お金がない 4
13階層に進む。
やはりここでもドローンを使ってマップ確認だ。
ここも荒れ果てた丘陵地だが、地面の色が黒い。
砂鉄の多い地形なんだろうか?
雑魚はアイアンゴーレム。ボスは……?
「えーと、ミスリル?」
貴金属独特の輝きがある美しいボディだ。
「ミスリルって言うのは、トールキンって作家が生み出した名称だ。ロードオブザリングの原作者の」
兄貴が俺に補足する。
「ただの銀じゃなさそうだな。あれは、エレクトラムじゃないかな?」
「エレクトラムってなに?」
沙織に兄貴が答える。
「金と銀の合金だな。初期の通貨文明では割と一般的なんだ。それに、呪術的な意味合いもあるのかも知れない」
「呪術? 魔法とか?」
「まあその辺はやってみると分かるかな?」
兄貴は肩をすくめる。
とりあえず俺たちは、アイアンゴーレムをさんざん乱獲し、そして美しく輝くボスのゴーレム前に来た。
「やっぱりエレクトラムって感じの色だな。ミスリルかも分からんけど俺らは映画でしか見たことないしな」
兄貴が感想を言う。
しかし確かにきれいだ。
「じゃあ岩田さんお願いします」
俺が声をかけると、岩田さんはうなずき、M72を発射する。
うむ……安定の一撃必殺である。
「インゴット出てます……高く売れるといいなあ」
沙織が拾いに行って、インゴットを撫でている。
ほとんどM72無双で14階層に進む。
エレクトラムゴーレムが雑魚でワラワラと居る。
ボスは、どう見ても純金製だ。
「あれ、倒してそのまま持って帰れたら我が社の資金繰りは一気に解決するのになあ」
兄貴がため息をつく。
今までそんな敵は一体もいなかったんだから、あれもまあ煙と消えてインゴットになっちゃうだろうな。
雑魚を全て倒してドロップを回収。そして、相変わらず魔物のアウトレンジからM72を打ち込む。
ゴールドゴーレムも一撃だ。俺たちはここまでゴーレム達は完封しきってきた。
ゴールドゴーレムもインゴットを残した。
これも分析してもらわないとな。
15階層はゴールドが雑魚。
もちろん乱獲。
そしてボスは……クリスタル?ダイアモンドか、それともアダマンタイト?
……わかんないな。
とりあえず、岩田さんに撃ってもらって、インゴットを獲得。
今日はここまでにして、帰ることにする。
帰り道は、兄貴とシャーロットさんが、それぞれ岩田さんとドナッティさんに運転をレクチャーしてもらいながらの帰還だ。
MRAPは三台あるので、同時に二台出してのんびり帰る。
「……俺たちも運転できたらいいのにな」
みそっかすにされた沙織に言う。
「免許欲しいよね。まあ、来年になったらあたしたちも取りに行こうよ」
「自動二輪はもう取れるし、通ってもいいかもね。軍用バイクなら工面してもらえるだろうしさ」
聞けば、岩田さんもドナッティさんもいわゆる大型免許や大特、牽引などの免許まで持っているそうだ。
兄貴やシャーロットさんも取りに行きたいと考えているらしい。
ダンジョン内なら資格はいらないわけだけど、奥多摩は車がないと何かと不便だしな。
ちなみに、オートマ限定だった兄貴のほうが、シャーロットさんより苦戦している。
……壊さないでよ?
さて。攻略後は我が家で反省会だ。
とりあえず、ゴーレムのドロップであるインゴットは成分分析に回すことにして、免許の話を。
「俺と沙織は自動二輪の免許が欲しいな」
俺が切り出すと
「そうだな。俺とシャーロットさんにも、この際大型免許とかが欲しいところだ」
と、四人全員の意見がまとまる。
「せっかくだから、沖縄とかで合宿免許取ろうか?」
にんまりと兄貴が笑う。
「ドナッティさんと岩田さんも、俺たちに帯同ってことにしたら問題ないんでしょ?」
「なるほど。いいですねえ沖縄」
岩田さんは乗り気だ。ドナッティさんは意味が分からないようだが、まあ多分問題ないだろう。
「……俺も行きてえ」
オヤジがぼそっと言う。
「いや来ればいいじゃん。ていうかオヤジもこの際、大型免許とか取ったらいいよ」
「ほんとか?」
「もちろん。というわけでオヤジ、予算と宿と教習所の手配よろしくね」
謀ったな、兄貴。
翌日も11層から15層まででドロップ品集めを繰り返す。
M72の在庫が心許ないので、岩田さんにはカールグスタフも使ってもらうことにする。
ドナッティさんに依頼して、横田でM72の補給を受けさせてもらえるように手配してもらう。
その間に、11-15層の映像をシャーロットさんの部下達がまとめてくれているので、ついでに横田基地でドロップ品のサンプルと共に納品することになる。
横田基地では、岩田さんも武器や弾薬の補給を受ける。
米軍基地のイメージがある横田だが、ここには自衛隊の航空基地もある。
陸自所属の岩田さんだが、特例的に補給などはここで受けることが出来るよう、便宜を図ってもらえている。
陸自にも、カールグスタフの評価や映像資料と引き替えに、高価なこの武器の無償提供をお願いしている。
正直、例えばM72なども一本で1000ドルを超えたりしてるので、ドロップするインゴットにそれなりの値打ちがつかないと、討伐すればするほど赤字になってしまう。
