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お金がない 6


ウチのダンジョンからインゴットが出た記事が世界中を駆け巡ると、にわかにゴールドラッシュが巻き起こった。

各国とも、政府が管理するダンジョンには軍隊が派兵され、個人が所有するダンジョンでは、所有権が問題になり始めた。


だが、一ヶ月(ひとつき)としない内に、各国で凄惨な被害が出始めたのだ。

どうにも、世界屈指の武装を誇る米軍でさえ初期に人的被害を出した、という現実が理解できないのか? もしくは人の命が安いのか。

俺にはよく分からないけど、慎重さを欠いた作戦を決行できるようなトップダウン型の国なんかでは、かなり杜撰な作戦で、多くの被害を出しているようだった。


不思議なことに、日本のメディアの一部あたりから、俺たちを公然と非難する連中なんかも現れている。

俺たちが成功をアピールするからこそ招いた惨事だのなんだのと。

俺たちは一度たりともほかの人がダンジョンに潜る事なんて推奨したことはないんだがな。


日米の当局者達は、10層を超えるには必ず魔法による攻撃が必要であり、そのためには魔法を使える戦士が必要だと理解しているから、現状は低層での訓練を優先している。

基本、欲をかけばろくな事にはならないのだ。


九月に入ると、やっとオヤジのほうのプロジェクトであるビル工事と、旧店舗上部へのマンション建設にめどが立ってきた。

外装工事が終われば、一階部分のコンビニは開店できる。

「くっそー、工事中に店舗が開けたら大もうけだったのになあ」

オヤジは残念がった。

作業員の人たちはコンビニにとっては本当にありがたいお得意様なのだ。

でもまあしょうがないじゃないか。

その店舗を作りに来てくれてるんだから。


政府諮問委で知り合った、品川に研究所を持つ家電メーカーの人が便利グッズを開発してくれた。

重力センサーや加速度センサーなどを駆使して作られている、オートマッパーだ。

「GPSが使えないんで、苦労しました」

と、研究員さんは言っていた。

市販したら売れそうに思うんだけど

「GPS信号が取れればスマホのアプリで充分実現可能ですからね……」

といっていた。

マップアプリと併用すれば、今でも充分ログが残せるんだそうだ。

ただ、ダンジョン探索をしたい人たちには、必携アイテムになりそうだな。

ちなみに、アクションカムでも有名な企業だけに、俺たちへの納品は、高性能で高耐久性のアクションカムへの組み込みで提供されている。

これはシャーロットさんの要望だった。

実は映像情報に、位置情報や時間情報のヒモ付けがされていて、シャーロットさんの部下のジョンさん達はノンリニア編集ソフトで、俺たちの四台のカメラのデータを、時系列順、そしてマップ位置情報順にいっぺんに把握できるんだそうだ。

さすがS○NY。便利すぎる。

操作は、各自手元のスマホアプリでできる。

マッピングされたデータの状態を歩きながら確認できるので、ほぼダンジョンマップが可視化されているわけだ。

階段やイベントについては、収録されたマップ上にスマホでアイコンを貼ればマーキングできる。


大阪のスポーツメーカーは、俺たちのために様々なラフプランを用意してくれた。

基本、プロテクターの下に隠れるユニフォームだが、難燃性や耐火ということを考えるとジッパーが使えず、結局、軍服に近いデザインになっていくようだ。

また、素材も難燃性にこだわると着心地や通気性が失われる。

「様々な難燃繊維から着衣にマッチした素材を選択し、更にメーカーさんと素材の新開発を行っています」

ということで、できあがりがとても楽しみだった。

デザイン的にはやはり警察や自衛隊の軍服に近い。

カラーリングで差別化をするみたいだけど、デザイン画だと紺色がすごいかっこいい。

ちなみに兄貴はライムグリーン押しだった。ねえよ。

沙織はライトピンクに目が釘付けだった……ガンダムの女性士官かよ。絶対着ねえからな。

ちなみに、プロテクターに関しては現行のデザインがほぼ枯れている。

バイク用とかでも民生ですでにあるからな。オフロードのレーサー達が着てるようなヤツ。

ただ、バイク用の場合、難燃性は全く考慮されていないのでそのままでは使えない。

SWAT用のヤツって、火炎瓶とかに備えて、素材を吟味されて居るみたいだからな。


両手の手首から肘にかけて、活動を妨げない形で盾が付いている。なにこれかっこいい。

日本人のこういうセンスはあれだな。やっぱアニメで洗練されてるんだろうか?




