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お金がない 3

翌日以降、再び第一層に戻った俺たちは、岩田さんとドナッティさんを先頭に、中衛を俺と沙織、後衛を兄貴とシャーロットさん、という編成で攻略を開始した。

接敵していない状況で敵の気配を読むことについて、俺の次に出来るようになりつつあるのが沙織だった。

だからこのフォーメーションは、沙織の訓練も兼ねていたりする。


ちなみに、岩田さんは89式自動小銃、ドナッティさんはM-4を装備している。

「前方から敵3体」

沙織に指示を受け二人はスタンバイ。

自前の<ライトボール>で敵が浮かび上がると同時にだいたい狙撃を成功させている。

びっくりしたのは、この二つの銃、弾倉が同一だったということだ。

ネットでいろいろ調べてるらしい兄貴と違い、俺には全く兵器の知識がない。

だから、目の前で使用されているどんな兵器も珍しくて仕方がない。


第六層あたりまで来ると、いよいよ二人の攻撃は魔法主体になる。

このあたりまで来るとやっと二人とも<フレイムインフェルノ>を感覚的に理解し、使いこなせるようになってきていた。

もうじき二人と潜るようになって一週間。

魔力も安定してきたのか、二人とも魔力切れを起こすどころか、さすがに日米両国で選抜されてきただけのことがある安定さを見せてきていた。


毎晩、その日の反省点や翌日のモンスターの注意点などを説明し、彼らは近所の旅館に戻る。

ちなみにこの旅館、CCN退職組も定宿にしている。

ウチがもう少し大きければ泊まってもらえるんだが、まあない袖は振れないのだ。


新ビルと旧店舗上への増築の工事は同時に開始された。

依頼した建設会社だけでなく新たに二社のジョイントベンチャーとなって、工期も若干短縮されるらしい。

その分経費はかさむことになったけど、代わりに政府の資金援助や保証を受けられるようになったとのことで、ここ数日、胃潰瘍でも出来たようなオヤジの顔色は、やっと赤みを回復してきたのだった。


数日かけて、10層までをこのフォーメーションでクリアできるようになった頃、やっと米軍からロケットランチャーの供与が受けられるようになった。


武器の効果測定は、実戦ほど分かりやすいものはない。

ちなみに、岩田さんに対してもカールグスタフや89式で使用できる対戦車武装が自衛隊から供与された。


宿舎となるワンルームマンションが完成するまでは、彼らも俺たちのパーティとして、11層以下のチャレンジに同行してもらうことになっている。


11層を把握するため、まず俺たちは偵察用ドローンでエリア全体を上空から撮影した。

やはりこのエリアは見たとおりのフィールドダンジョンで、外周を見えない壁で制限されている以外は、自然の地形以外に進路を阻むものはないようだ。

ちょうど11層入り口の向かいに、一体だけカラーの違うゴーレムがいる。

おそらくあれがフィールドボスなんだろう。

その先には扉が確認できない。

ヤツを倒せば出現するのかも知れない。


「このフィールドは、ジープとか欲しいなあ」

兄貴が言った。

確かに、移動力が確保できればありがたいな。

「<収納>で持ってきてみる?」

「それもありかもな」

「えっ? 恭二君って、車まで収納できるの?」

岩田さんが目を丸くする。

「ええ、出来るようになりました」

自動車窃盗団でも始めたら儲かりそうだな。

まあそこまで落ちぶれてもいないけど、我が家も。


とりあえず撮影が終わると、俺たちはゴーレムを強襲してみることにした。

無論、ミサイルランチャーを使うのは、本職のお二人だ。

まずはドナッティさんが射手、岩田さんがサポートで、100m以上の距離から一体に発射する。

「ワーオ」

ドナッティさんが嬉しそうに叫ぶ。

ロケット弾は見事にゴーレムに当たって、ボディを四散させた。

次は岩田さん。カールグスタフを準備して、近づいてきた一体に発射。

こちらも一撃で始末することに成功した。


ドロップ品を両方拾う。

10層までより遙かに大きな石が残されていた。それとレンガ的なもの。


M72とカールグスタフの有効性が証明されたので、とりあえず俺たちはいっぺん戻ることにした。この成果を日米両方に報告し、可能なら武器や装備の追加を依頼したいのだった。




