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お金がない 1

「というわけで、第一回、ヤマギシ役員会を開催します」

「わーぱちぱち」

オヤジの軽いノリに合わせる沙織。

シャーロットさんと兄貴は苦笑。

「まず、旧店舗の修復・改修は完了。新店舗の用地は隣接区画の移転について政府がやってくれたんで円満解決。

あとは建物の撤去とか整地とかだ。一応地上五階地下二階のビルにして、一階を店舗、二階から上をオフィス、最上階をウチにする予定だ」

「地下は?」

「倉庫と駐車場だな。地上の駐車場はコンビニの客用だからな」

「なるほど」

「コンビニのほうは、休業補償してるみんながまた来てくれるし、新しいアルバイトを募集して、何とかしたいな。真一と恭二と沙織ちゃんが抜けるんでな」

「うん」

「総工費は三億だ」

「……ちょっと奥多摩じゃ聞かない金額だな」

兄貴が苦笑した。

「その辺はまあ、ありがたくも義援金で賄えるからな。あと、オフィスの2-3階部分は賃貸に出す……これも奥多摩じゃ聞かない話だけどな。アメリカと日本の政府系の組織が入るらしい。四階は全フロアウチの会社で使う。シャーロットさんの部署のために超高速回線を引いてある」

らしいっていい加減な。

まあ、どちらもおそらく迷宮関係でウチに関係する人たちが入るのだろう。

そうでなければ交通の便が悪いこんな場所にほいほい法人なんて入ってくれるわけがない。

「一階のコンビニの隣にはラーメン屋さんが入ってくれる」

まあそれはありがたい話だ。美味しいといいな。

「さて、以上が不動産と設備投資あたりの話なんだが、次に大事な話がある」

オヤジは表情を引き締めていった。

「お前らの冒険者部門だ。スタートからずっと赤字なんだが、これは黒字になりそうなのか?」


「現状だと厳しい。例えばドロップ品にレアメタルが出たり貴金属が出たりしてくれれば、一気に全世界で冒険者が増えるだろう。そうしたら俺たちは最先行の冒険者だし、ここはウチの個人所有だからそれなりに潤うだろう。あと、冒険者に必要な装備なんかをライセンス販売したりな。ある程度人材を確保して、戦い方や魔法なんかを教えたりも出来る。だけど、現状だと……」

