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炎える狐と、鶴の羽根



後半、女子寮組のバトル回!

という事で、恒例のオススメBGM紹介のコーナー。


Gargoyleの『死に至る傷』などオススメします。

曲調は激しくもどことなく前向きで、歌詞もタイトルの印象よりも随分と真剣に前向きな曲です。

よろしければお試しあれ、です。

それでは本編をどうぞ!




  *


 男子寮の神殿を覗き込んでいたカラハと鳩座は、顔を見合わせ、そして頷き合った。


「やるしかねェな」


「あれだけの瘴気を出している存在、害の無い物じゃなかろうしね」


 二人は気付かれないようにそろりそろりと戸の陰に隠れながら移動し、敵の死角となる位置から攻撃を加えるべく、一番奥の戸の傍に身を寄せる。


 巨大な蛇のあやかしは神棚に向き合う形でとぐろを巻き、黒い瘴気を撒きながら佇んでいる。


 二人は静かに武器を構え、そして──一気に扉を開け放った。


「──っおりゃああぁあああッ!」


「──覚悟っ!」


 カラハが跳躍し一気に距離を詰め、鳩座が強く一歩を踏み込み斬撃を放った。


 鳩座の紅い斬撃の到達とカラハの炎える曲刀が振り下ろされるのはほぼ同時。二つの攻撃が、黒い瘴気を切り裂いて大蛇を襲う。


 ──ギィンッ!


 瞬間、金属同士が強く擦れ合うような不快な音が響き渡った。


「──ッ!?」


「効いてない……!? 退け、マシバ・カラハ!」


 大蛇の鱗が黒く鈍く輝く。攻撃された部分には、傷一つ付いていない。のそり、と蛇の首が動き、紅く光る瞳が二人の方を向く。


「やべェッ!」


 着地すると同時、カラハは強く畳を蹴って後ろへと飛びすさる。瞬間、蛇の尾が寸前までカラハの居た場所を薙ぎ払った。


 太く長い尾の風圧に、カラハの髪が乱れる。そのまま後ろへ転がると、素早く立ち上がりカラハが叫んだ。


「マズい、攻撃が効かねェ! 一旦逃げるぞ!」


「逃げるって、何処へ!?」


 カラハが叫ぶのと同時に鳩座も走り出し、二人は転がるように神殿から飛び出した。


「硬すぎンだろアレ! こんなんじゃ無理だ、ナユタの術とか無ェとどうしようも無ェよ!」


「取り合えず北寮一階だな、了解した!」


 走りながら二人が振り返ると、大蛇はゆっくりと身をくねらせながら神殿から這い出て来るところだった。幸いにも動きは遅く、追い付かれる事は無さそうだ。


 カラハと鳩座は一目散に階段を駆け下り、ナユタの部屋を目指した。


  *


「この状況自体が結界化してるような感じだから、僕の術がどこまで効くか分からないけど……」


 走り込んで来た二人から話を聞いたナユタは、宮元に部屋から出ないよう言ってから自室の扉を閉める。


「瘴気は斬れたんだよね。ならこちらの攻撃が効かない訳じゃないんだろうけど、明らかに硬いのは間違い無いかな。……カラハ、その剣は?」


 ナユタがいつもと違うカラハの武器に目を留め、首を傾げる。


「ああ、廊下とか狭めェからさ、いつもの槍が使えそうに無ェから……」


 カラハの返答に、ふむ、とナユタは思案してから、廊下の先を指し示した。


「じゃあ、槍を思い切り振れる場所におびき寄せようか。──となると、玄関かな」


 三人は顔を見合わせると、玄関へ向かって走り始めた。


  *


 一方、女子寮では三階の廊下でヒトミとツクモが大蛇に攻撃を仕掛けていた。


「硬い、ですわね、この蛇さん……!」


 蛇の動きが遅いのが幸いし、ヒトミは一度もその牙を喰らってはいなかった。しかし幾ら刃を叩き込もうともその鱗には傷すら付けられず、ヒトミは焦りを感じ始めていた。


 白く光る牙からは黒い雫が滴っており、その牙に貫かれれば傷を負うだけでは済まないだろう事は明白だ。ヒトミは踊るように二本の剣を繰り出し続けるが、硬い鱗は金属音を響かせるのみでダメージを与える事は困難に思えた。


「ヒトミねえさま、合図したら離れて下さい! あたしがやってみます!」


「分かったわ、ツクモちゃん!」


 不意のツクモの呼び掛けにヒトミが叫んだ。


 ツクモの身体から一気に霊気が放出され、燐光が周囲に満ちる。その姿が光り始め、そしてツクモの頭に狐の耳が、尻には六本の尻尾が姿を現す。何故かその身に纏うのは、女子軟式野球部のユニフォームだ。


「行きます、ヒトミねえさま!」


 ツクモの合図を受け、ヒトミが転がるように後退した。入れ替わるように二歩程踏み出したツクモが、その瞳をオレンジに輝かせながら両手をかざす。


「出力全開っ! 一斉照射っ、『猛狐炎舞<モウコエンブ>』っ!」


 ツクモの周囲に六匹の炎で出来た狐が現れ、一直線に大蛇へ向かって飛び掛かってゆく。


 五匹の炎狐はその身を燃え上がらせながら蛇に取り付き、その瘴気を、鱗を焼き焦がし、そして残りの一匹が大蛇の口の中へと飛び込んだ。


「グ、ガアアアアアアッ!」


 大蛇は凄まじい叫びを上げながら激しくのたうち回る。体内から焼かれる苦痛に身をくねらせ、しかし炎狐は蛇に喰らい付いたまま蛇にダメージを与え続けている。


「今です、ヒトミねえさま!」


 振り返ったツクモがヒトミを呼ぶ。──当然ヒトミとて、この好機を逃すつもりは無かった。


 ヒトミの全身が白く輝いている。その姿は先程までの部屋着とは違い、純白に赤い縁取りの施された軍服に変わっていた。


「『鶴姫』、顕現! 参ります!」


 ヒトミの姿が一羽の白い鶴が飛ぶが如く、純白の光となる。二本の剣は軌跡を残しあたかも翼めいて、凄まじいスピードで大蛇へと迫る。


「滅びなさい、──『武鶴飛翔<ブカクヒショウ>』っ!」


 羽ばたく鶴の翼が蛇の首を貫き、──そして椿の如く、その頭がゴトリと落ちた。


 剣を振り抜いた姿勢で膝を突いていたヒトミが立ち上がり、ゆっくりと振り返った。大蛇は咆哮すら上げる事も無く、その大きな身体がゆっくりと、ゆっくりと光の粒子となって崩れてゆく。


「やった! やりましたね、ヒトミねえさま!」


 ツクモがヒトミに走り寄る。胸に飛び込んで来たツクモを抱き留め、二人は蛇が消えゆくさまを見守った。


  *





男子寮組がトロトロしてる間に、女子寮組が大蛇を撃破!

出し惜しみせずに最大火力で一気に攻めたのが勝因ですね。

ヒトミさんの変身も出したし、ツクモちゃんもキツネになりました。

ヒトミさんの鶴姫とは、『戦国のジャンヌダルク』と言われる、悲劇の姫巫女武将である鶴姫のことです。また作中に詳しく出てくる予定です。

そしてツクモちゃん、九尾の狐ならぬ六尾の狐です。まだ三本足りない!


さあ次こそは男子寮組が攻勢に打って出ます。乞うご期待。



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