藤島さんが、新しい長槍を持って訪ねてきてくれた。

槍の穂に魔鉄を使い、柄にアルミ合金を使ったものだ。

俺たちは早速、藤島さんと一緒に第3層に潜ってみた。


結論から言うと、魔鉄の槍は魔法乗りが良かった。

たとえば、火属性を乗せて振り回すと、某格闘ゲーのようにブンブンと音を立てて穂先が燃える。使ったあとで藤島さんが慌てて調べていたが、それで穂先が痛んだりもろくなったりしているわけではなさそうだ。

サンダーボルトを意識して乗せると、更にあのゲームのようなビジュアルになった。

魔法を乗せた上でゴブリンを斬ると、武器としてのダメージに魔法のダメージが上乗せされている手応えがあった。

これなら、アンデッド相手にもエンチャントできれば戦えるかも知れない。


ところが意外なことに、兄貴が上手くエンチャントを使いこなせないで居る。

どうやら、穂先だけに魔法を乗せるイメージが上手いこといかないらしい。

「だったらさ、エレクトラムで柄の部分をメッキしてみたらどう?」

要するに、柄の握り部分にエンチャントしたら、穂先まで電気が流れるようなイメージでエンチャント出来ないか?

と俺はいったんだが、その辺のイメージは兄貴も藤島さんにもぴんと来たらしい。

コストは上がってしまうが、素材自体は俺たちが持ってるのを藤島さんに譲ったらいいので、実質は職人さんへの報酬だけで済むだろう。

ちなみに、俺が2人の槍にエンチャントをしてみたら、2人ともとても喜んでゴブリンを退治していた。

兄貴は元々中二病っぽい男だったけど、意外にも藤島さんもアレな人なのかも知れない。

藤島さんは、沙織達に魔法を習っている。

「エンチャントが使いたいんです」

照れくさそうに言うので、俺は藤島さんに「魔石ドーピング」をさせ、エンチャントにトライしてもらう。

今までの経験上、ゴブリンとかのドロップする魔石でも40個くらい体内に取り込むと、魔力切れを起こさず魔法の訓練が出来る。

魔力吸収を終えた藤島さんに、沙織が一つ一つ魔法を教えていく。

最初のイメージが固まると、彼もすっかり魔法を使えるようになった。

「ありがとうございます。これで作刀中に自分でテストが出来ます」

藤島さんは嬉しそうに、何度も自分でエンチャントして槍を振って、その感触を確かめていた。


エレクトラムのメッキ浴は数日で完成した。

溶液で溶かすので、魔法の親和性が失われないかが心配だったが、結果は全く問題ないようだった。もしかして、魔石を一緒に溶かし込んだり、鍛冶師なんかが炉の中に魔石を入れたら、魔法親和性が加えられたりしないんだろうか?

メッキ加工の終わった槍を持ってきた藤島さんとそんな雑談をしていたら

「案外それはあり得るかも知れませんよ?」

というので、サンプルとして藤島さんに魔石を100個ほど渡して実験してもらうことにした。

「ところで藤島さん。メッキって樹脂製品でも出来るんですか?」

兄貴がライオットシールドを藤島さんに渡して聞いた。

「出来ます。プラモデルで金色のものがあるんですが、メッキ製なんですよ?」

ライオットシールドをいろんな角度から見ながら藤島さんは答えた。

「試しましょうか?」

といってくれた藤島さんに、兄貴は嬉しそうにお願いしますといった。

「上手くしたら、魔法が使えない人でも<アンチマジック>の属性が付いた防具で身を守れるかも知れない」

兄貴は言う。

なるほどな。

もしそうした製品が作れたら、今よりはよほど死者が減るかも知れない。

それと、プロテクターも軍や警察が使うような専用品じゃなく、バイク用の量産品にメッキ加工でいけるかもな。

俺がそう言うと

「それは特許(パテント)を申請した方がいいですね」

シャーロットさんが指摘した。

ヤマギシは会社として収益性がまだ脆弱なんで、たしかに特許を取って、それが利益を生んでくれればありがたい。


ちなみに、エレクトラムでメッキした長槍をずいぶん兄貴は気に入ったようだ。

ほんの数日で+5まで成長させていたからな。



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