リア充話と、先輩面
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大変お待たせして申し訳ありません、またもやお久し振りの更新です。
今回は前回のライジン話に引き続き女子寮でのイズミの話。
そして後半はいよいよ男子寮側が戦闘に突入です。
それでは、どうぞお楽しみ下さい。
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「それで、イズミ先輩は寮ではどの班だったのですか?」
女子寮を進む四人は、前衛にヒトミとイズミが並び、ツクモと能古がその後ろに続くというフォーメーションを組んで廊下を探索していた。狐火が照らす暗闇は痛い程の静寂に包まれており、四人は軽いおしゃべりで緊張と不安を紛らわせようとしていた。
「ん……一回生の時は確か四班、二回生では一班だったかな。懐かしいな」
「一班! でしたら日直の時には音楽流せたんですのね! わたくし、あれが羨ましくて羨ましくて……。どんな曲を流してらしたんです?」
寮では起床の放送から始まり、施錠確認や消灯業務を担当する役割を、寮生達が持ち回りで担当している。当番の役割を班単位で週ごとに担当する『週番』制の男子寮とは違い、女子寮は六班ある班の中から一名ずつ、日替わりで担当する『日直』という制度になっていた。
中でも一班の日直は特別に、起床の挨拶から朝の清掃時間を経て朝拝の始まるまでの間、好きな曲を流す事が出来る権利を有していた。その為に一班になりたがる女子寮生は少なからず存在する。ヒトミもその一人だったようだ。
「そうだな……私自身は普段あまり音楽を聴かないから、別の班の友達にお願いされたのを掛ける事が多かったな。一度、好きなプロレス団体の選手入場曲集を流したら、『朝からうるさすぎる』と怒られた」
ヒトミの振った話題に、懐かしげな表情を浮かべながらイズミが柔らかく笑った。寮内は不気味な静けさを有していたが、イズミの話に皆の緊張もほぐれ笑みが零れる。
今日のイズミは無口な普段と違い、些か饒舌に思えた。こんな状況とは言え、久し振りに女子寮に来た所為だろうか。
と、イズミが何かを思い出し、続けて口を開いた。
「──そう言えば、その事をライジンに話して以降はライジンの貸し手くれたCDをよく掛けてたかな。しかし、ライジンが貸してくれる曲はどれも激しい恋愛の歌ばかりで……あれはどうしてだったんだろう」
その言葉を聞いてイズミ以外の三人が、ああ、と溜息を零した。
「リア充だ! ヒトミねえさま、リア充が、リア充がここにいます……!」
「だ、駄目よツクモちゃん、そこ突っ込んだら負けよ!」
「ややや、やっぱり、イ、イズミ先輩は、リア充だったんですね!?」
三人の反応に一瞬固まり、そしてイズミは顔を赤くしながらぶんぶんとかぶりを振る。
「だ、だから違う、違うんだ! ライジンと私はそういうのじゃ……! だから違う、こらニヤニヤするな三人とも! 違うから! ただの幼馴染だと何度も……!」
「わかってますよ先輩、うんうん大丈夫ですよ! 爆発しろなんて言いませんから! ああ御馳走様です!」
「あああ! 誤解するな! 違うんだ!」
満面の笑みになった三人を見て、イズミは涙目で必死に否定した。しかし皆はそんなイズミの様子にますます笑みを深めるばかりだ。
違うんだあ! というイズミの叫びだけが、空しく暗闇にこだましたのだった。
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一方、男子寮北寮を進むライジン達B班は、三階突き当りの非常口に浮かんだ陣を前に戦闘へと突入した。
「こりゃ凄い数だね、キリが無いっての! これまでもこんなだったの、鳩座っち!?」
「ええ、昨日もこんな量でした! くっ、すまない宮元浩次、早くアラタ・ナユタ達に連絡を……!」
「今、式を送ったとこや! すぐにナユタやカラハが駆け付ける筈やから、それまで頑張ってえな、二人共!」
昨夜と同じかそれ以上の量の蛇を相手にしながら、ライジンと鳩座が叫ぶ。ナユタに渡されていた符で救援を呼んだ宮元は、後ろに下がりライジンと鳩座にエールを送った。
鳩座はいつものように愛用の居合刀で斬撃を飛ばし、ライジンは薙刀のように先端から霊気の刃を伸ばした錫杖を振るう。──しかし洪水の如く陣から湧き出してくる大量の蛇は止め処なく、幾ら斬ってもその姿が尽きる事は無いように思えた。
「これじゃジリ貧だっての! こんなのどうやって倒したの!?」
ライジンが翼に霊気を宿らせ飛び掛かって来る蛇を打ち落とすのを見て、鳩座は一瞬考え混むような顔をする。ちらりとその表情をを見たライジンが口端に、どうだ、というような笑みを浮かべた。
「昨日はアラタ・ナユタが凄いのを一発ぶちかましてくれまして! ……カラスマ・ライジン先輩もそういう、一網打尽みたいな技は無いんですか!?」
鳩座は言い返しながらライジンを真似、紅い妖気を放出して翼にみなぎらせ、手足のように翼を振るった。翼で跳んで来た蛇を叩き落す鳩座に、ライジンは内心舌を巻く。──こうも易々と技術を盗まれたのでは先輩の名が泣いちゃうっすよ、とライジンは奥歯を噛み締めた。
「──じゃあ一発、俺っちも凄いのぶちかましてやるってね! センパイの威厳、見せてやるっての!」
「それは──楽しみですね、頼りにしてますよ、先輩!」
挑発するかのような鳩座の言葉に、ライジンは獰猛な笑いを浮かべる。──どうせ余剰戦力扱いなら、ここで大半の霊力を消費したところで差し支え無いだろう、という計算が一瞬で成り立った。
ライジンは眼前に迫った幾匹もの黒蛇を一薙ぎで斬り飛ばすと、一気に暗金色の霊気を放出し始めた。大きく羽ばたかせた翼からは嵐めいた風が生まれる。雷を散らした突風が蛇の群れを牽制し圧しとどめ、技の発動を察した鳩座がさっと後ろに身を引いた。
バタバタと、そう遠くない足音が集中する意識の向こうで聞こえる。どうやらナユタ達がこちらへと駆け付けたようだが、それは無駄になりそうだ──しかしギャラリーは多いに越した事は無い、とライジンはほくそ笑む。
「行くっすよ──」
横一文字に両手で構えた錫杖が、しゃらん、と涼やかな音を立てる。霊気の粒子が輝きを増し、バチバチと走る雷が蜘蛛の巣のように絡み合い、繊細なレースじみた模様を織り上げてゆく。
「おいッ、ライジン先輩ッ、鳩座ッ! 大丈夫か──」
足音と重なるカラハの叫びが、強い羽ばたきと激しいいかづちの弾ける音に掻き消される。眩い光りが煌めき、そして。
「『雷花繚乱<ライカリョウラン>』──っ!」
ライジンの雄叫びと同時、閃光が、闇を白金に塗り潰した。
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という事でライジンが先輩の面子を保つべく、必殺技をぶちかまします。
技自体は第一章でも使ったものですが、何せ敵に使うので全開パワーでの発動です。
さて男子寮組のこの後はどうなるのか、そして女子寮組は無事に敵を倒せるのか。
次回は出来るだけ早く更新するつもりです。乞うご期待、なのです。
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