まあ、町というのは大事な共同体でもあるし、住人のコンセンサスが得られないんだったら、憎まれてまで何かする必要もないだろう、ということになって、オヤジたちはあっさり小学校跡地購入計画をペンディングにした。


相変わらず俺たちは15層付近までのゴーレムで稼いでいる。

そういえば、今回の魔法教育計画が来月に終わる。

そこをもって、俺たちは米軍とも自衛隊とも距離を置くことに決めた。


ウチ単体で考えると、別に軍隊までが迷宮攻略に必要とは思えなかった。

それは、ブラス嬢も同意見のようだった。

国家所有のダンジョンについてはどうか知らないけど、民間のことは民間でやったら良い。

当初いろいろお世話になったりもしたけど、魔法使いの修行を引き受けてノウハウも提供したし、義理も果たしたんじゃないかと思っている。


そんで、そうなると、ゴーレム用の武器であるM72あたりの代替兵器の調達の問題が起きる。

MRAPなどの軍用車両の問題もあるけど、実はMRAPは米軍が正式にウチに払い下げてくれるという話もあったのだが、お断りすることにした。

何せ、整備が出来ない。


ト○タが、研究用に荒地走破性の高いSUVのカスタムモデルを車検が通る形で提供してくれたり、給油用のタンクローリーなども購入が可能だったりするので、三月になったらまたカリフォルニアに行って、借りていた兵器一式を返却することになるだろう。

タンクローリーと言えば、危険物の免許も必要なようだった。

これについては、とりあえず兄貴とシャーロットさんが受験してくれるようだ。

もっとも、ガソリンスタンドまで俺を運べば<収納>から出して給油が出来るので、至急性はそれほど高くはないんだが。


とりあえず、ゴーレムを魔法でナントカできないかと<エクスプロージョン>なる魔法を開発してみたものの、やはりというか、耐魔法性にやけに優れているアイアンゴーレムから先には苦戦した。

動きはのろいが一撃が大きすぎるゴーレムを相手に通常の槍なんかの武器は問題外だから、結局ロケットランチャーは奴らにとってキラーアイテムであることに間違いはない。

この辺は、アメリカ企業が今更ながら製造計画中のRPG-7に期待するしかないだろう。

実は自衛隊関連の国際商社が、ロシアの正式品を輸入しても良い、といってくれてるんで、アメリカがダメでも最悪ナントカはなりそうだ。

冒険者関連法で、銃刀法や武器輸出入関連の法整備をしてもらわないと、結局俺が現地に出向いて収納しないとならない羽目になるけれど。


収納と言えば。

俺の収納の中にはどれくらい、日本国内で持っていたら問題になるようなものが入ってるんだろう?

実際、それを危険視したり問題視する人物は、政府内外にもいるらしい。

中には、俺の収納が完全に法から逸脱しているとして、俺の海外への渡航を禁じようと言い出す奴までいるらしい。

俺の収納の中身を常に監視し、問題があれば俺の身柄を拘束しようとか言い出すものもいるらしい。

出来るもんならやってみろ。

としか言いようが無い。


現実には、俺に手を出せば今後ヤマギシの協力は得られなくなるわけだし、俺たちとしても、ちょっかい出されるくらいだったら、最悪日本を脱出しても良いくらいの気概はある。

