戻る意識と、膝枕
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今回は女子寮組のその後です。
倒れたヒトミ、慌てるツクモ、そして寮生長への電話。
さてさて、どうなったのか。それでは本編をどうぞ。
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ヒトミが薄っすらと目を開くと、その視界には自室とは違う天井が映っていた。
「あ! ねえさま、ヒトミねえさま! 気が付きました!? 大丈夫ですか、何処か痛いところとか、苦しいとか無いですか!?」
ヒトミの少しぼやけた視界にツクモの顔が逆さまに映り込む。何度か瞬きをしつつ視線を巡らせると、横から心配げに覗き込む能古の顔も目に入った。
「……ツクモちゃん、ノコノコちゃん、ここは……」
クリアになっていく意識の中で、どうやら神殿の畳に寝かされていたのだと気付き、しかしヒトミは頭を支える柔らかな感触に目を細める。
「ヒトミねえさま、大蛇をやっつけた後突然倒れちゃって……!起きないからあたし、もう心配で心配で……」
「……そう、そうなのね。わたくし、恐らく霊気を使い果たしてしまって、それで気を失っていたようですわ。わたくし、どれぐらい寝てしまってました?」
「そそそ、そんなに長くは、ななないです。三十分ぐらい、です」
能古の言葉にヒトミは大きく溜息をつく。確かにそこまで長くは無いが、ただ見守っているには些か長過ぎる時間だ。後輩二人を心配させてしまった事に罪悪感を抱き、しっかりしなくては、とヒトミは自身を叱咤した。
「ごめんなさいね、ツクモちゃん、ノコノコちゃん。不甲斐ない、だらしのない先輩で……わたくし、申し訳無いわ、本当にごめんなさい」
謝るヒトミにツクモがぶんぶんと首を振る。その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいて、ヒトミは怠いながらも気力を振り絞り手を伸ばしてその頬を撫でる。
「いいえ、いいえ、ヒトミねえさま! ねえさまは必死で戦って、あんな凄い技を使って……だから、謝る事はないです!」
「そ、そ、そうですよ先輩! 先輩あんな凄いバケモノに向かって行って更に変身して羽根なんて生やしちゃって刀でズバーっと凄い技でやっつけてカッコ良くて強くて素敵で凄かったからだから大丈夫ですいいんです!! いいんですー!!」
突然能古のスイッチが入ったらしく凄い勢いで喋り出し、その様子にヒトミはくすりと笑みを零す。そしてまだ起き上がろうとするも身体に力が入らずに身じろぎするヒトミを、ツクモが慌てて制した。
「あっねえさま駄目です、まだ寝てて下さい!」
「だって、ずっとここでこうしている訳には……。それに、ツクモちゃん、お膝が痺れちゃうわ」
苦笑を浮かべて囁くヒトミの言葉に、ツクモノ顔が一気にボンッと赤くなる。わたわたと焦りながらも姿勢を崩さないツクモに感謝しつつも、ヒトミは説得するようにツクモを見遣る。
「だ、だ、だってヒトミねえさま、枕になるようなもの無かったからその! ああああたしの膝なんかで良ければ! 全っ然、痺れてたりなんかいませんから! あっそれとも嫌でした!? あたしの膝枕なんか嫌でした!?」
「嫌なんてそんな、全く嫌じゃないわよツクモちゃん、いいえむしろ嬉しいぐらいだわ。でもね、やっぱり申し訳無くて……」
「そんな、大丈夫ですよねえさま! ねえさまのお顔小っさいから全然重くないし! むしろねえさまの寝顔を間近で見られて役得っていうか!」
慌てふためくツクモの仕草に自然とヒトミの口からクスクスと笑いが漏れる。ようやく力が入るようになってきた身をゆっくり起こし、ヒトミは畳の上に座り直すとツクモの頬に手を添えた。
「まあ、ツクモちゃんったらわたくしの寝顔をずっと見ていたの? 恥ずかしいじゃない。もう、悪い子ね!」
めっ、と叱るように唇を尖らせるヒトミに見詰められ、ツクモノ顔がますます真っ赤に茹だってゆく。あわわわ、と更に慌てるツクモノ額にこつんと額を合わせ、ヒトミは悪戯っぽい笑みで再度、めっ、と言って笑った。
随分と調子を取り戻した様子のヒトミに能古も安堵し、ふうと胸を撫で下ろす。その様子にヒトミとツクモも畳みに座り直してようやく緩んだ息を吐いた。
と、不意にツクモが声を上げる。ヒトミに言っておかなくてはならない事を思い出したのだ。
「あ、そういえばねえさま、あの、あたしヒトミねえさまが倒れちゃって訳分かんなくなって、その……パパ先輩に電話したんです」
「パパさんに? ああ、どうするか指示を仰いだのね。それで今この状態なのね?」
「はい。あたしパニックになっちゃって、救急車呼ぼうとしてノコノコちゃんに停められて。それで……」
ヒトミが能古に視線を遣ると、能古は無言で何度も頷いている。──どうやら能古は自分達の状況を正常に判断出来る存在のようだ、とヒトミは密かに心の中で能古の評価を改めた。
「そう、ありがとうねノコノコちゃん。……あちらも心配しているでしょうから、パパさんにはわたくしから後で連絡しておくわ」
そんな時、神殿にガヤガヤと数人が喋る声が近付いて来た。コピー機を使いに来たか、残った白飯で夜食用のおにぎりでも作りに来たかのどちらかだろう。そろそろここを去った方が良さそうだと判断し、ヒトミは二人に目配せをする。
ゆっくりと立ち上がりかけたヒトミの身体が少しふらついた。慌ててツクモと能古が手を差し出す。
「ありがとう、二人とも」
ヒトミは何だか嬉しくなり、片方ずつ二人の手を取った。後輩二人はえへへと照れ臭そうに笑い、ヒトミもふふふと笑い返す。
「さ、お部屋へ戻りましょう。明日もテストがある事ですし、お勉強の続きをしないとですわ」
ヒトミの言葉に、ああ……と後輩二人の口から盛大な溜息が漏れたのだった。
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ボーイッシュ後輩女子の膝枕で眠る清楚令嬢先輩ねえさま。ゆるーくゆりゆりです。
今後はもっと女子寮の日常風景も出していきたいですね!
そんな訳で次回はまた次の日へと移ります。二章の前半であるテスト期間編も大詰め。
次も乞うご期待、なのです。
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