「まあそんなところだな」

兄貴の分析にオヤジもうなずく。

「そういえば自衛隊も今後、迷宮捜索に入るんだっけ?」

俺は数日前のネットニュースでそんなこと書いてあったのを思い出した。

「ああ、ウチにも同行依頼来てたけど、さすがに俺たちも先に進みたいもんな」

「米軍は?」

「今回のデータを分析して、もう一回仕切り直すようです。部隊編成や使用兵器などからフルスクラッチで仕切り直すとか」

シャーロットさんのニュースソースはCCNだろう。確度の高い信頼できる情報だ。

「そういえば、その自衛隊と米軍から、人材育成の依頼が来ているんだ」

オヤジが思い出したように言う。

「可能なら魔法が使えるように育成して欲しいらしい」

「……また三層あたりでしばらく時間取られそうだな」

兄貴がぐずる。

「沙織を先生にして見たら? 残りの三人でちょっと十一層以下に潜ってみるとか」

「えー、置いてけぼりはやだよ。実力に差がつきそうだしさ」

「じゃあ兄貴が」

「俺だってどっちが良いかって言われたら先に進みたいぜ?」

「俺は<収納>あるから行かないとまずいし、シャーロットさんの録画が今んとこ、俺らの唯一の収入源だもんな」

「例えば、教えるのを三日に一回とかにして、あとは自主訓練してもらうとか?」

沙織がアイデアを出す。

「だよなあ。まあその辺どっちも組織だし、学生じゃないんだから自主的にやって欲しいよな」

兄貴が言う。

「まあお前らの気持ちも分かるが、しっかり儲けが出ないと今後厳しくなるからな。どっちもオッケーだしとくからよろしく頼む」

オヤジが締めた。


さて、いろいろあって延び延びになっていた第十一階層へのアタック開始だ。

俺たちは例の隠し部屋から十階まで直通で行き、階段を下りて扉を開ける……。

「なんだこれ?」

呆然とした。

「ここ、地下よね?」

沙織がつぶやく。

第十一階層。そこはまるで露天掘りの鉱山のような『フィールドダンジョン』だった。


扉は荒野にぽつんと立っている。

そして、扉の両側。出来の悪いRPGゲームのように、見えない壁が行く手を遮っている。

「あくまで、見た目が地上みたいだって言うだけで、ダンジョンだって事なんだろうな」

「なるほどな」

俺の言葉に兄貴もうなずく。

「ところで、このエリアの敵って、あれだよな?」

兄貴が指さしたもの……それはどうみても身長3-4メートルはあるゴーレムだった。

「勝てる武器がないな……いっぺん引き返そう」

全員賛成。あんなのに槍で勝てる気がしない。

一応デジカメで撮影を済ませ、俺たちはせっかくやってきた十一階層をあとにする。


ひとまず、困ったときの米軍頼みといこう。

俺たちは横田基地のニールズ大佐を訪ねた。

「大佐、敬礼はやめてください」

「規則だからだそうです」

俺の言葉をシャーロットさんが訳してくれるが、大佐と、その後ろにいる中佐、大尉の三人は敬礼をやめない。仕方ないので俺たちも返礼をする。

実は、俺たちのもらった勲章は大したもので、身分に関係なくあの勲章をもらったものは、先に敬礼をされなければいけないという決まりがあるらしい。

そして、軍人というものは、そうした規則を一から守るよう教え込まれているらしい。


とりあえず、俺たちは訪問の目的であるゴーレムのエリアのビデオをタブレットで見ていただく。

大佐は、映像を見てしばし腕を組み

「これは、ダンジョンですか?」

と感想を言った。

「ええ、このダンジョン作った相手がいるとしたらとてもふざけてると思いますが、これは十一層です」

兄貴は映像を早送りして、米粒のように動いているものを指してポーズさせた。

そして、プリントアウトした写真を大佐に見せる。

「おそらくこれがこのフロアの敵です。ゴーレムですね。身長は多分3-4メートルはあります」

ビデオ再生を止め、兄貴は切り出した。

「RPGのようなロケットランチャーが欲しいです。それと、エリア全体をチェックできるようなドローン型の偵察機ですね」

「ドローンはすぐにでも可能ですがRPGはお渡しすることが出来ません」

大佐が厳しい顔で言ってから、にやっと笑う。

「ロシア製ですから」


「外国市場で実に安価に購入できるRPGですが、おすすめは出来ません」

大佐が言う。

「まずそもそも安全性に疑問があります。暴発事故例があります。それに、メンテナンスのノウハウがないと危険です」

その言葉を聞いて兄貴も納得する。暴発はやだな。

「統合参謀本部の政治判断は必要ですが、ダンジョン内の特定の敵駆逐のために必要な兵器の運用試験、ということであれば、米軍にある複数種類のロケットランチャーを供与、あるいは無償提供できると思います。私はM-72で十分ではないかと思いますが」

「M-72?」

「LAW――ライト・アンチタンク・ウェポン、使い捨てのロケットランチャーです」

俺もハリウッド映画かなんかで見たことはある。肩に担いで撃つヤツだな。


とりあえずロケットランチャーについては大佐達に一任して、次に、魔法実習について打ち合わせる。

「俺たちはただ魔法について講義するだけで、訓練や滞在期間の管理なんかは自前でやっていただけるならお受けします。あと、通訳や俺たちとの窓口になれる常駐の担当者とかを置いていただけるとありがたいです」

兄貴は言った。

要するに、俺たちの迷宮探索の時間を奪われないように、って話だな。

「それと、同様の依頼が自衛隊からも来てます。別々に開催すると俺たちの負担が大きいので、合同でやっていただけるとありがたいです」

「なるほど、分かりました。LAWの件と合わせて上に提案しておきます」

「例えば、現時点で魔法の才能が分かってる人を先に派遣してもらって、その人が先生になれるように、俺たちと一緒に一ヶ月(ひとつき)くらい探索したらどうでしょう?」

俺が提案してみる。

「その人が、各地で先生役になる人たちを俺たちに変わって育成すればどうかって思うんですが」

「要するに、教員を育成するわけですね?」

大佐が言う。

「です。先生を育てる先生ですね」

「分かりました。検討します。ところで、奥多摩にはある一定の期間、そうですね――四十人ほどの生徒が三ヶ月ほど宿泊できる施設はありますか?」

「……観光地なんで旅館はありますが、軍人さんの宿舎に提供してもらえるかどうかは分かりません。あの、例えばですが、いま補強工事してるダンジョンの入り口の建屋の上にワンルームの個室とか作ったら、便利でしょうか?」

兄貴が言い出す。

「それはありがたいですな。軍が基地の外で毎日集団で移動すると、いろいろ障りがありますから」

「でも、さすがに設計から建築まである程度時間がかかるでしょうから、その間は通ってもらう必要があるでしょうね」

そんなわけで、またオヤジの仕事がひとつ増えた。


帰宅後。

兄貴は自衛隊――というか防衛省の担当者にも同じ話をする。

魔法学校は日米合同の訓練とし、定員は四十名。日米で二十人ずつ位にして、旧コンビニ跡の施設の上に宿舎を建てる。

その建設が終わるまでは、現時点でもっとも魔法の素質がありそうな自衛官を一人、俺たちのパーティで鍛え、その人を教官にする。

といった内容で、あとは防衛省内で検討してもらうことにした。


ちなみに、ロケットランチャーについても米軍に依頼したことを話す。

「そうですね……やはり自衛隊の装備を民間に提供する、というのは世論的に難しいでしょう」

兄貴はそんな風に言われたそうだ。

まあウチとしては、アメリカでも日本でも、どちらでも提供さえしてもらえたら、それでいいんだが。




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