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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
幕間一:或るありふれたライオット
56/97

入寮祭と、恋しぐれ:そのに


  *


 あれだけウケた後だと、どれだけ出来が良くてもどうしても見劣りしてしまうものだ。昔話をパロディ化したコメディ劇、物真似を中心にした歌とダンス、シュールなコントなど、どれも面白かったが今一つ物足りなさを感じながら、演目は進んでゆく。


「お、やっとツクモの出番だなァ」


「何するんだろ。ツクモちゃん楽しみだね」


 舞台上では文化幹事の呼び込みで貞華寮二班の一回生が音楽と共に登場した。その姿はヒラヒラのミニスカートにカラフルなニーソックス、頭にはピンクや水色のパーティウィッグまで被っている。皆、少し恥ずかしがりながらも精一杯の笑顔を弾けさせていた。


 男子共からは『オオーッ!?』というどよめきが起き、女子勢からは『可愛いー!』『頑張ってー!』などの声援が飛ぶ。一気に会場のテンションが上がったのが感じられた。


 それは、テレビで大人気の女児向けアニメ『キラ星アイドル☆スタードロップ!』のコスプレだった。


 この作品は様々な星からやって来たお姫様達が、アイドルを養成する中学に通いながら不思議な力で変身し、宇宙を侵略しようとする悪の組織と戦う、という色々と設定てんこ盛りかつあざとい内容である。小さなお子様から大きなお友達まで夢中にさせる、国民的とも言える程の知名度を誇るシリーズ作品だ。


「凄ェなどれも可愛いぞ。えっツクモどれだ? カツラ被ってるから分かんねェ」


「ツクモちゃんホラあれだよ黄色の子、ケモミミの衣装の。あー凄いな可愛い似合ってる」


 アニメシリーズ第一作の主題歌を歌いながら一所懸命に踊る姿はとても愛らしく、手拍子やら声援やらかなりの盛り上がりを見せている。多数いるキャラの中でもそれぞれイメージに合うものを選んで仮装しているせいか、みんなとびきりに可愛く見えた。


 主題歌が終わり大喝采の中、少しの寸劇の後、今度は同じ歌を使っての替え歌が始まった。ところがその歌詞が──。


 『オトメのホント 教えちゃう!』のフレーズから始まった内容は、女子寮の赤裸々な実態を暴露するようなものばかりだったのだ。


 アイドルソングにのせて『週に一度は鼻パック』『悩みの定番ニキビと便秘』『二言目には「カレシ欲しい」』『寮ではいつもイモジャージ』『眉なしすっぴんは秘密なの』『お風呂の順番争奪戦 並ぶお尻は見ちゃダメダメ』『ダイエットなんてそっちのけ 美味しいおかずはおかわりだ!』……などなど、女子が知られたくない、そして男子が知りたくないようなフレーズのオンパレードだったのである。


 最後に『だけどもやっぱりオトメなの! だってわたしは女子寮生! イエーイ☆』で締めくくられた歌は、とても上手だった。相当練習したに違い無い。


 大喝采だった。本日一番の盛り上がりだった。そして審査結果が発表される。


「出ました! ……なんと男子寮役はオール優、女子寮役がオール退寮です!」


「女子寮寮生長の清木場さん、是非コメントを」


「彼女達はタブーに触れました」


 皆、やりきった顔をしていた。とても笑顔だった。そして彼女達は伝説になった。


  *


「ねえナユタさんカラハさん、うちのツクモちゃん観て下さいました? 可愛かったでしょ、可愛かったですよね!」


 並んだ座席の一番端、通路側の席に座っていたナユタに不意に話し掛けて来たのは、二回生で同じ術者仲間であるヒビキ・ヒトミであった。彼女は同室の後輩であるツクモを溺愛しており、先程のツクモについての感想をナユタ達とも共有したかったようだ。


「ええ、よく似合ってましたね、可愛かったです」


「歌もダンスも良かったよなァ。何より内容も面白かったしな」


 ナユタとカラハの言葉に、ですよねですよね、とヒトミは満面の笑顔だった。本当にうちのツクモちゃん可愛くて、と尚も嬉しそうに語るヒトミの様子に、ナユタは「そんな風に喜ぶヒトミさん自身が可愛い」などという言葉が出そうになったが、ギリギリのところで思い留まった。


 カラハはナユタのヒトミへの気持ちにどうやら勘付いているらしく、ニヤニヤと笑いながら言葉は少なめで、そんな相棒の様子にナユタはありがたく思いながらも少しばかりうざったい物を感じた。ありがた迷惑ってこういうのを言うのかなあ、などと頭の片隅で思いながら。


 ひとしきり喋った後に、ヒトミはまた元居た席へと戻って行った。ナユタはふうと溜息を吐く。話をすること自体は嬉しいが、やはりどうしても緊張してしまう。


 カラハと出会うまでは術者としてのナユタのパートナーはヒトミであり、そういった際の意思疎通はスムーズに行われていた。が、それとこれとは話が別なのだ。恋心とは難しいものなのだ。


「カラハ、ちょっと僕トイレ行って来るね」


「おー、いってら」


 ナユタは一言告げると立ち上がり、足早にホールを抜けてトイレへと向かった。プログラムによるともう少し後、出し物が半分程終わったところで少し長めの休憩があるが、その時にはトイレはかなり込む筈だ。それを見越して、込んでいないだろう今の内に行っておこうという魂胆だった。


 案の定空いているトイレで用を足し、やっぱり早めに来ておいて良かったななどと悠長に手など洗っていた時に、異変は起きた。


 数人の男子寮生が連れ立ってトイレに入って来た。ちらりと顔を確認するが、神道学科以外の科だったり離れた班だったりと、ナユタにとってあまり面識の無い者ばかりだ。


 彼らはナユタを見付けると顔を見合わせ、そしてトイレから出ようとしたナユタを取り囲んだ。その目はギラギラとしており、口許には友好的とは思えない類の笑みが浮かんでいる。


 派手目で声の大きい彼らは、所謂陰キャのナユタとは真逆のタイプの人種だった。思い返しても接点は見付けられないでいる。彼らの自分に対する目的が全く読めないまま、ナユタは取り敢えず事を荒立てない方向で突破を試みることにした。


「あの、ちょっと。……すまないけど、通してくれないかな」


 試みは無駄に終わったようだ。ナユタの言葉に彼らはますます包囲を狭め、そして一人がおもむろにナユタの肩を抱いた。別の寮生が空いているナユタの腕を掴む。


「アラタ・ナユタだよな。ちょっとよ、お前に用があるんだけどよ」


「俺らと来てくんねえかなあ。手間は取らせないからさあ」


 もう一人が背中を小突いた。どうやら全部で三人のようだ。


 ナユタは少しばかり考えを巡らせた後、もはや抵抗を諦める事にした。体術に自信の無い自分では、三人相手だと逃げ出すだけでも困難だ。


 やれやれと内心で溜息を零しながら、ナユタは大人しく彼らの言いなりになることにしたのだった。


  *





続きます。


実は昔、セー○ームー○で似たようなことやらかした班がありましてね(遠い目




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