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世界冒険者協会 4

「じゃあオヤジ達は飲み過ぎないように」

「おばさん、あとお願いします」

兄弟そろってオヤジの扱いがひどいと思われるかも知れないが、明らかに浮かれ具合の激しい両家のおっさん達が心配だ。

「はいはい、大丈夫だから。真ちゃんも恭ちゃんも、うちの沙織をお願いね」

おばさんが苦笑いしながら俺たちを送り出す。


俺たちはブラス嬢のプライベートジェットでテキサスに飛び、彼女のダンジョンで接待討伐と言うことになった。

さすがに、あれだけ多額のもてなしをされた以上、手ぶらで帰すわけにも行かないしな。いや帰るのは俺たちのほうなんだけど。


「通訳は私がします」

シャーロットさんが言ってくれた。

正直、いつも言うとおり日本語が通じないヤツとダンジョンに潜るのはごめん被りたいんだ。

いざって時、一瞬の反応の遅れで命がかかるダンジョン内で、のんきに通訳なんかやってられないわけで。

ジャクソンの次男坊も来たがったけど、そんな訳で遠慮してもらった。


テキサス州コンローにある空港でジェットからヘリに乗り換えて、俺たちはリビングストン湖の畔にあるウルフクリークというこれまたハイソな保養地っぽい場所に運ばれた。

ここからは二台のハマーに分乗して森の中へと進んでいった。


途中、二度ほど有刺鉄線のある高い金網フェンスの門を通ったが、そこには、武装した警備員が歩哨している物々しさだった。

浸食の口(ゲート)前は更に物々しい警備だったが、オーナーであるブラス嬢が現れると、一列に並んで敬礼した。

俺たちはリゾート服からいつものミ○ノ製の特製冒険者服に着替え済みだ。

ブラス嬢も、サマードレスから戦闘服に着替えている。

見た目12-3才でも通るようなちみっ子の金髪ツインテール&ロールヘアな美少女の軍服姿は、どう見てもコスプレにしか見えない。


「さて、じゃあはじめようか。ブラスさん、何層まで攻略進んでますか?」

『3層まで、だそうです』

「じゃあとりあえず俺が先頭。恭二と沙織ちゃんが左右で後列にブラスさんとシャーロットさんで」

「了解」

まあだいたいいつもの編成だ。

俺たちはいつも通り、長槍を装備する。

ちなみに、ヘルメットは今回から、ミ○ノがデザインし、レーサー用のヘルメットで国際的に有名なア○イとS○NYが共同開発した、アクションカム内蔵型で強度が強い難燃型のヘルメットに変わっている。

オートマッパーの設定を新規ダンジョンに変え、全員のカメラをブルートゥースで同期させて、歩き始める。


俺と沙織の気配探査でどんどんボス部屋を攻略して、あっという間に3層までを片付ける。

そして攻略済みのボス部屋で、ブラス嬢と意見交換だ。


『銃を撃つなと指示された理由が分かった、そうです』

「ああ。後列に撃たれるとむしろ仲間が危険だからね」

シャーロットさんの通訳に兄貴が答える。

ブラス嬢に「何層まで行きたいのか?」と聞くと「行けるところまで」と返答があった。

まあそう聞けばそう答えるよな。

ただ、今のブラス嬢の実力では、この下に連れて行くにはとても不安が残る。

攻撃は全面的に俺たちで引き受けたらいいのだが、<アンチマジック>だけは覚えておいてもらわないとな。

そこで、ここで俺たちはブラス嬢のための魔法学校を開校することになる。


いつも通り、ブラス嬢には魔石から出る魔力を吸収してもらう。数もいつも通り40個ほどでいいだろう。

『自覚できるほど魔力が増えているそうです』

「じゃあ準備オッケーだね?」

<ライトボール>から始まり、ファイアボール、フレイムインフェルノ、サンダーボルト、アンチマジック、ヒール、キュア。

俺たちがいつも使う魔法を実演し、ブラス嬢にもリピートしてもらいながらひとつずつ教えていく。

過去、派遣された武官達に教えてきたため、さすがに俺たちも教え慣れてきた。

「さすがにテレビで見ただけで<キュア>を理解した、っていうだけのことはあるなあ」

ブラス嬢は、今まで俺がレクチャーした全員の中でトップクラスの覚えの良さと、術の確かさをもっている。

勘の良さでは沙織以上だし、魔法の性質として俺がこの頃よく例える<属性>についても、彼女はすんなりとかみ砕いて記憶できるようだ。

「10層まで行ったら、アンデッド向けの魔法である<ターンアンデッド>を教えます。その前に、もしかしたらあなたなら<リザレクション>が使えるかも知れないですね」

『リザレクション。名前からイメージは出来る、そうです』

「うん。属性は聖。本質はおそらく<回復>か<復活>」

俺は、まず沙織に向かって使ってみせる。

そして、ブラス嬢にも。

「<リザレクション>」

幼い頃から病弱なため、いろいろあきらめてきた彼女のために、俺は精一杯の想像力を働かせて彼女の肉体が、地上の全ての人間にとって、息をするように当たり前に備わっている「健康」ってやつを得られるイメージを構築する。

真っ白な輝きがブラス嬢の全身を覆い、そしてはじけた。

「! …………!」

なにかブラス嬢はものすごい早口でシャーロットさんに告げる。

「すぐに地上に戻って医師の検査を受けたいそうです」

……あれ? おれやらかしちゃったかな?