もっとも、本当に幸いなことに、現政権とは円満かつ穏便につきあってもらえてるので、直接的なアプローチは俺たちの波打ち際で全てシャットアウトされている。


2月。

ついに、自衛隊と米軍の魔法の生徒たちの訓練が終わり、それぞれ、帰る場所に戻っていった。

彼らは去り際、俺たちとのお別れ会をしてくれた。

ドナッティさん、ベンさんはアメリカに帰り、それぞれ、アカデミーで教えるようだ。

そして、彼らに鍛えられた20人は、おそらく鬼軍曹として、また新たな生徒を教えていく。

自衛隊も、同じように岩田さんや坂口さんを教師に、今回鍛えられた20人が後進を指導するそうだ。

願わくば、彼らがダンジョンで命を落とすことがありませんように。




すっかり人がいなくなった影響でコンビニの売り上げが減っている。

そりゃそうだよな。BXがわりにウチを使ってくれていた40人もの人たちがいなくなったわけだし。

ただ、ヤマギシとしてはコンビニが赤字になっても、昔と違いいまは別部門で利益が出ていれば問題はない。

働いてる人たちの気持ち的には複雑だろうけどね。

まあ俺たちが家業でやってた頃から、この季節はダメだったんだ。


藤島さんから連絡があって、刀匠たちのダンジョン体験学習をしたいそうだ。

「武器のエンチャントを実体験して欲しいんですよ」

藤島さんは、やはり作り手が、自分の作る武器がどうなるのか知らないと良いアイデアも浮かばない、と考えてるようだ。

兄貴とシャーロットさんだけで世界冒険者協会の日本支部と、日本冒険者協会なんかの打ち合わせに行くので、余る俺と沙織でレクチャーする。

ひとまずすぐ集められる関東近隣の刀匠や刀研ぎ、柄や鍔の職人さんたちに集まってもらって、藤島さんをリーダーに、低層で魔法のレクチャーをすることにした。


「藤島さんが新しい人に教えられるよう、教える手順を覚えてください」

春に工房が完成したら藤島さんも奥多摩に越してくるから、日にちを決めて彼らに3層あたりで修行してもらったら良いんじゃないかな?

一芸に秀でた人には、何をやらせてもマスターが早い、とか言うらしい。

何かのジャンルでマスターした経験は、他の分野でも生きるって事らしいけど、俺は藤島さんの魔法に対する理解と、後進への指導でそれを実感させてもらった。


「私たちにも工房をいただけませんか?」

刀研ぎの職人さんや、柄や拵えを作っている職人さんが名乗りを上げてくれる。

「あとでウチのオヤジを紹介しますので、そちらでご相談ください」

そう答える。多分オヤジは喜ぶだろうな。


オヤジたちは、旧コンビニ店舗跡、要するに今ダンジョンがある棟の横に、オフィスとマンションのビルを計画中だ。

奥多摩には、全く需要がないためにマンションがない。

そこににわかに需要が生まれたため、自力でなんとか整える必要が生じているのだ。

春が来たら、また工事が始まるだろう。

国の後押しで、ウチが買収したこの一帯は建坪率や容積率が大幅に緩和されている。

次の施設は、高く出来るらしい。


ここに作られるオフィスには、日本冒険者協会と世界冒険者協会日本支部が入るようだ。

なにもこんな東京の西外れに来なくても良いだろうに。

今は都心にだって探せば、いい条件のオフィス物件があると思うんだけど。


そんなこんなで3月。

クソ寒い奥多摩では、春より先にゼネコンが来て、川向こうの山を整地しはじめたり、新ビル棟建設のための穴掘りなどが始まっていた。


新ビル棟一階には、冒険者たちのためのアンテナショップが出来る。

俺たちが日常使ってる武器や装備一式、それに、ダンジョン用の電気カーゴ車やSUVなんかも展示される。

俺たちが使うSUVはまるでサファリラリー車のようにデコレーションされた。

ミ○ノ、S○NYやア○イなどのスポンサーデカールが貼られていてやたらかっこいい。

俺も早く免許が欲しいな。この車、ちゃんと車検が通ってて、街乗りも出来るらしいんだ。


ちなみに、ダンジョンの上にあるワンルーム施設は、現在ゼネコンが借り上げ、工事の職人さんたちに提供されている。

人が増えて、コンビニの売り上げもまた回復してきた。


俺たちのダンジョン攻略は30層まで進んだ。

21層からのモンスターは、神話系の魔獣だった。

狼、サソリ、でかいカニ、マンティコア、ケルベロス、ワーウルフ、ワータイガーなんかに、最後にはキマイラが出てきた。

人獣系のドロップは剣など。魔獣は牙やら甲羅やら。

どっちも藤島さんたちに提供して、何か素材に生かせないか研究してもらっている。


30層のボスのキマイラのドロップは毛皮だった。

耐魔性に優れた素材ではあるけど、俺たちにとっては現代人の服装の方がよっぽど良いので、使い道はなさそうだ。

30層の宝箱には一人あたり15枚の金貨と宝石の入った革袋があった。

この金貨が使える街とかでも出てきてくれないと、正直金の価格では1万~1.5万円にしかならない。

ウィズやトル○コみたいに、どっか途中で街とかないもんかな?




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