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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
幕間一:或るありふれたライオット
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入寮祭と、恋しぐれ:そのいち



入寮祭とそれにまつわるごたごたの話です。





  *


 昼食後、ナユタの淹れた昆布茶を啜りながら猪尻が溜息をはぁーっと大きく吐いた。


「何んで入寮祭って、一回生が出しモンやるんすかね? 普通は逆だと思うんですわ。だってそうやないですか、普通は一回生に入寮おめでとさんって二回生が何んかしてくれるモンでしょ」


「……猪尻君の言いたい事はもっともだと思うよ? 思うけどね」


「けど何ですのん、アラタ先輩」


「この大學とこの寮に『普通』を求めるのは間違ってると思うんだよ、僕はね」


「そんな遠い目をして言わんで下さい。悲しゅうなります」


 そしてナユタと猪尻は同時に乾いた笑いをはははと零した。


 そう、今日は入寮祭である。


 入寮祭とは何か。それは寮生同士の親睦を深める為に、一回生が班ごとに出し物をし、それを皆で観るという男子寮女子寮合同の行事である。土曜日の夕方に記念講堂で行われ、そしてオマケのように夕食がやや豪華になる。


 猪尻の疑問はもっともだ。何故歓待される筈の一回生が出し物をしなければならないのか。一説には、出し物の練習を通して班での親交や結束を深める為と言われている。しかし本当のところは誰も知らない。一回生がやるのが慣例であり、それはこの大學における上下関係の理不尽さを如実に表しているとも言えよう。


 何はともあれ、祭は祭だ。楽しんだもの勝ちなのは間違い無かった。


  *


「はいそれでは始めたいと思います!」


「では誠道寮一班の皆さん、どうぞー!」


 男子寮女子寮両方の文化幹事が司会進行を務め、壇上には寮役が審査員として席に並んで座っていた。審査員の寮役は九名。それぞれの寮の寮生長と副寮生長合わせて三名ずつと、文化幹事・総務幹事を除いた美化幹事二名と風紀幹事の三名である。風紀幹事は男子寮のみの寮役である為にこのような構成になっているという次第だ。


 これから男子寮全十一班、女子寮全六班の一回生がそれぞれ順番に出し物をしていくのだ。期待に否応にも場は盛り上がる。


「二班だから猪尻はこのすぐ次だな。そいやツクモって何班だっけか?」


「確か二班だよ。でも男子が二組やってから女子が一組って交互にやるから、順番としては六番目になるかな」


 カラハの問いにぼそぼそと小声で答えながら、ナユタは登場した一班の一回生へと拍手を送った。同じ階なだけあって知っている顔も多い分、観る方にも気合いが入る。


 内容としてはショートコント集のようだ。よく出来てはいるものの、残念ながら優勝する事は無いだろうとナユタは思う。トップバッターに対しての評価が厳しいのはどんなコンテストにも言える事で、一班である彼らはそういう意味では不運だった。ただ、場を温めるには充分な面白さはあった筈だ。


「それでは寮役の皆さん、審査結果をお願いしますー!」


 文化幹事の合図で寮役がフリップを出した。評価は大學の成績になぞらえて『優・良・可・不可』と、それに加えて最低評価を示す『退寮』の五段階だ。


「ああ、優、良、可、可、良、優、可、良、可! 最初だからでしょうか、辛めの評価が目立ちます!」


「それではタカサキ寮生長に聞いてみましょう。どうでしたか一班は」


「えー、トップバッターで緊張してると思うのですが、よく頑張っていると思います。個々のネタが独立しているようで繋がっている構成、よく練られてますね。大変面白かったです」


「なかなか高評価ですね!」


「はい、次の準備が出来たようです! それでは誠道寮二班の皆さん、どうぞー!」


 一班の持ち時間は最大七分。挨拶や間に挟まれる休憩時間などを含め、二時間半の長丁場だ。


「猪尻君、何やるか僕にも教えてくれなかったんだよね。何やるんだろ、楽しみだなあ」


「おッ、出て来たぞ。って、……何だありゃ?」


  *


 軽快な音楽が流れ、二班の一回生達が飛び出して来た。何やら特撮の戦隊ヒーローのような衣装に身を包み、それぞれにポーズを決めている。どうやら戦隊もののパロディをやるようだ。


『我ら、皇国を護正義の使者! 皇圀戦隊、神社マン! 参上!!』


 会場がどっと湧く。有名な戦隊ヒーロードラマの主題歌に合わせ替え歌が合唱され、大爆笑が重なる。


『ジンジャレッド!』『ジングウブルー!』『アツタグリーィィン!』『イナリイエローや!』『ハチマンブラァァック!』『コンピラピーンク!』


『待て、おかしいぞ! 俺達は五人の筈だ! 何故六人いる!?』『敵が混じっている! 誰だ!』


『分かったぞ、敵はレッド、お前だな! 赤は敵の色だ! 正体を現せ!』


『くくく、よくぞ見破ったな! そう、吾輩は秘密結社レッドフラッガーの幹部、サン・ソー・アサーマだ! 食らえ、ゲバボー・アタック!』


 舞台上で繰り広げられる激しい戦い、善戦する神社マン達。だが敵の怪人カク・マールやチュー・カークも攻撃に加わり、やがて一人、また一人と倒されてゆくヒーロー達。


『ハハハ、どうした神社マン! お前たちの護国の力はその程度か! これならば皇国が我々によって赤く染め上げられる日も近いな!』


 危うし神社マン! しかしその時、黄金の光が神社マン達を照らす。現れたのは金色のスーツに身を包んだヒーローの姿。


『待てレッドフラッガー! お前達の悪事もここまでだ!』


『な、何! 誰だお前は!?』


『私の名前はイヅモゴールド!』


『おお、お前は伝説の追加戦士……!』


 再び立ち上がる神社マン達。六人の力を合わせ、レッドフラッガー達を追い詰めてゆく。そしてとうとう巨大な大砲を幹部に向かってぶちかます。


『とどめだ! ライトウイング・バズーカァァァ!』


『ぐわああああ!』


 最後は会場の皆からの皇国パワーを集めた必殺技で無事敵を倒した神社マン達。しかし今回は幹部を一人倒したに過ぎない。神社マン達の皇国を護る戦いはまだまだ続くのであった……。


  *


「はーいお疲れ様でしたー! 誠道寮二班の熱演が終了しましたー! それでは審査員の皆さん、評価をお願いします!」


「出ました、優、優、良、優、優、優、良、優、優! おおっと、これはかなりの高評価です!」


 審査員の両役も皆肩を震わせて笑っている。客席からは拍手と歓声が鳴りやまない。


 カラハは腹を抱えてゲラゲラ笑っており、ナユタは余りの内容に頭を抱えていた。壇上では意見を求められた宮元が、マイクに向かって絶叫していた。


「このアホンダラどもが!! お前ら最高やな!!」


 会場は再度、大爆笑に包まれたのだった。


  *





続きます。


※特定の思想・団体を揶揄する意図はございません。この物語はあくまでフィクションです。

※愛○戦隊大○本は元ネタではありません。



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