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内部崩壊と、床の陣


  *


 カラハと鳩座は同時に大蛇へと躍り掛かった。翼を羽ばたかせて上方向から鳩座が死角を狙い、別の方向からカラハが霊気の刃を伸ばした槍を振るう。


 不意打ちに混乱した大蛇が暴れ尾や頭を振り回すが、その動きは乱雑で二人は余裕を持って攻撃を避けつつ斬撃を打ち込む。硬い鱗に弾かれて高い金属音が響くが、ダメージが通らないのは想定済だ。


 そしてその二人とは別の入り口を開けてそろりとナユタが神殿に上がり込んだ。気配を消して符をひらり放つと、蝶の如くひらひらと、符は飛んで大蛇を囲むように舞い降りる。


「──あ」


 その様子を隙間から見守っていた宮元が、何かに驚いて小さく声を上げる。宮元はその驚きを共有すべく、ちょいちょいと隣に居た寮生長の腕を突っついた。


「ちぃとパパ、見てぇな、アレ」


「おや、何か見付けましたか? 宮元君」


「アレ、あそこ、大蛇の下。なんや光ってるモンが見えるんやけど」


「ん、確かに。何ですかね……何か陣のようにも見えますね」


 二人が目を凝らすと、確かに宮元の指摘した通り、光る線のようなものが大蛇の動く隙間からちらちらと見えた。じっと観察しているとそれは円で囲まれた模様のような──そう、まるで術式陣のように見える。


「お手柄ですね、宮元君。あれが何かは分かりませんが、大蛇が現れた事と無関係では決して無い筈です」


 寮生長の言葉に宮元がゴクリと生唾を飲み込んだ。やはりこの現象は人為的な物だったのかと思い至り、肝が冷える。


「やっぱ誰かがやったんやな。……けど誰が? 何の為にこないな事……」


「それは今は分かりません。けれど何か目的があるのでしょう、それだけは確かです」


 二人はそして押し黙った。不吉な物を感じずにはいられないものの、自分達には為す術が無い。胸の内にモヤモヤとした物を抱えながら、二人はただ黙って三人の戦いを見守った。


  *


「よし、これで……オッケー」


 ナユタは符の位置の微調整を済ませると、またそろりと移動して大蛇から離れ、そしてタイミングを窺った。カラハと鳩座が大蛇の全体が広がらないよう上手く陽動し、尻尾や牙をひらりひらりとかわしながら攻撃を続けている。やがて二人の刃が同時に弾かれたその瞬間──。


「術式、起動!──『熱鎖縛炎<ネッサバクエン>・網匣』っ!」


 パンと小気見よい柏手に続いてナユタの凜とした声が響いた。


 カラハと鳩座が勢いそのままにひらりと大蛇から離れ、それと入れ替わりに突然、ゴウ、と音を立てて蒼白い焔が燃え上がる。火はまるで細い鎖のように編み合わされ、あたかも立方体の籠のような形が出来上がった。


「虫かごならぬ蛇かごだね。いや、ここまで大きいと檻かな、それとも牢?」


 畳みに降り立った鳩座が焔の籠を見上げて感心したように呟く。燃える箱の中で大蛇は暴れ狂い、しかし見た目以上に頑強らしき焔の檻は微動だにしない。隣にやって来たカラハが気を高めながら口を開く。


「どっちだっていいさ、蛇にとっちゃアどれだって同じだろうよ。それに、俺達にとってもな。──コイツはここで倒されるんだから」


 カラハは言いながら槍を構えた。いつもとは違い、斬り下ろすのではなく突きの体勢で大きく腰を落とす。鈍銀の燐光が槍の穂先全体と手足に集まってゆく。


「じゃあ頼むよカラハ。……今日はいつもと構えが違うね?」


「ああ、色々試してみてェしな……とは言え、俺の攻撃で檻が壊れちまったら元も子も無ェからな、また一撃でヤってやるよ」


「うん、任せた」


 ナユタの言葉に頷きながらカラハは切れ長の両の眼を鋭く細め、そして呼応するかのように額の瞳は大きく見開かれる。拡散するのではなく必要な部分にのみ集約された霊気が、燐光の煌めきを遥かに超えて目映く輝き出す。


「──はッ!」


 カラハの気迫が空気を裂く。鋭い踏み込みをもって突き出された槍は輝く彗星の如く長く尾を引き、大きく咆哮を上げた大蛇の口内へと一直線に吸い込まれてゆく。


 不思議な事に、大蛇の身体は曲がりくねっているのに、長く真っ直ぐな槍は大蛇の身体を突き抜ける事無くさりとて折れる事も無く、そのまま大蛇の体内へと消えてゆく。槍が石突きまで全て大蛇の口内へと飲み込まれ、蛇がその大きな口を閉じた瞬間──異変は起こった。


 大蛇の身体が、びくり、と大きく震えた。くぐもった唸りを上げ、そして、眼から、口から、鱗の隙間から漏れ出すように、光の粒子が零れ溢れ始めたのだ。まるで内から溶けるようにどんどんと身体が崩れてゆくその光景に、カラハ以外の全員が息を飲む。


「内部から、崩壊してる……?」


 鳩座の呟きに誰もが押し黙る。加速度的に内から粒子化するその身は膨れ上がり、鱗が弾け、そしてとうとう──大量の光の粒が飛び散って一気に姿を失った。


「カラハ、君の槍は……一体どうなってるの」


 へなへなとナユタがその場にへたり込む。鳩座が溜息をつき、寮生長と宮元は何度も瞬きをした。カラハだけが苦笑しながら肩を竦める。


 急速に鎮火してゆく焔の残骸の中、カラン、とカラハの槍が音を立てて転がったのだった。


  *





なかなか更新出来なくてすみません。前回からだいぶ間が空いてしまいました。

そんな訳で男子寮組、バトルです。

また謎が増えてるし、カラハが変な技使うしで、どうしたものかと。ナユタ君が折角技使ってるのに目立たないじゃないか、っていう。


全く謎が解けないままの連夜の戦闘。一体何がどうなるのか、そして皆のテストの出来は如何に。



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