今は無料で供給してもらっているけど、いつまでそうした厚意が受けられるか分からないしな。
総理の諮問委員達へのインゴットのサンプル供給は、ウチまで取りに来てもらっている。
そっちはオヤジに任せてあるんで、分析が終わったら報告に来てもらえるだろう。
あとは藤島さんにアイアンゴーレムのインゴットを提供に行かなくては。
もし魔法金属だったりしたら、このインゴットで作った槍にはエンチャントとかが存在するかも知れない。
日本刀も打って欲しいんだが、現状では銃刀法の問題があるんだよな。
指定された玉鋼以外の素材を使うのは「美術工芸品」のカテゴリから外れる恐れがあるらしい。
諮問委員のほうで、冒険者に関わる銃刀法について、新法か法改正か、何らかの方法で規制を緩和してもらえたらいいんだけど。
横田の帰りに、藤島さんの庵を訪ね、インゴットを10本ほど渡しておく。
彼もダンジョンに潜ったためか、この鉄が魔法と親和性があることに気がついたみたいだった。
「とりあえず、槍を打っていただけたらと思うんですが」
「分かりました。柄はどうします?」
「うーん、このインゴットで打つのってなんかメリットあります?」
「……どうでしょうねえ? でもすごく重いと思いますよ」
「じゃあ、前回と同じでアルミでお願いします」
出来たらまた私も連れてってくださいよ、などと藤島さんに頼まれる。
自分で打った得物をテストできるのはやっぱり意味があるんだろうな……。
16層は鉱山マップらしい。
エリアに入ると、どでーんと岩山がそびえ立っていた。
そして山の腹に坑道の穴が開いている。
ドローンでエリアを確認したが、この坑道以外にめぼしい建造物や敵は見つからなかった。
「やっぱここに入れって意味だよな?」
11層から15層までMRAPに乗って、討伐はM72で一撃、という楽を覚えた兄貴は、そう言ってぐずるのだった。
「ガスマスクと酸素ボンベが欲しいです」
ドナッティさんが言う。
「安全性を確認するまで、念のため警戒するべきでしょう」
「なるほど。じゃあいっぺん引き返しましょうか」
兄貴の言葉に一同うなずく。
とりあえず、ドナッティさんと岩田さんのプロたちのアドバイスを元に、必要な装備をリストアップしてもらい、俺たちは米軍に、岩田さんは自衛隊に補給を求める。
整うまでの数日を、俺たちはオフに充てた。
女性陣は立川に水着を買いに出たらしい。俺と兄貴は意識低い系男子だから、ユニクロやしまむらで十分だ。
岩田さんはこの時間を自衛隊での報告に充てているらしい。日本人は勤勉だよな……。
総理の諮問委員のメーカーが数社、俺と兄貴にアポ取ってきた。
どうやら、冒険者用のウェアやプロテクターの開発に入るらしい。
俺たちとしては、米軍から強要されてる服で問題はないんだが、この服、この格好のまま外出すると非常に目立つ。
まあ元々軍服だってのもあるんだけど、どうにもコスプレっぽい感じで、ご近所でもあんまし評判はよろしくない。俺たちに似合ってないってのもあるんだけどね。
だから民間企業で開発してもらえるのはありがたいし、もっとありがたいのは、俺たちがアドバイザーって事で、無料で提供してもらえることだな。
俺たちのシグネチャモデルとか出してもらって、ロイヤリティとかもらえたら、もっとありがたいんだがなあ。
報告に行ってた岩田さんが、自衛隊の偉い人を連れて帰ってきた。
統合幕僚部の人と、防衛大学の教官と、防衛政策局の人だそうだ。
「実は、山岸さんにお願いがあるのです」
それは、自衛隊の迷宮探査への同行と指導だと言うことだった。
自衛隊は現在、忍野村に出現した迷宮で、迷宮探索の訓練を行っているらしい。
先の米軍の失敗を踏まえ、かなり慎重に、かつ大規模な人員を投入して探索を進めているんだそうだ。
具体的には、各フロアのスタート地点には常に予備戦力を置いて交代制を敷く。
攻略済みのフロアも一日一回程度は巡回して敵のリポップを討伐する。
そして、補給を潤沢に行い、銃弾などを絶やさぬようにしているんだそうだ。
だが、問題もある。
「銃弾のコストが高いのです」
魔法や槍などの武器で戦っている限り、うちらもそれほどコストはかからない。
だが、MRAPやM72に頼った戦い方をすると、もし自腹だったら俺たちもとたんに貧窮するだろう。ましてや、自衛隊は米軍と違って、予算に非常に厳しい監視がついている。
そこで、自衛隊でも槍などの武装を導入したり、岩田さんのような人材を早期に育成する必要があるらしい。
まあそんなこんなもあって、現在の忍野ダンジョンの攻略を手伝って欲しい、ということらしい。
「お金がない、というのは実はウチでも問題になってるんですよ」
兄貴が困ったような顔をして返答する。
「すいませんが、最低でも一人あたり一日200万円の報酬がいただきたいです。こいつの<収納>を利用する場合は更に上乗せで」
日給200万か。ふっかけたなあ。
偉い人たちは「検討します」といって帰って行ったが、結局、俺たちは忍野ダンジョンの手伝いに行くことになる。




