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日常の終わりと専業冒険者 7

翌日曜日は、俺たちにとっては九層目へのチャレンジデーである。

あのグールをいかに安全・効率的に始末するか。そして、あいつが雑魚になって沸きだしたときに対処しきれるかどうかが試されるわけだ。

前日同様、八階層のボスまで電車道で突き進む。

八階層での<フレイムインフェルノ>はシャーロットさんに担当してもらう。


「……うまくいきました」

シャーロットさんは安堵の顔を浮かべる。

八層ボス戦、インフェルノで一撃である。


第九層に降りると俺たちはフォーメーションを変える。

前方担当を兄貴、左が俺で右が沙織。後方警戒にシャーロットさん。

雑魚敵で沸くようになるだろうグールに各自が対応できるように、訓練が必要だ。

相変わらず四つ角で三方向からエンカウントする。

ここも、全員出し惜しみなしの<フレイムインフェルノ>使用。

討ち漏らしなしで先に進む。


ボス部屋の敵は、大鬼4、グール2、そして……。

「またなの?」

沙織がげんなりとした声を上げた。

グール以降の流れは明らかにホラー系のようだ。

「スケルトン……か」


西洋風のヘルメット、サーベル風の幅広刀に円形の盾を持ったスケルトンが偉そうに立っている。ゲームによってはスケルトンは雑魚敵なんだが、まあとにかく油断大敵である。

「俺が先頭で行くから討ち漏らしあったら兄貴頼む」

「わかった」

「沙織とシャーロットさんは基本、しっかりと盾で防御しつつ、いつでも魔法打てるようによろしくね」

「はい」

沙織もうなずく。こいつは昔っからホラー系ダメなんだよな。

俺は、行くぞ、と声をかけつつボス部屋に飛び込む。

「<フレイムインフェルノ>!」

距離を測りつつ駆け込んだ俺に対応しようと敵が動き出したところで、地獄の業火をお見舞いする。

グールまでは即蒸発。だが、めらめらと燃えながらもスケルトンは一撃をしのいでいる。

「<ファイアボール>」

兄貴の飛ばしたファイアボールでばらばらに骨を吹き飛ばし、スケルトンは消滅した。

スケルトンのドロップはあのサーベルだった。


「さあ、行くぞ沙織」

「ゾンビとか出たらやだなあ……」

「お前そういうこと言ってると、出るぞ? フラグなんだから」

渋る沙織の背中を押して、俺たちは第十層に到達した。


「敵はやっぱ、グール4にスケルトン2だ」

目視後即<フレイムインフェルノ>で焼いて俺は報告した。

今までだったら多分かなり苦戦しただろう。

この辺ではまだいいが、もし下層に行って魔法耐性が高い奴らが出てきたら、改めて作戦を練り直す必要があるな。

俺たちはまだ毒を食らったことがないが、解毒は<アンチドーテ>でいいんだろうか。

そのときにならないと分からない、というのは辛いところだな。解毒ポーションとかが欲しいところだ。


そういえば十層は今までとダンジョンの趣が違う。

茶色い土や岩の壁だった1-9層と違い、明らかに人工物を主張する長方形に切りそろえられた石の壁だ。

まさしく見た目はウィズだな。

*いしのなかにいる*

とかをつい思い出してしまう。


俺たちは基本、マッピング的な捜索をせずまっすぐボス部屋を目指している。

それでも敵パーティとは8回ほど遭遇する。

ちなみに、このフロア、不愉快なことに扉がある。

ぼろぼろの木製の造りがとても雑な扉だった。


ボス部屋までにある扉は三個だけだったが、先が分からないのは腹が立つ。

さあボス部屋だ。


「……ありゃー」

「サイアク」

「……レイス、ですかね?」

シャーロットさんがいう。レイスだろうなあ。あんなのをハリポタで見た気がする。

「得物は杖だな。って事はあいつも魔法使ってくるだろうな。アンチマジック必須だ」

兄貴はそう言うと、早速自分にかけている。

俺たちもそれに習い、アンチマジックをかけ直す。さて。

「グール4スケルトン2にレイス。どう行く?」

「兄貴と俺で同時に<フレイムインフェルノ>。レイスって多分物理無効だよね。ヒールとか効くのかな?」

アンデッドに回復魔法というのは比較的昔からあるネタだった。

「わからん。まあもしフレイムインフェルノが効いてないようならやってみろ」

「例えばサンダーボルトが聖属性で死霊に効くとかはないでしょうか?」

シャーロットさんがいう。それもやってみなきゃ分からないな……。

「まあとにかくやってみよう、話はそれからだ」


兄貴の「行くぞ」のかけ声で俺たちはボス部屋に乱入。

即座に兄貴と二人で<フレイムインフェルノ>重ねがけだ。

凄まじい火柱が天井まで上がるが、案の定というか、レイスは生き残り、ふらり、と、一度薄くなった霧のような影のような身体をまた濃くして、こちらを窺っている。

と思いきやいきなり杖を掲げる。


「ボオオオオオオォォ」

壊れかけて止まりそうなテープの音のような薄気味悪い声が響いたかと思うと、俺たち全員を完全に包み込むように、赤黒い炎が足下から立ち上った。

「くっ、魔法攻撃」

俺はとっさに全員の様子を見る。よし、レジストできている!

