相談事と、みつどもえ
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今回のお話はオマケ的な小話を二本です。
どちらもライジンが主役。と言ってもライジンは踏んだり蹴ったりです。
何だか気苦労が絶えません。そんなお話。
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その日、ライジンは真剣な表情でカラハと向かい合わせに座っていた。場所は部室だ。ご丁寧に入室禁止と防音の結界装置まで作動させている。
「で、相談て何スかライジン先輩」
「カラハっち、君のその女たらしな部分を見込んでだね、アドバイスを貰いたくてねっていう」
「なんかナチュラルにディスられてるんスけど俺帰ってイイっスか」
「あー待ってゴメン謝るから待って話聞いて」
「で。相談て何っスか? 別に俺そんな女口説くのとか得意な訳じゃねェっスよ」
「いや君が得意じゃ無いとか言ったら世の中の男性の大半が壊滅的って事になると思うんだけど」
「だって俺、別に口説いてねェっスよ。女が勝手に寄って来るんスよ」
「……ああ」
「で? 俺の事はイイっスから。話の続きしましょうや」
「あ、ああ。えっとね。その、イズミちゃん先輩との事でね、ちょっと悩んでて」
「はァ? 夫婦喧嘩は犬も喰わねェって言うじゃないっスか。巻き込まんで下さいよ」
「待って夫婦って何それ俺っちら別に付き合ってなんかないから」
「アッハイそーいう設定でしたっけねー」
「何その棒読み口調!? そんなんじゃないから俺っちら別に付き合ってないからマジだから!」
「ハイハイ。で? 悩みって何スか?」
「……。うん、あのね。えっと、イズミちゃん先輩とその、お、お出かけしたいんだけど、どこがいいかなって」
「あーデートっスかイイっスねー」
「ちょっと何でそんな投げやりなの」
「えー? あーいやそんなつもりじゃないっスけどね。そう聞こえたんだったらすんませんねー。で? 何スかどういうトコ行きたいんスか」
「俺っちとしては、それなりにロマンティックなトコとか行きたいんだよね」
「そんなら手っ取り早く水族館とかどうスか。鳥羽水とか」
「実はこないだ行ったんだ」
「イイじゃないっスか。で、どうだったんスか?」
「おいしそうとしか言わなくてね」
「……ああ」
「なもんで東山動物園も考えてたけど諦めたんだよね」
「そうスね、きっとその方がイイっスよ。じゃあテーマパークとかは」
「この辺だとどこがいいかな」
「やっぱパルケじゃないスかね、スペイン村。他は忍者村とか、明治村なんてのもありますけど」
「パルケか、いいね。あ、でも俺っち絶叫系駄目なんだよね」
「アンタ空飛べるのに何でジェットコースターは駄目なんスか」
「や。ホラ自分で飛ぶのと強制されるのは違うっていうか」
「じゃあ遊園地も駄目スかねえ。もういっそベタにオサレで豪華なディナーとかでイイんじゃないスかね」
「やっぱそう思うよね」
「思うっスよ。あんだけゴハンに反応する人なんだし」
「でもね、テーブルマナーとか面倒じゃない?」
「そんなん言い出したらキリ無いじゃないっスか」
「それにイズミちゃん先輩、多分足りないんじゃないかなって」
「量が?」
「うん量が」
「ならまあランチビュッフェって手もあるっスよ」
「ああいうトコってドレスコードとかあるでしょ?」
「そこまで気にする程は厳しくないと思うんスけど」
「流石にパーカーにスウェットじゃ駄目かなって」
「……ああ、そりゃ駄目っスね。じゃあいっそ、ショッピング行ってオサレな服買ってあげて、それ着ていくとか」
「……汚しそうで」
「…………」
「やっぱ難しいよね」
「ホントにデート行く気あるんスかアンタ」
「だって! イズミちゃん先輩だよ!?」
「確かに。焼肉食べ放題の店とかが一番喜びそうで考えるだけ無駄っつーか」
「でも連れて行きたいんだよ! わかるっしょこの気持ち!!」
「……めんどくせーなアンタ」
「めんどくせー言うな! アンタ呼ばわりかよ! 敬語使えよ!」
「俺思うんスけどね」
「何?」
「先輩らってもう、そういう次元超えてると思うんスよ」
「どういうこと」
