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他言無用と、謎の縁



更新です。

今度は寮生長&宮元組の様子です。

おや、例の部屋以外にも囁き声が……!?

どうぞお楽しみ下さい。




  *


「何だ、寮生長と……風紀幹事か」


「──成瀬君!」


 部屋から顔を覗かせたのは成瀬だった。思いもよらない人物の登場に、いやしかし、と寮生長は思考を巡らせる。


 ──彼は確か、入寮祭の日に『種』を植えられてあやかしに変化したのをナユタに助けられたのだったなと思い出す。ならばこの状況で『こちら側』に来られたのも当然か、と合点がいった。


「君一人ですか? 確か君は八班だった筈では」


「此処は太田の部屋だよ。太田と山本と三人で居たんだが、昨日も一昨日も、暗くなると俺一人になっちまうんだ。なあ、これも何かバケモノの所為なのか?」


 困ったような表情で成瀬が語る。成瀬の背後をちらと見遣ると、机の上に置かれたテーブルランプが光を発しているのが窺えた。


「ええ、怪異の所為だと思います。ナユタ君達が解決に当たっていますので、直きにまた元通りになる筈ですが……取り敢えず部屋の中に居て貰えれば危険は無い筈です」


「そうか、それなら良かった。状況が全然分からねえし俺一人になっちまうし、凄え怖かったんだ。部屋でじっとしてりゃいいんだな」


 寮生長が安心させるように微笑むと、あからさまに成瀬の顔から緊張が抜けた。すると今度は宮元が横からひょこっと顔を出し、おどけた口調で問うた。


「そいや、他に動いとるモンはおらんかったか? 姿を見てのうても、物音がしてたとか程度でもエエんやけど」


 宮元の言葉に成瀬は首を捻る。そういえば、と成瀬は考えながら口を開いた。


「昨日と一昨日は聞こえなかったけど、今日は声が聞こえたな。ありゃ一回生じゃなかったかな……向こう、談話室の方からだったか」


 成瀬の返答に寮生長と宮元は顔を見合わせた。二人は頷き合うと、成瀬に礼を言って談話室へと向かった。


 成瀬の居た部屋から幾つか向こう、北寮三階の談話室からは成瀬の言った通り、確かに囁くような幾つかの声が漏れ聞こえていた。寮生長が扉を二度ノックし、ゆっくりと声を掛ける。


「こんばんは、寮生長タカサキです。誰か居るなら返事をお願いします」


 部屋の中が一瞬静まり返り、少し間を置いてから声が上がった。


「──パパ先輩ですか?」


 関西訛りのその声色には聞き覚えがあった。ナユタの部屋の後輩、猪尻の声だ。


「猪尻君ですね? 此処を開けてもいいですか。大丈夫、取り敢えず危険はありません」


 少しの囁き声の後、ゆっくりと扉が開く。


 隙間から覗いた顔はやはり猪尻のもので、その表情は寮生長を見た瞬間に緊張から安堵へと変化した。寮生長は安心させるように微笑み、穏やかに声を掛ける。


「大丈夫、危険はありません。タカサキと風紀の宮元君です。中へ入れて貰ってもいいですか」


「ああ、先輩! 良かった! なんか真っ暗になるし他の部屋の戸も開かんくなるし、心細うて……」


 招き入れられて二人は談話室へと上がった。ランタンで部屋を照らすと、室内には一回生ばかり六人の姿があった。


 寮生長は順番に六人の顔を確認し、心の中で溜息をつく。宮元も同じ事に気付いたようで、彼に似つかわしくない少し険しい表情を浮かべていた。


 ──間違い無い。この六人は、四月の中頃に起きた事件で誘拐されていた面々だ。記憶を消されて本人達は覚えていないだろうが、その影響がこんな所で出ようとは。


 二人は内心をおくびにも出さず、彼らを安心させる笑みを取り繕う。六人は一回生ばかりで不安だったのだろう、寮役二人が来た事であからさまに安心した空気が場に広がっていく。


「パパ先輩、宮元先輩、どうなってるんすか? 三日連続で停電になるなんて」


「俺ら不安だったんですよ、急に静かになるし、後で聞いても他の奴ら停電の事知らないって言うし」


 口々に不安を訴える一回生達に、どうしたものか、と寮生長は思案する。上手い言葉が見付からずに口籠っていると突然、宮元が明るい声を発した。


「皆すまんな、回って来るんが遅うなって! 放送も使えんから連絡も出来んで、順番に部屋回ってたら連絡が遅うなってしもうたんや」


「な、何かあったんですか?」


「実はな……」


 宮元が声を潜めると一回生達が揃って顔を寄せる。


「この停電な、とある寮役がポカやらかして起きてしもうててな。誰の所為かは言われへんけど、寮監だの大學側に知られたら大目玉モンなんや。だから大っぴらにも出来へんでな。皆には黙ってて欲しくてこうしてお願いして回っとんや」


 成る程、と一回生の皆から安堵の溜息が漏れる。


「せやから皆、話にも出せへんし知らん顔しとるんや。すまんな、迷惑掛けて。……頼むわ、ワイら寮役を助けると思うて黙っててくれるやろか。頼むわ、な?」


 宮元が頭を下げると、皆は揃って笑顔で頷いた。そういう事なら、と軽い笑い声も漏れる。


「……そんなに長い時間ではないので、少しだけ我慢して頂けると助かります。ただ電灯も点かないし危ないですので、停電の間は部屋から出ないようお願いします。申し訳無いですが、くれぐれも他言無用で……」


 寮生長が話を合わせて一緒に頭を下げると、一回生達は、分かりましたと口々に述べた。


 それでは、と二人は挨拶をして談話室を辞去した。扉を閉めたところで、ふう、とどちらともなく溜息が漏れる。


「宮元君、助かりました。ありがとうございます」


 寮生長が小声で囁くと、くくっと宮元は忍び笑いを零した。


「ワイが手伝えるんは口だけやからな、上手い事咄嗟に思い付いて良かったわ。……しかしあいつら、あの時の六人やろ? 偶然にしても出来過ぎちゃうんか、学科も班もバラバラやろうに」


 再び他の部屋をチェックしながら二人は囁き合う。宮元の疑問に寮生長は眉根を寄せた。


「記憶は無い筈ですが、同じ境遇に遭った者同士、何か惹き合うものがあるのかも知れませんね。こちらとしては好都合でしたが……。まあ学科が違っても一回生は一般教養講義の方が多いですから、テスト勉強には差し支え無かったのでしょう」


「このまま何事も無く終わるとええんやけどなあ」


「同感ですね」


 二人は顔を見合わせて力無く笑うと、同時に溜息をついた。


  *





そういう感じで二人は苦労しつつ寮内を見回っております。

そう、この一回生六人は一章で誘拐されていた面子ですね。猪尻君もメンバーに入っていたのでした。


それと成瀬君は番外編の入寮祭編であやかしと化してナユタと戦った人です。彼はナユタ・カラハ・鳩座とはその際に顔を合わせておりますので、事情は察してくれています。

寮生長は成瀬の事件には直接立ち合った訳ではありませんが、大學内で起こる事件について本部に提出する書類を纏めているのは彼なので、あらましは全て知っているという訳です。


さて、次話は女子寮組とナユタ組、どちらが来るでしょうか。予想しつつお待ち頂ければ幸いです。乞うご期待!



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