「<ヒール>!」

俺はレイスにヒールを試す。

「ゴッ!」

レイスはかなり嫌そうに身体をよじっているように見える。いけるか?

「<キュア>!」

レイスの身体の中心あたりから、激しい、白い光がわき上がった。

よし。

明らかにレイスにとって、回復魔法は鬼門のようだ。ならば、もう一つのプランも試すべきだろう。

「沙織、サンダーボルト!」

「うん! <サンダーボルト>!」

のたうっていたレイスの頭上から、毎度自重しない沙織のサンダーボルトが降り注いだ。

落雷の光が消えると、紫色の粒子がふわっと上がり、ころん、と、杖が床に落ちた。


俺たちはドロップ品を集めた。

杖の下に青緑色に錆びた鍵がある。

「鍵だ……こういうドロップはじめてだよね」

「その鍵で開く扉とかあるのかなあ?」

沙織がボス部屋を探し始める。

「あった」

普段は下層に下る通路があるところに扉がある。

その扉を開けると、更に正面と右手に扉があった。

正面の扉を開けると、下層への階段がある。

そして、右手の扉にはロックがかかっていた。

鍵穴に今拾った鍵を差し込んで回してみる。

ガチャっと解錠音が響く。

「開けていい?」

「いいぞ」

全員がうなずいてくれたので、扉を開ける。

そこには、ボス部屋の四分の一程度の小部屋があった。


中には薄く光る水晶球が置かれた台と……

「宝箱。か」


正直、開けたくない気分はある。

ウィズってゲームは、敵と戦って死ぬより遙かに多く、宝箱によって死ぬゲームだった。

つまり、罠があるのだ。

だが、今の俺たちには、罠を判別するような能力は無い。

もっとも。


「やっぱそうなるよな」

この小部屋の片隅で、ライオットシールドに身を隠してうずくまる三人と、宝箱の前の俺である。

「まあお前なら死なないだろ……多分」

「あきらめるって手は?」

「ないな」

はあ、とため息ひとつついて、俺は宝箱を開けるためにしゃがみ込む。

蓋をそっと浮かす。

うん、まあ罠はなさそうだ。

ほいっとそのまま蓋を開ける。

むろん、盾に半身を隠しながらだ。


中には羊皮紙が二枚と、今まで見たことのないようなデザインの金貨が五枚あった。


金貨は一枚ずつ分配して余りを俺がストック。

羊皮紙は全員で眺めてみたが、見も知らない文字で書かれている。

正直どっちが上でどう読むのかさえ分からない。


とりあえず羊皮紙も収納しておく。


「あとはこの水晶玉だよな」

兄貴がぽん、と水晶玉に手の平を置く。

「あ、やば……」

その瞬間、水晶が真っ白に発光した。

直後に、足下に魔法陣が浮かび上がった。

そして、青白い光が下からわき上がって……。消えた。


「なんだ? 罠の不発か?」

「あれ? 宝箱がなくなった?」

兄貴と沙織が部屋をきょろきょろ窺う。

「壁の色が違いませんか?」

シャーロットさんがめざとく違いに気づく。

「まあ、出てみるしかないでしょ」

部屋の扉を開く。そこは見覚えのある場所だった。

何層かは分からないが、階段の手前に出ていた。

「これって、隠し部屋かな?」

だとすれば、十層から一層へ戻るテレポート的な隠し部屋の可能性がある。


「とりあえず引き返してみましょう」

シャーロットさんの言葉にうなずき、俺たちはボス部屋に戻り、引き返していく。

「一層だな」

兄貴が言う。確かに見覚えのある風景だった。


もう一度、引き返し、隠し部屋のあった場所の壁を手探りで探す。すると、すっと手が岩の中に入り込み、ドアノブの冷たい感触が手の平に伝わった。


もう一度隠し部屋に入ってテレポートすれば、またあの隠し部屋にいけるのだろうか?

まあそれは次回に検証しよう。今日はこれで探索を終わりにしたかった。



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