戻る笑顔と、飛ぶ彗星
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大変、大変お待たせ致しました。本当にお久し振りの更新です。
どんな内容か忘れてしまった……という片は是非読み直してみて下さい。
男子寮総力戦からの続きです!
それでは、お楽しみ下さい!
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薄れて来た黒い瘴気の中、四人の攻撃によって大蛇は次第に追い込まれてゆく。堅い鱗に阻まれてダメージは通らないものの、翻弄され攪乱され、その巨体は知らず知らずの内に神殿の隅へと誘導されてゆく。
「──おらァ!」
気合いを込め、カラハが巨大な斬撃を大蛇の頭部へと浴びせ掛けた。傷は負わなくとも痛みはあるのだろう、大蛇は大きな瞳を庇うように首を竦めて斬撃を受け流す。同時に飛んだライジンと鳩座の攻撃から身を守るが如く、振り上げられていた大蛇の尻尾がうねり縮こまった。
「──今だッッ!!」
大蛇の長く巨大な身体が神殿の隅に小さく纏まった瞬間、カラハが声を挙げる。それを合図に待ち構えていたナユタが何枚も符を放ち、台詞と同時に大きく柏手を打った。
「『熱鎖縛炎<ネッサバクエン>・鳥籠』!」
──パァン、と神殿に音が響くと共に術式が起動され、符が一斉に燃え上がる。大蛇を取り囲んだ蒼白い炎が幾筋も迸り、先端の丸まった円筒形に形を成してゆく。
気付いたらしき大蛇が身をくねらせ逃れようとするものの、時既に遅し。その巨体はすっぽりと炎の鳥籠に収まり、幾ら足掻こうとも逃走はおろか、体勢を変える事すらままならない。それでも大蛇が藻掻く度に炎の鎖はギシギシとたわみ、ナユタの術をもってしてもそう長くは束縛出来ないであろう事を予見させた。
「やっちゃって、カラハっち!」
「行け、マシバ・カラハ!」
「おうよッ!!」
ライジンと鳩座が飛び退くのと入れ替わり、前に出たカラハの全身から濃銀の燐光が噴き出す。既に開いた第三の目は爛々と輝き、笑みに歪む口許からは白い牙が覗いた。
「これで──終わりだあァあああッッ!!」
三つ叉の槍、シヴァの象徴たるトリシューラがその三本の刃から閃光を放つ。踏み込み大きく跳躍したカラハが神殿の天井を穿ちながら眩い刃を振りかぶり、光の尾を引く槍を一気に振り下ろした。
鳥籠の頂点から真っ直ぐに、三本の光の軌跡が空間を裂く。音にならない大蛇の絶叫が、びりびりと神殿を震わせた。
カラハが床に降り立ちその髪とコートの裾がはらりと落ちるのと同時、──炎える鳥籠の焔ごと、大蛇の身体が四つに、分かたれる。スライスされた断面から一気に、燐光が溢れ出す。
末摩を断たれるが如き大蛇の咆哮は残響となって光の粒子を踊らせ、何万、何億とも知れぬ白光の粒が皆の顔を照らした。ゆっくりと立ち上がったカラハが目を細めるのに伴って額の瞳も閉じてゆく。輝きを失った槍がその姿を霧散させる。
「……無事、おわったね」
散り失せる焔と燐光を見上げながら、ナユタがカラハの隣に歩み寄った。ライジンと鳩座もその後ろに佇み、大蛇の最期を眺め遣る。二人の背にはもう翼は見当たらなかった。
光の最後の一粒が消えると同時、ちかちかと蛍光灯が瞬く。遠くからざわざわとした喧噪が聞こえ始める。
──無事、日常が戻って来たのだ。誰とも無く、大きな溜息が零れた。
「皆、お疲れ様です。撤収して少し休憩にしましょうか」
掛けられた声に四人が振り返ると、寮生長が笑顔で近寄って来た所だった。続く宮元も安堵の表情を浮かべている。
「やれやれ、これで無事解決っちゅう訳や! ──せやけど、さっさと応接室に移動した方が良さそうやな。ライジン先輩が他の奴に見付かっても面倒やし」
