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漏れる明かりと、鳳仙花



どうもです、探索パートの続きです!

まずは男子寮組から。




  *


 ひたひたと二人で廊下を歩く。ゆらゆらと揺れるランタンの明かりが不気味に静まり返った真っ暗な寮内をぼんやりと照らす。


 寮生長と宮元は二人きりで北寮二階を探索していた。ホンマにまるでゲームやな、と呟いた宮元の言葉に頷きながら、どこかで明かりは漏れていないか、物音が聞こえないかと神経を尖らせる。


 ドアを一つ一つ確かめながら進む廊下は本当に不気味で、闇は墨を塗り込めたように真っ黒で、音も光も全て喰らい尽くされているような錯覚に、ぞくり寮生長は身震いをした。


「誰もいないようですね。開くドアも無いし……陣も見当たりません。三階に進んでみましょうか」


「せやな。……まあよしんば開くドアがあったらそれはそれで、なんか飛び出して来るんちゃうかと思うてドキドキやけどな」


 いつもよりは控え目な声で叩かれる宮元の軽口に、ふっと寮生長は微笑んだ。煩わしく感じる事もある宮元のお喋りだが、今は恐怖を和らげてくれる良きスパイスだ。少しだけ軽くなった心を抱えながら、寮生長は歩みを進めた。


 建物の東端に位置する東階段を使い三階へと上がる。──と、そこで寮生長はピタリと足を止めた。


「宮元君、アレを見て下さい」


 押し殺した声で寮生長が囁く。宮元も前方を見てゴクリと喉を鳴らした。


 ──ある一室の天窓から、磨り硝子を通して薄らと明かりが漏れていた。


「あの部屋は……誰のでしたっけ」


「ワイも判らん。でも位置からして寮役や班長やない事は確かやな」


 通常、それぞれの班の中で役付きの寮生の部屋は大体の位置が決まっているのだ。班長は班の中で一番東寄りの部屋番号が若いもの、三役四幹が居る場合はその次の部屋と定められている。


 今明かりの漏れている部屋は、五班の中でも中央付近に位置する部屋だ。二人は一度顔を見合わせると頷き合い、ゆっくりとその部屋に向かって足を進めた。


 念の為に他の部屋も順番に確認するが、開く様子は無かった。とうとうその部屋までやって来た二人は目配せをすると意を決し、ドアを二度ノックした。


 ──コン、コン。


 静かな廊下にノックの音だけがやけに響いた。何かが突然飛び出して来る可能性を考え、二人は少し身を引いてドアを見守る。ゴクリ、宮元が震える手でランタンを掲げながら固唾を飲む。


「誰だ?」


 ドアの向こうからくぐもった声が聞こえ、続いてノブを回す音。──ゆっくりと、扉が開かれる。


 二人が注視する中、薄い逆光に人物の影が浮かぶ。その顔を見た瞬間、寮生長が驚きに大きく声を上げた。


「あ、君は──!」


  *


 一方ナユタ達は、南寮二階の談話室の扉に描かれた陣を発見し、そこから出現する蛇のあやかしと対峙している最中だった。


「くっそ、どうなってやがるッ! 数が尋常じゃねェぞ、これ!?」


「昨日一昨日と比べると異様な量だな。斬っても斬ってもキリが無い」


 カラハと鳩座が手当たり次第に次々と倒してゆくものの、まさに水が湧き出すかの如く蛇は無数に現れる。攻撃をかいくぐって襲い来る蛇の牙を間一髪躱し、カラハが冷や汗を掻きながら苛立ちに叫んだ。


「やべェ、このままじゃやられるのも時間の問題だッ! ナユタ、何かこう、一撃でバーンとドッカーンと倒す方法無ェのかよ!?」


 符を飛ばし二人の死角から飛び掛かる蛇を始末していたナユタが、カラハの雑な言い方に思わず苦笑する。


「そんな広範囲効果魔法みたいな便利なモノ、あると思う? 僕はアークウィザードじゃないからティルトウェイトもエクスプロージョンも使えないよ」


「いや、君ならそういう武器や術を使える可能性もありそうに思えるからね」


 一閃で三匹の蛇を斬り捨てながら鳩座も口を挟む。前衛二人の物言いに、ナユタは軽く溜息をついて眼鏡を直した。


「そういう術は凄く疲れちゃうし、符や弾の補充だってテスト期間中じゃままならないってのに。……仕方無いなあ」


「あるんだな!? あるんなら勿体付けずに早くしろッ! 疲れるってンなら後でマッサージでも何でもしてやるから!」


「出し惜しみはどうかと思う! 僕からも頼む、アラタ・ナユタ! 伊勢市駅前の店のベイクドチーズケーキ、あれでどうだ!?」


 切羽詰まった二人の声に促され、ナユタは数枚の符を取り出すと、ぱん、と強く柏手を打った。符は蒼白く光を放ち、カラハと鳩座の二人の前に半透明の膜を広げてゆく。


「おッ!? ──結界か。にしてもえらく丈夫そうだな」


 張られた膜からこちら側に居合わせた数体を切り捨て、二人はようやく息をついた。カラハが見上げると、結界は廊下を仕切るようにぴったりと上まで閉じられている。まるで硝子の仕切り板のようなそれに蛇は次々に取り付き、しかし淡く光る膜は空間を隔てるが如く蛇達を完全にシャットアウトしている。


「よし、準備はこれでいいかな。──危ないから下がってて、二人共」


 促されるまま二人が身を引くと、ナユタは狩衣の袖に両腕を突っ込んで勢い良く引き抜いた。四角い箱のような銃器が二つ、袖から姿を現す。


「これの弾作るの大変なんだから。マッサージとケーキ、忘れないでよ、約束したからね」


 ナユタが何気無い口調で零しながら片膝を突き、箱じみたそれの表面に貼られた封印の符を剥いだ。真鍮色の輝きを放つそれはいかにも重そうで、しかしナユタは慣れた手付きで準備を進めてゆく。


 ガコンと重い音を立てながら蓋を開き、ナユタはそれらを両肩に担いだ。霊気が流れ込み、表面に彫られた術式に光が走り満ちてゆく。


 二人が見守る目の前で、蒼白い光に照らされたナユタの顔が楽しそうに、心底楽しそうに笑った。


「さあいくよ、新作のお披露目だ! 破魔の焔、存分に味わうといいよ!」


 眼鏡が光を反射してギラリと煌めいた。霊気が集束し、ランチャーの紋様が輝きを増す。


 結界越しに異変を感じた蛇達が慌てて膜から離れようと蠢き始めたが──その姿をナユタは嘲笑う。


「逃げようったって、今更もう遅いよ。──さあ炎の花に焼かれるといい。『鳳仙火・焔鐘<ホウセンカ・エンショウ>』っ!!」


 叫びながらナユタは安全装置を外したレバーを思い切り引いた。瞬間、ドン、という腹の底に響くような轟音が耳を叩く。


 蒼い光が、迸った。


  *





さてさて、寮生長組(北寮三階)には誰かが……!?

そしてナユタ側(南寮二階)では激しい戦闘!

どうなってしまうのか……そして女子寮組は一体? 続きはまた近い内に更新します。乞うご期待!



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