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お金がない 7


「というわけで、第二回ヤマギシ役員会を行いますー」

「わーぱちぱちー」

これ恒例にする気かよオヤジ&沙織よ。


「新ビルですが、外装が終わり、先んじて内装工事を終えたコンビニ店舗がいよいよ開店です」

オヤジが一転まじめに言う。

「恭二、<収納>してある商品の陳列を頼む。ただ、食品を中心に賞味期限のあるような品物は、確認を頼むな」

「了解。切れてたらどうする?」

「うちで使えるものは使って、ダメそうなものは廃棄処分だな。文具や生活品は消費期限ないんで大丈夫だろう?」

基本、賞味期限の表示があるのは食品くらいだしな。

「次に、旧店舗の上にあるマンションだけど、内装が終わったら入居が可能になる。業者さんから内装工事の予定聞いて、自衛隊と米軍に伝えとくわ」

「ってことはいよいよドナッティさんと岩田さんとのパーティもおしまいだな」

「あのお二人は人柄も良く有能で本当にありがたかったですね」

兄貴の言葉にシャーロットさんもしんみりうなずく。

「ああそうだ。ビルの五階、優先的に内装してもらうんで各自、引っ越しの準備をしておくこと。荷造りはプロに任せるんで、開封されたくないものだけ段ボールに詰めて開封厳禁って書いておけばいいらしい」

「あの……本当に私もいいんですか?」

オヤジはシャーロットさんにも一室用意しているのだ。

「十分な広さと客間を用意してあるんで大丈夫ですよ。シャーロットさんはもう、ウチの一員みたいなもんだし」

「そうだよーシャーロットさん、あたし達の間に遠慮は不要よ?」

お前はいつウチの一員になったんですか沙織さんよ。

……まあ沙織にも一室準備されてるんだけどな。

時間的に不規則なこともあるし、余計な心配をさせないように、今回の引っ越しを機に沙織にも独身寮的な意味合いで、部屋を用意してあるのだ。

ちなみに、今居るこの家は、シャーロットさんの部下達の寮になる。


「ゴーレムのドロップで、冒険者部門は何とか黒字になりました。ただ、武器なんかの経費が今はかかってないけど、米軍から請求されるようになるとあいかわらず微妙な線になるでしょう」

兄貴が報告する。

「まあ、俺たちの冒険がよそより先行している限りは、情報協力として武器の供与は受けられるでしょう」

ギブアンドテイク、って事だな。


「CCNのほうの映像買取が、今後コストカットされる可能性があります」

シャーロットさんの報告はちょっとした不安要因だ。

日米両軍の資料としての映像買い上げと違い、そろそろニュースバリューの落ちてきたダンジョン内部の映像は、例えそれが未開のフロアのものであっても商品価値が落ちてきている、って事だろう。

「まあその辺はしょうがないだろうね。米軍と日本政府が買ってくれてる間はジョン達にお給料が出せるんだから、とりあえず問題はないだろうね」

オヤジが言う。


「最後に俺から。今米軍から借りているコスチュームのほかに、スポーツ用品企業から俺たちのユニフォームが提供されます。色は俺の一存でブルーに決定しました」

「えー!」

兄貴と沙織がハモって抗議する。

「藤島さんから、ライオットシールドのメッキが終了したと連絡がありました。こっちに来てもらうのは悪いんで、取りに行くことにします。あと、会社名義でオフロードバイクを四台購入しました。とりあえず、俺がこれに乗って取りに行ってきます」