「MRAP? ですか?」

ドナッティさんが言った候補車両を聞いて兄貴が聞き返す。

「耐地雷・伏撃防護車両です。いわゆる地雷や路肩爆弾から乗員を守る設計が為されています」

イラクやアフガンで輸送任務に就いているような車両だという。

「魔法攻撃を防ぐ装甲と言えば、MRAPが良いでしょう」

あるいは戦車ですね、とドナッティさんは言った。

戦車は乗車定員があるし、そもそも俺たちじゃ扱えないよドナッティさん。

彼女はイタリア系移民の末裔で、文武に秀でたチャーミングな女性士官だけど、突然こうやって脳筋的な発言をして、4つ年上の岩田さんさえビビらせることがある。

とはいえ、俺たちの依頼に合わせてドナッティさんから必要性を説いた報告書をあげてもらえると、米軍からの供与がスムースに行くので、ありがたい。


大佐に相談したところ「MRAPを運ぶより、ミスターキョウジを運ぶ方が早い」

と言われて、俺とドナッティさんがカリフォルニアに飛ぶことになった。


というわけで、やってきましたアメリカの陸軍武器倉庫シエラ・デポ。

俺たちのお目当てのMRAPはここにあるらしい。

ドナッティさんによると、こうした倉庫基地では、緊急時に即時対応が出来るよう、動態保存された軍事車両が保管されているらしい。

場所は、ほぼ限りなくネバダ州に近いカリフォルニア。

チャーター機でいきなり連れてきてもらえたので、機内で仮眠が出来たのはありがたかった。


俺が入ると、相変わらず敬礼で迎えられる。

しょうがないので覚えた返礼をして、早速、車両の引き渡しをしてもらう。

「こちらが今回供与されるMRAPです」

担当者に連れられて、鎮座するMRAPとご対面だ。

「クーガー4x4MRAPです。3台用意してあります」

ドナッティさんが通訳してくれる。

「……?」

「……」

担当者とドナッティさんが英語でやりとりする。

「M2も10台ほど提供してもらえるようです。弾薬は横田で補給できます」

「M2?」

「キョージさんは見たことないですか?重機関砲です」

「あー、ランボーに出てきたりした?」

「ええ、最終作(ファイナル)に出ています」

車の上に据え付けて撃つヤツだな。確かに見たことはある。

「あのフィールドダンジョンであれば、出番はあるかも知れません。私たちに整備できなくても、予備があれば大丈夫でしょう」

なるほど、そういう考え方もあるのか。

「M978に満載したディーゼル燃料も提供してもらえるそうです。2500ガロンですから安心です」

「えっと、2500ガロンって?」

日本人にはいまいちガロンで言われてもぴんと来ないんだよな。

「9500リッターほどです」

……はは。そりゃー十分だな。


俺は早速、用意されているMRAP3台、タンクローリーみたいな車を一台、そして、木箱に入った武器一式を<収納>する。

ちなみに、M72もこの基地で大量に――500ユニットも渡してもらえた。

もっともM72はいわゆる使い捨て……使い切りタイプの武器なので、ゴーレムの階層次第とはいえ、もしかしたら足りなくなる可能性はある。

カールグスタフなんかは弾薬換装で何度でも使えるんだけど、メンテの出来ない素人の俺たちじゃ、安全性にも問題があるんだよな。


さて、大量の資材を受け取った俺たちは、これで日本にとんぼ返りだ。次の攻略が楽しみだな。



帰国後一日休みをもらって、次の日からまた11階層チャレンジだ。

今回は早速MRAPを出し、運転をドナッティさん。上部機銃座に岩田さん。ナビに兄貴。俺とシャーロットさんは後部座席に座って活動開始だ。


MRAPは荒れ地の走破性はそれほど高くないらしい。とは言っても国産のSUVなんかと比べれば高性能といえる。