「ライジン先輩ってもう教授とかにまでイズミ先輩のお世話係認定されてるじゃないっスか」
「……ま、まあそうだけど」
「もうそれって、結婚とか何とか通り越してるっつーか」
「え」
「もうそれって、介護じゃないっスか」
「介護」
ライジンは真顔になった。沈黙が流れる。
「……じゃア俺そういうことで。お幸せに」
「……介護……」
固まったままのライジンを残し、カラハが部室を出てゆく。パタンとドアが閉まる。
「……」
ライジンは無言で机に突っ伏した。
***
ある日の午後、ライジンは大學の図書館二階の奥で課題に勤しんでいた。イズミはゼミに出席している。イズミを待っている間はいつも、こうして時間を潰すのが日常だった。
ひと段落ついて伸びをした時に、知っている顔が目に付いた。
「あれ、あれってナユタっちの後輩の……確か猪尻君だっけ」
見ると猪尻が国学の棚のあたりで本を探していた。確か彼は国文学科だった筈だ。課題を片付ける為に資料を探しに来たのだろう。
そのまま眺めていると、今度は寮生長がやって来た。
「今度はパパっちだ。パパっちは国史だよね確か」
寮生長も国学の棚を眺めている。見ていると、二人は本を探しながらじりじりと近付いてゆく。どうやら二人はお互いの存在に気付いていないようだ。
と、二人は本を見付けたようで、同時に棚に手を伸ばす。
「あ」
二人は同じ本の背表紙に手を掛けていた。二人は顔を見合わせる。
「あの辺りは確か、本居宣長関連のが並んでたっけ。国文でも国史でも本居宣長やるもんなあ」
どうするんだろうとそのまま眺めていると、二人はお互いに本を譲り合っている。
「……」
声は聞こえないが、どちらも遠慮しているようだ。どうぞどうぞ、いやいやそちらが、といった感じの遣り取りをしているだろう事が身振り手振りで分かる。
「じ、じれったいな……」
何だか見ているこっちも落ち着かない。どうしたものかと思いながらそのまま見守っていると、また新しい人物がやって来た。
『お、パパに猪尻やん! こんなとこで会うなんて奇遇やな!』
宮元が二人に挨拶しながら近付く。声がデカい。ライジンにまで喋る内容がバッチリ届く程の声量だ。
「声デカいってよ宮元君! 図書館なんだから声控えようってばよ!」
思わずツッコみながら見守るライジン。
『何や二人ともその本が要るんか! ワイも丁度それ探しに来たトコや!』
「お!? そうか神道でも本居宣長やるんだっけ、宇比山踏とか」
新たな展開だ。どうなることかと眺めていると、二人の話を聞いたらしき宮元がはははと大声で笑った。
『それやったらこの三人の内の誰かの名前で借りて、寮で皆で見たらエエやんか! 寮やったらコピーもすぐ出来るやん! それに今、他にもその本使うヤツ、寮におるはずやで絶対!』
話は纏まったらしい。声と足音が遠ざかる。遠くにちらりと見えた三人は笑顔で一階へと揃って降りてゆく。
「……」
事態はマルク収まったようだ。ライジンは胸を撫で下ろして息をついた。
「……何で俺がこんなドキドキしてるんだろう。当事者でもないのに」
ライジンは真顔になった。とても釈然としない気分だった。
「……さ、続きやるか」
気を取り直し、ライジンは課題の続きへと取り掛かったのだった。
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純粋にギャグ的なだけの話を書くのは自分にしては珍しいというか。
どちらのお話もコント的な感じで書いてみました。
前半はたまたまオチを思い付いたので、書いてみた次第。
後半の話は以前ネタの元を頂いたので、それを元に膨らませて考えてみました。
どっちもライジンが可哀想なやつです。ほんと気苦労が絶えません。
そんな感じで、幕間章もこれで終了。
少しお時間を頂いてから、次からは二章に入ります。
乞うご期待。
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それと、現在新しいスピンオフ作品を裏で連載しております。
もし興味を持たれましたら探してみて下さい。
今後とも宜しくお願い致しますです。
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