逆の立場だったら、生まれつき身体が弱くてもう余命が幾ばくもないなどと言われてれば、身体について人一倍ナーバスになるだろう。

そんな彼女に<リザレクション>を掛けたのはさすがに無神経だったかも知れない。

さすがに俺は自分の無神経さに落ち込んだ。

その辺を兄貴や沙織も分かってくれたのか、言いたいことはあるだろうに、無言で過ごしてくれた。


俺たちをウルフクリークに残して、ブラス嬢はヘリで飛んでいった。

なんでも、かかりつけの医者がヒューストンにいるそうで、彼女はそこまでヘリで行くそうだ。

「……まずいかな?」

「別に変なことやってないんだろ?」

「まあね。てかここにいる全員、俺の<リザレクション>受けたことあるじゃん」

「ああまあそうか」

その説明で、兄貴たちは納得した。


残された俺たちより、俺たちをどう扱って良いのか分からずおろおろしてるブラス家の従業員たちのほうが気の毒だった。

俺たちの格好を見て、

「軍人じゃないしいつも来てる傭兵でもないからお嬢様のお客には違いないだろう」

という結論を出したようだ。

とりあえず、庭のテーブルでコーヒーを振る舞われているうちに、事情を把握したらしい。

とりあえずここ、あとから知ったが別荘兼ダンジョン管理隊の基地だったらしいが、ここの客間で一晩泊まることとなったのだった。


翌日、ヒューストンのブラス家から迎えのヘリがやってきた。

まあお客である俺たちは来いって言われたらほいほい行くしかない。

ていうか何かブラス嬢の身に起きてないか不安で仕方ない。


俺たちはヒューストンで、本物の豪邸というヤツに出会った。

リバーオークスと呼ばれる東京で言ったら田園調布的な街だが、家の一角に公道が走り公園があるなんて建物を初めて見た。

この一角は高級住宅街なんだが、そのでかい家々が、ブラス家の邸宅にある庭にまず10個以上は入りそうな感じだ。

庭にプールがあるのはよく見る光景だが、テニスコートまである。

俺たちはその庭にヘリで下ろされた。


俺たちを出迎えたのはこの豪邸の主のようだ。

『ようこそみなさん。孫に変わって歓迎します』

通訳の人はいつもブラス嬢に付いてた人だ。

「ご紹介します。ダニエル・クリストファー・ブラス氏です。キャサリンのおじいさんです」

通訳の人が一歩前に出て、俺たちを紹介してくれる。

年の順に、シャーロットさん、兄貴と紹介し、沙織を紹介する。

ダニエル氏はその一人一人と握手をして歓迎の意を述べる。

「最後に、ミスターキョウジ・ヤマギシです」

俺は握手に備え、右手を差し出しかけ、大柄なテキサス人に抱きしめられた。

えらい力で抱きしめられて早口の英語でまくし立てられる。

やっと解放されるかと思ったら、クマみたいな両手を俺の両肩にぽんぽん置いて、またがばっと抱きしめやがった。

フリーダムすぎんだろ、じじい。


やっと落ち着いたじじいと、おろおろしていた通訳さんが俺たちを屋敷に案内してくれた。

そこには、明らかにこのじじいの子供だって分かる眉毛のオヤジがいて、俺を紹介されると、爺そっくりなリアクションで人のことを抱きしめやがる。

暑っ苦しすぎだろブラス一族。


「キャサリンが治った?」

「はい。キャサリンは<キュア>の魔法で心疾患を抑えて活動していました。しかし、彼女の病は心臓だけではありませんでした――脳の腫瘍があったのです」

「ええと、こいつの魔法でって事ですか?」

「ええ、ミスターキョウジの魔法で治ったと、キャサリンは言っています」

良かった。

ダンジョンから引き上げる際のブラス嬢のあまりに逼迫した表情は、俺にはむしろ「悪化でもさせたか?」って感じたほどだったからな。


キャサリンの脳腫瘍が見つかったのは12才でした。

通訳さんが言う。

脳腫瘍の手術は難しいらしい。

開頭手術はしたものの、腫瘍の完全な除去には至らなかった。

そしてそれはキャサリンの余命は伸ばしたものの、もう1-2年で絶望的な状態であることには変わらなかったらしい。

故に彼女は好きに生きた。

そして俺と無理矢理出会い、俺の魔法で全快した。


そういう話らしい。


この話はヤバい。

俺は青くなった。

「シャーロットさん。この話、オフレコにしてくれってここにいる全員に伝えてください」

俺は慌ててシャーロットさんに通訳してもらった。

「今から理由を話します」


ヒューストンのエネルギー王の孫娘が不治の病を魔法で癒やして全快した。

それはなるほど良い物語になるかも知れない。

俺が医者だったらだ。

だが俺は冒険者だ。

こんな話が広がると、俺のところに余命幾ばくもない人間やその家族が押し寄せかねない。

それははっきり言って迷惑だ。

「彼女は自分の魔法で自分を治した事になってるんでしょう? だったら今回のことも、表向きはそのままで良いでしょう?」

俺は珍しく熱弁した。


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