ドナッティさんは慎重に地形を読みながら、まっすぐ11層のボスらしきゴーレムにむかってMRAPを走らせる。

途中、避けられなさそうなゴーレムとエンカウントすると、岩田さんがM72を発砲、無難に片付けていく。


使い終わったM72は、俺が預かり収納し、あとで返却する予定だ。


フロアボスの手前100mほどで車を止める。そのまま岩田さんにM72で撃ってもらうと、難なくボスを吹っ飛ばすことが出来た。

ボスの居たエリアまでMRAPで向かい、収納する。

ドロップは石と、何か石材のようなブロックだった。

やはり、このフロアでうろつくのはクレイゴーレムで、ボスはストーンゴーレムだったのかな?


ボスを倒すと、今まで見えなかった扉が出現している。

俺たちは早速扉をくぐり、下層に向かう階段を下りた。


12層もフィールドだった。

ここも前マップ同様、荒涼とした植物のまばらな丘陵地だ。

早速、マップをドローンで偵察する。


ドローンはドナッティさんが操縦し、兄貴がモニター映像を眺める。

「うーん、やっぱ、一個前のストーンゴーレムが雑魚で出てるね」

「ボスは? うーん、アイアンゴーレム、かなあ?」

沙織も映像を見ながら言う。見た目では判断しにくいものの、金属製なのは間違いないだろうな。

「ストーンゴーレムもM72で問題ないでしょう。あいつに通用するかどうかですね」

俺が言うと全員うなずいた。じゃあ行きますか。


ロケットランチャーの利点は、遠距離攻撃が可能なところだ。

近いほど命中精度が良くなるので200mほどまでは近づきたいところだ。

「あ……」

岩田さんの放ったM72は、一発でアイアンゴーレムも沈めた。


ドロップは、インゴットのような鉄だった。

「あれ? これ魔力に反応してる?」

ドロップしたインゴットを拾い上げると、俺の手から魔力を吸うような感覚があった。

「どういうものなんだろうね?」

沙織が興味深そうにインゴットを撫でる。

「あ、ほんとだ。なんか魔力を吸収してるみたい」

「これで武器作ったら、対魔兵器になるのかな?」

「いくつか取って、分析や藤島さんに提供したいね」

兄貴が沙織に答える。

そうだな。もし、刃こぼれが減るなら日本刀も有用な武器にはなるし、何より、もしかしたら資源としてお金を生んでくれるかも知れない。

俺たちは現状、とにかくお金がない。

フィールド内でキャンピングカーとかを使って野宿してみたりといった実験がしたかったのだが、6人のベッドが確保できるような大型バスタイプのキャンピングカーは、恐ろしく高額で、1500万円を超えていた。

2トントラックを改造したものも、3人乗ると窮屈だし、一台2人として3台買えば、結局似たような金額になる。

だったらそもそも、大型のものを一台買った方がいいだろうと言うことになる。

だけど、今のところ資金難だからな。


    ◇◆◇


いつも拙著をお読みいただきありがとうございます。

式村比呂です。

ご感想やご意見を数多く頂戴し、大変ありがたく読ませていただいております。

逐次のお礼を略させていただき、心苦しい限りです。

どうしても作者としては、作中で語られていない背景などを話したくなってしまうものですが、それは物書きとしてやってはいけない。つまり、作品のみで世界を完結させねばいけないと自戒しているところです。

活動報告のほうで、折に触れてお礼を申し上げる機会をいただいておりますので、もしお時間がありましたら、お読みいただけると幸いです。

今後も本作をどうぞよろしくお願いいたします。

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