「あ、俺も一台欲しいかな?」

「兄貴はスクーター持ってるじゃん」

一応、ダンジョン用なんだからな。




俺がバイクで藤島さんのところに行くというと、沙織も

「あたしも行きたい」

というので、やむなくオフロードバイクをもう一台出す。

「初ツーリングだな」

と沙織に言うと、

「やだもうー」

と俺のヘルメットをぱんぱん叩いて喜んでいた。そんなに乗りたかったのかよ、バイク。


考えてみたらバイク用のプロテクターとほとんど同じモノを毎日着てる訳なので、俺たちはいつもの格好に、ヘルメットだけバイク用のモノを装着して出発した。

初の公道は緊張する。むしろ沙織のほうが堂々としているくらいだった。

青梅街道を東進して40分ほどで、藤島さんの庵に到着する。


「こんにちは藤島さん。シールド受け取りに来ました」

「ああどうも恭二さん。出来てますよ」

ライオットシールドは、名前通り琥珀色の鈍色に輝いていた。

「どうでしょう? エンチャント乗りますか?」

「あれ、藤島さん試してないんですか?」

「……なんか、初物を使うのは申し訳なくて」

全然かまわないのに。

「やってみますね。<アンチマジック>!」

俺が魔法を通すと、ここに居る全員がはっきり感じ取れる魔力を発して、メッキされたシールドが輝いた。

「すごい……いい感じ!」

沙織が目を輝かせて盾を見ているので、手渡してみた。

「いいねこれ」

「うん。あ、藤島さんもどうぞ!」

沙織に手渡されて藤島さんはおずおずとシールドを構えてみる。

「なるほど、ちゃんと<アンチマジック>感じますね……」

藤島さんは、盾をいろんな方向から眺めて、なにやら考え込んでいる。

しばらくそんな風に盾を眺めてから、はっとした表情で俺に盾を返してくれた。

「量産したいですねえ……」

「ですね。おそらくこれだったら国産メーカーで作れそうですんで、兄貴達と相談してみますよ」

俺の言葉に、藤島さんもうなずいていた。

「あ、そうだ藤島さん。法的な部分はあるんですけど、魔鉄とエレクトラムで日本刀って作れます?」

「エレクトラムはちょっと厳しいですかね? でも魔鉄ならいけると思いますよ。一応槍を打ってるんで、鉄の癖は何となく分かってきたような気もしますし」

エレクトラムは、柔らかすぎて日本刀には向かないと言うことだ。

「もしかしたら、玉鋼で打つより魔物に対しては効果的かも知れません。エンチャント付きで使えば、刃こぼれさせずに討伐出来るかも知れませんからね」

「ああ、なるほど。……では、まずは実験と言うことで、一回打ってみましょうか?」

「ぜひ!」


そんな風に藤島さんに魔鉄で一振り打ってもらうことにして、俺は沙織と2人でうちに帰るのだった。


兄貴とシャーロットさんは、エンチャントメッキについて、どのように特許を取るべきか相談していた。

兄貴は特許事務所に丸投げしたいといい、シャーロットさんは、社内に弁理士と弁護士を複数雇うべきだといっている。

兄貴は、特許管理は外注にして、儲からなかったら切ればいいという。

シャーロットさんは、社内で出来ることは極力社内で行い、コストの圧縮と利益の囲い込みをするべきだという。

「どっちでもいいと思う。一長一短なんでしょ? どっちを選んでも」

「……そうだな」

熱い議論を戦わせていた2人は俺のそんな一言で落ち着いたようだ。

「それより、見てよほら!」

俺はライオットシールドを取り出した。

先ほどのエンチャントがまだ残ってるが、俺はかまわず<アンチマジック>を重ねがけする。

「ワオ!」

シャーロットさんが嬉しそうに声を上げる。

「いい感じだなこれ!」

兄貴も一目見て気に入ったようだった。

そこで、兄貴が表情を引き締めて

「もう一つ特許を取りたいモノが出来た」

といった。


兄貴のアイデアを実現するため、俺たちは走り回る事になる。

俺たちが奔走するのは、横田基地周辺だった。

この一帯は、戦前から個人や中小企業の加工業が盛んだった。

理由は、この一帯には空軍があり、飛行機生産業のメッカだったためである。

現在でも、国内有数の技術力を持つメーカー、家内経営ながら世界的な精度で信頼を得ている製造業者などがひしめいている。

理由は、米軍と自衛隊の基地があるためだ。


兄貴はジェットエンジンでおなじみのIHCに。俺は、横田基地の技官に紹介してもらった金属加工業者に足を運んだ。

俺が作ってもらうのは、直径20mm、長さ50mmの丸棒だった。素材は、エレクトラムのインゴットと魔石を溶かしたモノだ。

そして、兄貴が買ってきたのは、IHCが誇るジェットエンジン技術を駆使した、タービン発電機だった。

世界最小手の平サイズのタービン発電機。

分速30万回転で400Wの発電を行う実験モデルだ。


「これとエレクトラムで発電の実験をする。狙う特許は『魔法燃料』だ」

兄貴のアイデアはこうだ。

まず、魔石とエレクトラムのインゴットを鋳つぶして丸棒にして切断。燃料棒を作る。

燃料棒に魔力を充填し<フレイムインフェルノ>で火力を発生。

その火力を直接タービンに噴出させる、もしくは圧力釜で蒸気を起こしてタービンを回して発電。

使い終わった燃料棒は、魔石で魔力を再充填する。

成功すれば、ダンジョン攻略に「エネルギー問題の解決」というとてつもないメリットが生じるだろう。



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