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打たれる頬と、日本刀


  *


「──カラハっ!」


 ナユタが叫ぶ。カラハが声に振り向くと、駆け寄ったナユタが──その頬を、打った。


 パァン、と小気味良い音が神殿に響く。


「何やってんのさ、無茶ばっかり……っ! 一人で戦うなんて、僕、僕心配で……!」


 痛みに頬を押さえたカラハが無言でナユタを見下ろす。唇を噛み締めて震えるナユタの瞳からは、ぽろぽろと涙が溢れていた。


 光の粒子の舞う中、二人は無言で立ち尽くす。暗闇が払われ電灯がチカチカと点き始める。二人の間に、淡い影が落ちた。


「──悪かった。でもよ、倒せたんだからいいだろ?」


「そういう、問題じゃ無くて、──僕は! カラハが、……」


 感情に言葉が追い付かず俯いたナユタの足許に涙が落ちる。ぱたぱたと水滴が畳を叩く音が静かに響く。


 カラハが一つ大きな溜息を吐いた。様子を見守っていた他の三人も躊躇いがちにスリッパを脱ぎ、そろりと畳に上がる。


 大蛇を倒した影響だろう、元に戻った寮は明かりが灯り、ざわざわとした喧噪が遠く近く聞こえ始めた。


 わざわざ神殿へと来る者は居ないとは思うが、試験期間という非日常の空気は寮生を浮わつかせている。念には念を入れ、寮生長はぴったりと閉めた引き戸に人払いの結界符を貼った。振り返りカラハを見る目はいつになく鋭い。


「カラハ君。折角と言っては何ですが、いい機会です。少し、話を聞かせて頂けませんか」


 鳩座がナユタの肩を叩き、座るよう促してポケットから出したタオルハンカチを手渡した。宮元と寮生長も畳の上に腰を下ろす。


 カラハは皆の様子を確かめると再度溜息をつき、諦めたようにどかりと座り胡坐をかいた。


「聞かせて下さい、神殿に来る前に何があったのか。そして、カラハ君のその力の事も。──私達の事を仲間と思ってくれているなら、全てを話して貰えませんか」


 寮生長の言葉は皆の気持ちの代弁だ。皆の目がカラハに集まる。


 しゃアねェな、とカラハは頭を掻いて、重い口を開いた。


  *


「何なんですコレ、全く──歯が立たない……っ!」


 一方女子寮では、神殿で大蛇と対峙したヒトミとツクモが苦戦を強いられていた。


「大きいだけじゃ、ない……明らかに、以前のものよりも、強いですわ……!」


 ヒトミが火を纏わせた剣を振るい、ツクモが炎の狐で攻撃するものの、全くダメージを与えられずに歯噛みする。分厚く堅い鱗は斬撃を弾き、巨大な牙から散る毒液が畳を焦がす。


 間一髪で大蛇の牙を躱したヒトミがカウンターで目を狙うも、素早い動きで避けられる。追撃をクロスさせたサーベルで何とか受け流して間合いを取り、ヒトミは体勢を立て直した。


「このままでは、まずいですわね」


 ヒトミが美しい顔を微かに歪ませた。どうにか攻撃を受け流しつつ周囲の状況を確認する。


 力を使い過ぎたのかツクモの息が上がっている。全力を出せる時間はそう長くはないだろう。──ヒトミも人の心配が出来る程の余力はそう残ってはいない、このままでは倒されてしまうのも時間の問題だ。


「仕方、ありませんわね。……明日のテストに響かないといいのですけれど」


 覚悟を決めなければ、このバケモノは倒せない。ヒトミは意を決し、大きく呼吸して精神を集中する。ヒトミはツクモの隣まで後退すると、静かに声を掛けた。


「ツクモちゃん、少しでいいわ。少しの間だけ、わたくしに時間を頂戴」


「ヒトミねえさま、何か策があるんですね。……分かりました。あたし、全力でヒトミねえさまを護ります。全身全霊で時間を稼ぎます!」


 ツクモが力強く頷く。迫る大蛇に向かって火狐をけしかけ、更に燃え上がらせた狐火を飛ばして牽制する。怯んだ大蛇に狐を喰らい付かせ、弾かれても尚攻撃の手を休めない。


 ヒトミはそんなツクモを頼もしく思いながら静かに瞳を閉じる。霊気を練り、集中し、自らの内に秘められた『鶴姫』の魂に語り掛ける。


 ──お願い、力を貸して。わたくしの大切な人を護る為に、貴女の強さを! ヒトミが強く語り掛けると、己の内なる闇の中から、武者姿の美しい女性が姿を現す。その顔はヒトミと瓜二つだ。彼女は薄く微笑みながら、ヒトミに真っ赤に燃える美しい珠を差し出した。


 ──これを。そなたに力を今ひととき、貸し与えましょうぞ──。ヒトミは心の中、差し出された赤い火球を手に取った。


「──ありがとう、鶴姫。……行きますわ。『鶴姫、顕現』!」


 ヒトミが閉じていた眼をカッと見開いた。全身から白い霊気が炎となって噴き上がる。


 身を包む白い軍服が燃え上がり、生まれ変わるように色が変わって行く。その色は──瀬戸内の海を映したような、美しく深い紺碧。鶴姫の武者鎧と同じ色彩に、明るく炎える火の如き緋のラインが映える。


 ばさり、マントが翻る。ふわり髪を靡かせ、ヒトミが笑う。自信に満ちた瞳の色が、燃える火球の朱を宿し輝く。


「ありがとう、ツクモちゃん。待たせたわね、──今度はわたくしの番ですわ」


 その手に携えるは、二振りの日本刀。端正な細身の刀は美しい輝きを放ち、滑らかな刃は澄んだ水の如き清らかさを湛えていた。


  *





怒るナユタ君。そしてカラハの秘密とは。……という感じで、まだ引っ張ります。すみません。


そして苦戦する女子寮組。とうとうヒトミが二段階返信です。

どうにも女子寮組は男連中に比べて影が薄めなので、どんどん押していかないとね。

そんな訳で、次回もお楽しみに、なのです!



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