「女子寮の様子も気になりますしね。連絡が入るまでは皆も気が落ち着かないでしょう」
いつの間にか浄衣から普段着に戻ったナユタが、じゃあ、と顔を綻ばせた。
「お茶、淹れ直すよ。ささやかだけど打ち上げでもしようか」
そして六人は手早く戸締まりを確認し、意気揚々と応接室へと引き上げたのだった。
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一方、女子寮の神殿では今まさに三人が大蛇と闘いを繰り広げている最中であった。
巨大な大蛇を前に、ヒトミが頭部を、ツクモが尾側を担当する形でそれぞれ攻撃を仕掛けている。少し離れた位置ではイズミが仁王の如き姿で指示を飛ばしながら気を練っていた。
──『大蛇を攻略するにあたり、二人に頼みがあるんだ』。数分前、神殿へと至る道すがら、イズミは真剣な面持ちで口を開いたのだ。何か考えがあるのだろう、と二人は先輩の言葉に頷きを返した。
頼みだなんて水臭い、何なりと仰って下さい、と笑顔で述べた後輩二人に、イズミは自信たっぷりにこう言い放ったのだ。
『出来るだけ長く、長く引き延ばして欲しいんだ』と──。
そして今、ヒトミとツクモの二人はイズミの要請に従い、可能な限り力を振り絞って闘いを続けていた。白き焔を纏いながらヒトミは踊るように大蛇を翻弄し、またツクモも余力を絞り出して六体の炎狐をけしかける。
昨日よりも明確に大きさを増した大蛇の鱗は堅く厚く、幾ら攻めを続けてもダメージは与えられない。しかし二人はそれを気に病む様子も無く、ただひたすらに力を奮う。
「もう少し、もう少しだ二人共、──そう、いいぞ、その調子だ!」
「ええ、任せて下さいませ!」
「あたしもまだいけます、頑張ります!」
イズミの激励に二人が顔を綻ばせる。引き戸の影からは能古も身を隠しながら小さく声援を送っていた。皆、大蛇に怯む事無く気分は前向きだ──笑顔のイズミは深く頷く。そしてじっくりと練られたイズミの霊気は、次第に濃く強く、凝縮され高まってゆく。
ヒトミとツクモは挑発するかのように攻撃を繰り返しながら、大蛇を誘導してゆく。白い焔翼とオレンジの炎狐が舞い踊り、大蛇はそれらを追い掛けて前と後ろへと長い身体をのたうたせた。巻いていたとぐろは崩れ、ほどけ、巨大な身体はくねりながら床を這う。
「──そろそろだな。二人共、よくやった!」
その様子にイズミはニヤリと笑み、そして一気に濃く練り上げた霊気を開放した。暁の光に似た朱金の燐光がイズミの全身から噴き出し、吹雪となって桜花の如く舞い乱れる。
「イズミ先輩!」
ヒトミとツクモの表情がぱっと輝く。二人はさっと大蛇から飛び退き、素早く壁際へと退避した。残されたのは、突然の状況の変化に動きを止め、その身を無防備に晒した巨大な大蛇。
「不法侵入の害獣さんめっ! タジカラオの力っ、その身に喰らうがいいっ!!」
台詞と共に、戦闘装束に姿を変えたイズミが走り出す。朱金に燃える長い髪が舞い上がる。彗星の如く尾を引いて、イズミは大蛇へと突進するのだった。
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男子寮に続き、女子寮でも最後の大蛇と遭遇!
イズミちゃん先輩の戦いや如何に……?
次回も乞うご期待、なのです!
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先月19日はナユタ君のお誕生日でした!
そして翌日の20日は作者の誕生日でした!
祝って頂けると嬉しいです!
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